青い鳥のいる部屋 7
今日も講座が終わって、由貴子先生と世間話をしながらロビーにきたら、加藤がロビーのソファーにふんぞり反って座っている。
僕らに気がつくと大きく手を振ってきた。
奴の目当ては由貴子先生らしい。彼女がいるくせに調子のいいヤツめ。
「由貴子せんせ~い!」
由貴子先生が加藤に気がつく前に、加藤の前のソファーから、声がかかった。
同じ講座を受講している高校生の菜穂ちゃんだ。
「あら、菜穂ちゃん。美鳥さんも。こんにちは」
加藤が、ガッカリした顔でこっちを見ている。
「じゃあ、僕はこれで」
「川相さん、いいのが書けたら、教室でも披露して下さいね」
由貴子先生がにっこり笑って声をかけてくれる。
菜穂ちゃんと一緒にいる女性も、恥ずかしそうにこちらを見ている。
彼女は確か以前に、講座の見学に来ていたな。優しそうな印象の女性だ。歳は僕らと同じくらいだろうか…。
講座は受講しないのかなぁ…。
彼女に会釈をして歩き出す。加藤が後ろから付いてくる。
「一馬さん、歩くの速いですよ。なんかいい雰囲気の女の人がいましたねぇ」
「加藤、お前調子よすぎ」
「え、そうですか?」
「由貴子先生と仲良くなりたいなら、お前も辞めないで受講してたらいいだろう」
「やぁ、先生と生徒ってのはどうも…。いいんですよ。一馬さんって共通の友人がいるから。それより、新曲出来そうですか?」
少し呆れながら加藤の顔を見たが、本人は全然気にしていないようだ。
「まぁ、ぼちぼちな」
「来年の秋にはライブやりたいって、鈴木さん言ってましたよ。早めに作って練習しないと…」
そういうお前はどうなんだ、という言葉をグッと飲み込んで
「心配しないでもちゃんとやってるよ」
と言った。
実際、いくつか曲に出来そうな詞も書けているし、音のイメージもいくつかある。
加藤の言い草じゃないけど、そろそろ本気で作ってみようかなと思う。
講座での作詞とブログでの詩と…少しずつだが、曲をつけることを意識して作り始めた。
加藤は相変わらず、ちょくちょくとセンターのロビーにやってくる。よくセンターの職員があいつを追い出さないものだ。
「一馬さん、曲作り進んでますか?」
「まぁな」
ただ、このところ作る歌詞が、まだ見ぬあの娘に向けて書いたものが多くて、講座でもブログでも、すっかり僕はロマンチストだというイメージが定着してしまった。
講座も女性の受講生が大半だが、ブログのほうもコメントを残してくれるのは、圧倒的に女性が多い。
特に“詩”については、ほぼ100%女性だ。
特によくコメントを入れてくれる人は、何人か決まっている。
一番コメントを入れてくれるのは、ブログを開設した当初からカキコんでくれている“華”さんで、彼女は感性の豊かな人だ。
ときどき自分でも気付いていないようなことをズバッと指摘してきたりしてドキッとさせられる。
それから“タマコ”さん、猫好きな彼女にかかると、僕のラブソングも猫視点で語られる。
他にも何人か定期的にコメントを入れてくれる人がいる。
そんななかで最近、気になり始めた女性がいる。“青い鳥”さんだ。
最近になってよくコメントを入れてくれるようになった“青い鳥”さんは、どこか控えめで…僕があの娘にこの詩を捧げたら…こんなふうに言ってくれないかな、と思っているものにピッタリとはまっているのだ。
思わず、君が僕のあの娘なの?と聞いてしまいたい衝動にかられそうになる。
彼女はどんな女性なんだろうか…。
彼女のブログを覗きに行ってみると、書庫の種類など、僕と共通するものが意外に多い。
日記・映画・本・美味しそうなお菓子…そしてポエム。
彼女の書くポエムは、どれもほんわかとしたイメージの…優しい言葉で綴られている。
何回か読んで、気に入ったものは、思わず覚えてしまった。
僕もなるべく、感じたことを素直に、コメントしてから帰る。
それに対して、彼女がなんてレスを入れてくるのか…ちょっと気になってる。
彼女がどう思っているかはわからないけれど…学生の頃のように、そんなことでドキドキしている。
まるで好きな娘のことが、気になって仕方のない少年のような気分だ。
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