童話の部屋*ゆめいろ雑貨店

ゆめいろ雑貨店 1

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そのお店は、いつもの駅に行く途中にある『夕焼け公園』の中の、いくつかある遊歩道のはずれにありました。

『夕焼け公園』というのは、のぞみが自分でつけた名前です。

のぞみがその公園を通るのは、たいてい夕方でとてもきれいな夕焼けを見ることができるからです。

その日も夕焼けがきれいな『夕焼け公園』の中を、のぞみはただぶらぶらと歩いていました。

だから、どの道を通ってお店の前に行き着いたのか、あとになって考えるとはっきりと思い出せそうもありません。

とにかくのぞみは、気がつくとそのお店の前に立っていました。

お店はとてもこじんまりとしていて、でもいろいろな色があふれていました。

最初に目に飛び込んできたのは、柔らかい若葉のような…優しいみどり色のテーブルクロスでした。

テーブルの上には、涼しげなガラスのお皿がのっています。

その澄んだようすはまるで早春の小川のせせらぎのようです。
 
テーブルの向こう側の壁には一枚の絵がかかっています。

もしかしたら絵ではなく写真なのかもしれません。

それは、とてもよく晴れ渡った春の青空みたいです。

そのほかにも、たんぽぽのほわほわしたみたいな黄色のランチョンマットや、さくらのはなびらみたいなティーカップやら…いろいろな色がお店にありました。

「こんなところにこんな可愛いお店があったかしら…」

のぞみがそのお店に近付いていくと

「いらっしゃい!お嬢さん」

いきなり話しかけられました。

でもどこから誰が話しかけてきたのか、すがたが見えません。

「あら?私の気のせいかしら?…いま話しかけられたような気がしたど。」

「やぁ~ですねぇ~…あたしが話しかけましたよ」

のぞみがお店の中をよく覗いてみると、奥の小さな椅子の上に小さなうさぎがちょこんと乗っています。

「まさかこのうさぎが話しかけたりするはずはないし…」

「うさぎが話しかけたりしちゃいけませんか?」

「!?」

のぞみはほっぺたをつねってみました。

それから、両目を手のひらでこすって、もう一度小さな椅子の上をよく見ました。

「やだなぁ~!そんなに見つめられたら…照れちゃいますよぅ」
 
信じられないことですが、確かにこの小さなうさぎがのぞみにむかってしゃべっているようです。

「だから、恥ずかしいですよぅ。それよりお嬢さんは何か気に入ったものは見つけられましたか?」

「ごめんなさい。びっくりしてしまって…。それじゃこのお店はあなたのお店なの?このお店の人?」
 
うさぎはぴょんと椅子から飛び跳ねて降りると

「いやだなぁ~お嬢さん。あってるけど、違ってますよぅ。このお店は、そりゃあたしの店です。でも、あたしはこれでも、 れっきとしたうさぎですよぅ。人じゃあありませんよぅ」

ぴょんぴょんと跳ねながら言いました。

「ごめんなさい。うさぎさん。とても素敵なお店ね」

「ありがとうございます、お嬢さん。あたしはチャーリーっていいます。自慢の店なんですよぅ。だから、きっとお嬢さんの気に入るものが見つかりますよ!」
 
確かにお店の中にあるものは、どれものぞみが気に入りそうなものばかりです。

うさぎのチャーリーは得意そうにハナをピクピクさせながら、のぞみの手をひいてお店の奥の使い込まれた飾り棚の前まで連れて行きました。

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ゆめいろ雑貨店 2

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うさぎのチャーリーに連れられて入っていったお店の奥には、いい感じに使い込まれた飾り棚がありました。

飾り棚の中にはいくつものガラスのビンが並んでいて、それぞれにキラキラと輝いています。


お店の中には、おもてから見たときよりも、たくさんの色があふれかえっています。

のぞみは思わずとても、ドキドキとワクワクとしてきました。

どの品物を見ても、とても自然に優しい色あいで、こんなにきれいな色のテーブルクロスやらランチョンマットやら、ティーカップやらを見たことはありません。

 
のぞみが、とてもきれいなオレンジ色のキャンドルを手に取ってみていると、チャーリーがあたたかな湯気のたった、たんぽぽ色のティーカップを運んで来ました。

「まぁ、お嬢さん。こちらに来てたんぽぽのお茶でも召し上がれ。とても気持ちがほわほわってしてきますよ。

それとも、若いお嬢さんには、やっばり幸せの香りのピンクのバラ茶の方がよかったですかねぇ」

のぞみはたんぽぽのお茶を飲むのなんて、初めてなので、いったいどんな味がするのかしら と思いました。

すると…それは本当にほわほわっとした気持ちになれる味でした。

からだの奥のほうのイヤな気分が、す~っとぬけていくようです。

そういえば、のぞみのからだの奥にあった、辛い気持ちも少しやわらかくなっているようです。

「お嬢さんはどんなものをお探しなんですかぁ?」

「特に何かを探してるわけじゃないの…」

「いや~、お嬢さんは何かを探してるから、このお店に来たんですよぅ。何も探してない人は、このお店にはこら

れません。そして、必ず何かお気に入りを見つけて帰れますよぅ」


のぞみは何かを探してるのでしょうか?

そんな心当たりはありません。

それに、いまののぞみには、のんびりお買い物をする気持ちの余裕もありませんでした。

月末までに頼まれている小さな絵を、仕上げなければならないのに、思ったような色を描くことが出来ずにいたのです。


でも、このお店にある品物たちを見ていると、不思議と絵のイメージがわいてきました。

「こんなにきれいで優しい色をした、小物雑貨を見たことがないわ。この品物たちはチャーリーさんが探して来たんですか?」

のぞみがそう聞くと、チャーリーはちょっと得意そうにハナをピクピクさせながら

「えぇ!そうですとも!みんなあたしが探してきましたよぅ。」

と言いました。

「このテーブルクロスは、まだ春がやって来たばかりの風の原に行って、朝露に濡れながら採ってきたんですよぅ。」

「風の原?そこの植物で染めたのかしら?」

「いぇいぇ、違いますよぅ。風の原を採ってきたんですよぅ。」

それからチャーリーは、さらに得意そうに

「さっきお嬢さんが手にとっていたキャンドルは、夕焼け公園の展望台にはしごをかけて、やっと手にいれた夕焼けのきれはしで作ったんですよぅ。はしごから落ちそうになって、そりゃあ、難儀をいたしましたよぅ。」

「夕焼けですって!?」

チャーリーが言うには、このお店の品物たちは、みんなそうやってチャーリーが、あちこちから集めてきたもの

なのです。

真夏の太陽の光のカケラや、みどりの木もれ陽、まだ誰も足跡をつけていない雪野原…

そして壁にかかっている青空は、絵でも写真でもなく、本物の青空を切り取って額に閉じ込めたものでした。

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ゆめいろ雑貨店 3

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うさぎのチャーリーのそんな得意気な話を聞いていると

「チャーリーさん、こんにちは!」

と、声をかけられました。

「やぁ、バロンくん!元気になったかい?」

みるとそこには、まだ若そうな柴犬がいました。

「ぼくはいつでも元気ですよ!…元気がないのは、うちの大輔くんです。」

そう言うと、バロンは少し淋しそうにシッポをふりました。

「お母さんがいてくれれば、元気になると思うんですけど…」



バロンが言うには、お母さんはいま、田舎のおじいちゃんの家に行っていて、もう何週間も家に帰っていないので

す。お母さんはとてもカラダが弱くて、でも、家族の前ではいつも太陽のように明るく、あたたかい笑顔を見せてくれます。

大輔くんが元気がないのは、お母さんのそばにいられないからなのかなぁ~と、バロンは思いました。

「だから、ぼく、ここに来たんですよ!きっと、みんなが元気になれるものが見つかると思って。」



「じゃあ、バロンくん。きみが探してるのは、これでしょう。」

チャーリーは、飾り棚の一段目から、大きなガラスのビンを取り出しました。

中には、キラキラと光るビー玉のようなものが、ぎっしりとつまっています。

のぞみは、そのビー玉のようなものが何か、とても気になって、バロンより先に

「それは何かしら?」

と聞いてしまいました。

チャーリーは、ガラスのビンの中から、そのビー玉みたいな何かをいくつか取り出すと、白い小さな箱に入れました。

「これはね、お嬢さん。星のカケラですよぅ。ひとつひとつに特別な想いの雫をおとしてあるんですよぅ」

バロンのためにチャーリーが選んだ星のカケラには、“家族を大切に想う気持ち”とそれから…

「赤ちゃんの無垢な笑い声が入ってますよぅ。大輔くんはお兄ちゃんになるんですよぅ。」

「じゃあ、バロンくんのお母さんは、赤ちゃんを生むので里帰りをしていたのね」



なぁんだ、それなら大輔くんが知らないだけで、お母さんと赤ちゃんに会えれば、きっと元気になるんだわ。

と、のぞみは思いました。

「いぇいぇ、お嬢さん。それだけじゃないんですよぅ。」

のぞみが思ったことがわかったように、チャーリーは言いました。

「バロンくんが、大輔くんやお母さんのことを大切に想う気持ち…これが星のカケラにかかっている雫ですよぅ。

そして、大輔くんやお母さんもバロンくんを大切な家族の一匹として想ってるんですよぅ。それがなけりゃ、星のカケラもただのガラス玉みたいなもんです。」

「チャーリーさん、ありがとう!」

バロンは嬉しそうに帰っていきました。

「バロンくんが元気になって、よかったですよぅ。」

チャーリーも、ちょっと嬉しそうです。



「他にはどんな星のカケラが、あるのかしら?」

「そうですねぇ…。」

チャーリーは飾り棚から、ひとつひとつガラスのビンを持ってきて、説明してくれます。

「これはね、恋人たちのくちづけ…愛してるがいっぱい詰まってますねぇ。似たようなのに、初恋のときめきがありますよぅ。」

ピンク色にキラキラと輝いています。

「これは、未知の世界への好奇心と冒険。それから、こっちは、絶望と涙の雫ですよぅ。でも、ひとすじの希望が

ブレンドされてるんですよぅ」

私に必要なものは何だろう。

のぞみは改めて、星のカケラたちを見ながら考えました。

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ゆめいろ雑貨店 最終話

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「このお店には、そりゃあいろんな人が来ますよぅ。お嬢さんみたいな人間さんも来ますし、バロンくんのようなイヌさんも来ます。ネコさんも、小鳥さんも、虫さんだって来ますよぅ」

このお店を訪れる誰もが、何かしら探し物をしていて、チャーリーはそのお手伝いをするために、ここにいるのです。

「探し物はそれぞれに違いますよぅ。自分でわかってる人もいるけど、たいていはここでお茶を飲んで、あたしと話をして、お店の中を見てるうちに、見つかるんですよぅ」



小鳥さんは、きれいな声で歌いたいと、やって来ました。

聴いてくれる人や草花や友達への、優しい気持ちを声に込めることで、それは素晴らしい歌声になりました。

ネコさんは、あちこちを冒険したり、気になることが何なのか見つけられる、自由がほしかったそうです。

「それで、自由を手に入れたの?」

「自由はいつも責任ってヤツとセットになってるんですよぅ。そのネコさんは、ノラネコさんではなくって、飼いネコさんでしてねぇ。やっばり、バロンくんと同じように、家族を大切に思う気持ち も一緒に持って帰りましたよぅ」



のぞみはお店の中を、もう一度ぐるっと見渡して

「私に今、必要なものは何かしら?」

と考えました。

「お嬢さんがこのお店に来て、感じたことは何ですかねぇ」


…感じたこと。いろんなことがあるけれど、このお店に魅かれたのは、ここにある品物たちの“色”に魅かれたんだわ。

お仕事で絵に色を描いて、ありきたりの…これはこんな色っていうのしか描けなくなって…

「それはお嬢さんが、本物を見ようとしていなかったからですよぅ。余計なことを考えずにありのままに“もの”を

見てみればいいんですよぅ。」

そうなのかもしれない。私は絵を上手に描こう、人が気に入ってくれるかどうか…そんなことばかり考えていた。


「じゃあ、お嬢さんには、これを包みましょう」

チャーリーは飾り棚の中ほどにある、小振りのガラスのビンをおろしてきました。

ビンの中には色とりどりのビー玉のようなものが、ぎっしりとつまっています。

今度は少しだけ取り出すことはしないで、ビンごと青空いろの包装紙できれいに包みました。


「さぁ、出来ましたよぅ。この星のカケラには、美しいものを美しいと、そのまま感じる心が入ってますよぅ。

でも、それはお嬢さんがもともと持っている気持ちですよぅ。大切に育ててくださいねぇ」



気がつくとのぞみは、『夕焼け公園』の夕焼けの中に立っていました。

「夢だったのかしら…」

手元をみるとそこには、チャーリーが包んでくれた青空いろの包装紙をしっかりと抱いていました。



『夕焼け公園』から見る夕焼けは、本当にきれいです。

「なんか久しぶりにゆっくり夕焼けを見てる気がするわ」

この夕焼けをきっといつまでも忘れない、と、のぞみは思います。

そして、探し物がある人はいつの間にか、うさぎのチャーリーのお店に行き着くのです。

チャーリーがほわほわのたんぽぽ茶を入れて、待っている『ゆめいろ雑貨店』に…


    * * * 完 * * *

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