童話の部屋*みどりの森にいこう

みどりの森へいこう 1

Ill_tree01 1. 夏休み

小さい頃の記憶っていったい、いくつくらいからあるものなんだろう?

ぼくのいちばん最初の記憶は、まだヨチヨチと歩き始めたばかりの妹 花音(カノン)の手を引いている。

大きな木々をくぐりぬけたら…そこにはポッカリと青い空と草原がひろがっていて、ぼくの横を白い大きなイヌが駈けていった。そんな光景だ。

それは本当にあったことなのか、ぼくの夢の記憶なのかと…ときどきぼくは考えている。



「今年の夏は、久しぶりに長野のおじいちゃんの家に行くぞ」

父さんがテレビで野球を見ながらそう言った。

「長野に行くのは久しぶりねぇ。優太、あんた覚えてる?長野のおうち。広くて古くて、絶対おばけがでるって言って、一人で夜眠れなかったよねぇ」

からかうような口調で笑いながら言うのは亜希子おばさんだ。

 亜希子おばさんは、亡くなった母さんの一番下の妹で、うちから自転車でほんの10分くらいのアパートに一人暮らしをしている。

子供の頃から母さんのあとをいつもついてまわっていたから、父さんも亜希子おばさんを本当の妹みたいに思ってるみたいだ。


「それ、僕じゃないよ!花音だよ!きっと」

「花音じゃないもん!花音、おじいちゃんちに行ったことないもん!」

  ぼくたちがじゃれあっていると、父さんは笑いながら

「花音が赤ん坊の頃に行ったきりだからなぁ。おじいちゃんも、もうこっちに出て来るの大変だからな。」って言う。


 たしかに長野のおじいちゃんは、今年70才。今までみたいに都会に出て来るのは、疲れるんだろう。

「お父さんはまだ若いつもりでも、身体がついてこないからねぇ…」

「亜希子おばちゃんも一緒に行くの?」

花音がまとわりつくようにして、亜希子おばさんの顔を見上げて聞いた。

「そうねぇ。私もしばらく帰ってないし…8月なら、仕事もそんなに忙しくないし…行こうかなぁ」

「うん!亜希子おばちゃんも一緒に行こうよ!」

 花音はものすごく甘えん坊だ。

特に亜希子おばさんには、べったりだ。

まぁ、花音がまだヨチヨチ歩き始める頃には、母さんはほとんど病院にいて家にはいなかった。

だから、母さんの代わりに花音の面倒をずっとみていた亜希子おばさんを、きっとひよこが初めてみたものを親だと思うように、刷り込まれてるのかもしれない。

亜希子おばさんが一緒に行くって聞いたとたん、花音はもう明日にでも、おじいちゃんの家に行くみたいなつもりで、ウロチョロとしだした。

落ち着きがない。

「長野って…おじいちゃんのおうちって広いのかなぁ~。おばけがでるの?やだなぁ」

「あら、花音。もしかしたら、トトロみたいなのかもよ。」

「え~!トトロがいるの?じゃあ、マックロクロスケもいる?」

「トトロが本当にいるわけないだろう。そんなこともわかんないなんて、花音は子供だなぁ~」

「え~!トトロいないのぉ~」

「優太は夢がないわねぇ。いると思えばきっといるわよ。」

僕たちのやり取りを、ただ笑って見ていた父さんが

「じゃあ、いるかいないか、探してみればいいさ」

と言って、残ってたビールを旨そうに飲み干した。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森へいこう 2

Bd_tree4 夏休みに入って7月の間は、プールに行ったり、友達とサッカーをしたりして過ごした。

「優太は夏休みの宿題はもう終わったのか?」
 
終わってるわけがないじゃないか…と思いながら

「うん…あと半分くらいかな?」

と、言葉をにごしていると

「花音はもう終わったよ~!後は絵日記だけだよ!」

なんて言ってくる。
 
  小学2年生と4年生じゃ宿題の量が違うだろ!と思いながら、花音をにらみつける。

「おにいちゃんが、宿題やってるとこ、まだ見たことないよ!」

「失礼なやつだな!花音が見てないとこで、やってるんだよ」

「じゃあ、優太はあと何日くらいあれば宿題が片付くのかな?」

「う~ん…一週間か…10日か…15日……くらい…か・な?」

 だんだんと声が小さくなってくる。

「そうか…一週間後には、長野のおじいちゃんのところに行こうと思うんだが。優太だけ宿題が終わるまで留守番してるか?」

「え~っ!なんで僕だけ留守番なのさ!」

「そうか。父さんの休みが終わっても、優太と花音だけ、夏休み中残ってもいいように、おじいちゃんに頼もうと思ってたんだが。じゃあ、優太は父さんと一緒に帰ってくるか?宿題しなけりゃいけないからな」


結局、僕は頑張って一週間で宿題を8割がた終わらせた。

残りは、おじいちゃんの家に持っていって、終わるまで毎日午前中は宿題をする、って約束で留守番をしないでいいことになった。


お盆休みは道が混むからって、出発は真夜中だった。

父さんが一人で車の運転をするんじゃ大変だからと、亜希子おばさんも一緒だ。

途中、高速道路のサービスエリアで、何回か休憩をしながら、走っていったらしい。

花音だけじゃなく、僕もさすがに途中で寝ちゃったから…朝になって気がついたら、もうおじいちゃんの住む村まであと少しだった。


もうこの丘を越えると、村に入るっていう場所~大きな木のある丘で、僕たちは長い道のりの最後の休憩をとった。

「ここから見る、森の里村の景色はやっぱり最高ね!」

 亜希子おばさんが大きく深呼吸しながら言う。

となりでは眠そうな目をこすりながら、花音が真似をして大きく息を吸った。

「すごいね!みんなみどり色だよ!」

 確かに目の前に広がる村の大半が緑色だ。

「これって…みんな木なの?」

「そうよ。木がいっぱい集まって森をつくってるの。なんといっても、村の名前が森の里村だからね」

「じゃあ、あの森のどこかにトトロがいたりするのかなぁ~」

「だから、トトロなんて本当にいるわけないだろ!」

「う~ん…トトロじゃないけど、不思議なことは森の中にいっぱいあるわよ」


亜希子おばさんは大人のくせに、なんでそんなに子供みたいなことを考えるんだろう。
 
不思議なことなんて、あるはずないのに…

 
僕の考えが間違ってるなんて、この時僕は小指のツメの先ほども思わなかった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森へいこう 3

2. おじいちゃんの家

Midori01


おじいちゃんの家は、ものすごく広い。

うちの3倍くらいはありそうだ。

しかも全部一階で二階がない。こういうのを平屋っていうんだって。

フローリングの部屋は全然なくて、全部たたみの部屋だ。フスマを開け放すと、ものすごく大きな一つの部屋になる。

「昔は親戚が近くにたくさんいたからな。ことあるごとに、お互いの家に集まって、飯を食べたり、酒を飲んだり…いろんなことをするんだな。そんなときに、こうやって一つの大きな部屋にして使うんだよ」

こんな大きな部屋に、親戚中の人がたくさん集まるなんて…僕には想像もつかないや。

「お前たち、朝飯まだだろう。大したものは無いが、まぁ、腹はいっぱいになるだろう」

「すごぉ~い!」

「朝からこんなに食べられないよ!うちはいつも、朝はパンと牛乳だよ」

 テーブルのうえには、いろんなお料理が並んでいる。

でも、見るからにご馳走があるわけじゃない。

アジの干物や玉子焼きや納豆や、具だくさんのみそ汁だ。

「なんか旅館の朝食みたいだね」

「花音、納豆きら~い!」

「なんだ。花音は、納豆食えんのか?うまいぞ。からだにもいいしな」

「だって、ネバネバしてるもん。くさってるもん」

「花音の納豆ギライはお義兄さんに似たのよね。お姉ちゃんはちゃんと食べてたからね」

ひとしきり笑いあって時間をかけて朝ご飯を食べた。

 
こんなに大勢で朝ご飯を食べるなんて、初めてだ。
 
いつもは花音とふたりきりか、父さんが会社をお休みの日に3人か…たまに、亜希子おばさんが来て4人で食べることがあるくらいだから。

朝ご飯には、近所に住む遠縁の親戚だとかいうおじさんとおばさんと、おばあちゃんと…それから、花音くらいの女の子が一緒だった。

「もしかして、桃子ちゃん?幸夫さんとこの?」

「…うん」

女の子は、父さんのハトコにあたる幸夫おじさんという人の子供で、末っ子の桃子ちゃんだった。

「大きくなったわねぇ。今 何年生?」

「…3年生」

「じゃあ、優太と花音の間だな」

女の子…桃子ちゃんは、恥ずかしそうに僕たちの方をチラッと見ると、だまって下をむいてしまった。

「なんだ、桃子。いつものオテンバはどこにいったのかな?」

親戚のおじさんが笑いながら、桃子ちゃんの頭を、ぐりぐりっとなでる。

桃子ちゃんは、ますます下をむいてしまった。

「じゃあ、子供たちは、コジローの散歩に行ってきてくれるかな?食後の運動にちょうどいいぞ」

「コジローって?」

「コジローはうちのボスだな。」
 
おじいちゃんが愉快そうに笑う。

「コジローまだ元気なのね!もういい歳でしょ」

「コジローはね、秋田犬と何かの雑種の犬だよ」

「大きいの?怖くない?」

花音が好奇心いっぱいな顔で聞いた。

「…コジローは…怖くないよ。優しいよ」

さっきまで下をむいていた、桃子ちゃんが小さな声でそう言うと、花音にむかってにこっと笑った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森へいこう 4

Free_006_06 Free_006_07 Free_006_06_2 Free_006_07_2

秋田犬と何かの雑種だというコジローは、白くて大きかった。

きっと後ろ足で立ち上がったら、花音や小柄な桃子ちゃんよりも大きいのじゃないかな。

「本当に怖くない?」

「大丈夫だよ。コジローは優しいから。…コジロー」


僕たちが近付くと、からだを伏せていたコジローが、顔をあげて僕たちのことを見た。

「ほら、吠えたりしないでしょ。」

「ほんとだね。…コジロー」

コジローはとてもかしこそうだ。それに優しい目をしている。

「コジローって年寄りなの?」

「うん。人間の年でいうと、桃子のお父さんよりもずっと上なんだって。」

「そうなんだぁ…」


僕たちがコジローの前まで行っても、コジローは穏やかな目で僕たちを見ているだけだ。

 立上がりもしないし、吠えたりもしない。

「コジロー。今からお散歩だよ!」


桃子ちゃんがコジローの首輪に散歩用のヒモをつけた。

「本当はヒモなくても大丈夫なんだけどね。それじゃ花音ちゃん、怖いでしょ」

コジローはおとなしくヒモをつけてもらってから、ゆっくりと立ち上がった。

「花音、怖くないよ」

「じゃあ、広場に行ったら放してあげてもいい?」

「うん」


僕たちは3人と一匹で村の中を歩き出した。

村の中の家は、みんなおじいちゃんの家と同じように、広くて古い。

家のまわりには、塀はなくって、木が植えてある。

どこからがその家の庭かわからないけど、変な人が入り込んだりしないのかなぁ。

「小さな村だから、みんな家族みたいなんだよ。だから、知らない人がいたら、すぐにわかるよ」


少し歩くと、小さな川のほとりに行き当たった。

川の流れをさかのぼって、土手のうえの小道を歩く。


 コジローは、けっして走り出したりしないで、僕たちの歩くのと同じスピードで、僕たちの少し前を歩いている。

川の流れは速すぎず、けれどよどむことなくサラサラと流れている。

ときどき川面がキラキラっと光るのは、川に住む魚なのかな。

風がとっても気持ちがいい。

 なんだか空気の味も違うみたいだ。

 緑のにおいがする。


 しばらくは川に沿って歩いていく。

 川の先…奥の方にはひときわ大きな森がみえる。

「あの森って…丘のうえから見えたやつかな」

「村でいちばん大きな森だよ」

「トトロがいたりするの?」

「…トトロは見たことないけど…」

「ほら、みろ。だから、トトロなんているわけないだろう」

桃子ちゃんは、僕の方をチラッと見ると、何かおかしそうにクスッと笑った。


「何?僕なにかおかしなこと言った?」

「…そうじゃないけど。優太くん、むきになってるなぁ、って」

「むきになんかなってないさ。だって、花音が子供っぽいこというからさ」

「ふぅ~ん…」

 まだ何か言うのかと思ったのに、桃子ちゃんはそれっきり、何も言わずに、森とは反対の方へ行く道に入って

いった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森へいこう 5

 3. 森と野原       Pet_nohara02

しばらく歩くと、少し広い原っぱに出た。

桃子ちゃんが首輪からヒモを外すと、コジローが駆け出す。

今までゆっくりと歩いていたのが、ウソのようだ。

コジローはひとしきり原っぱを駆け回ると、僕たちのところに戻ってきた。


「コジローってこんなに速く走れるんだね!」

「うん!本当は速く走れるし、虫とか捕るのも得意だよ。でも、走っていい場所とそうでない場所をちゃんと知ってるの」

桃子ちゃんは自分がほめられたみたいに、得意そうに言った。


ひとしきり原っぱで遊んでから、僕たちはおじいちゃんの家に戻ることにした。

帰るときにまた、あの森が見える場所を通った。


「あの森はさ、コジローの散歩コースじゃないの?」

「森にはなるべく行かない方がいいんだよ」

「どうして?クマでも出るの?」

「クマは出ないと思うけど…」

「じゃあ、なんで?何でなるべく行かない方がいいの?」

桃子ちゃんは、ちょっと考え込んで…それから小さな声で言った。

「あのね、あの森…いちばん大きな森にはね…神様が住んでいるんだって。だから、人間が勝手に入っちゃいけないの」

まるで、まわりの誰かに聞かれないように、こっそりとしゃべっているみたいだ。

「神様?神様なんているわけないじゃん。桃子ちゃんは、それ信じてるの?」

僕は、桃子ちゃんも花音と同じで、まだまだ子供なんだなぁと思って、かわいく感じてしまった。

それとも、僕たちをからかおうと思って、わざとそんな話をしてるのかなぁ…


「あのね…信じられないかもしれないけど、本当なんだよ。近くまで行けても、森の中には入っていけないの」

「入っていけないって…何か、入れないように柵とかあるの?」

「違うの。自分ではまっすぐに歩いてるつもりなのに、気がつくとまた同じ場所に戻っちゃってるんだって」

本当かなぁ~?


僕たちのことを、からかっているにしては、桃子ちゃんの様子は真剣だ。


そんなふうに話ながら歩いていると、もうおじいちゃんの家に着いてしまった。

また、あとでくるね、と言って桃子ちゃんはいったん家に帰って行った。

「散歩はどうだった?」

亜希子おばさんが、おやつのトウモロコシの茹でたヤツを大皿いっぱいに積み上げて、持ってきてくれた。

部屋の奥の方では、父さんとおじいちゃんが何か大声で笑いながら話している。

「あのね。あのね!コジローすごいんだよ!原っぱでね、すごい速いの!花音、びっくりしちゃったぁ~」

「そう。コジローもまだまだ元気ってことね」

「あのね。亜希子おばちゃん。大きな森に神様が住んでるってホント?」

「あら!?…そうか、桃子ちゃんに聞いたのね」

「ホントなのぉ!?」

花音は興奮してる。

僕が黙っていると、亜希子おばさんがは僕の頭をポンポンとたたいて

「優太はおとなしいわね。…信じてないんでしょ?」

僕の目をのぞきこむ。

「…亜希子おばさんは信じてるの?大人なのに…」

「そうね。信じてるわ。言ったでしょ。森の中には不思議がいっぱいあるって」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森へいこう 6

Bd_mountain5  

「この村には、あっちこっちに森があるでしょう。それこそ、数えきれないくらいに。さっき優太と花音が行った野原も、小さな森に続いているのよ」

そういえば、僕たちが入ってきた反対側のほうに、木が何本か並んで立っていたっけ…


亜希子おばさんは、ちょっとの間何も言わずに、どこか遠くを見るような目をしていた。

僕も花音も、亜希子おばさんが次に何を言い出すのか、黙って待っていた。

「あのね…私が優太くらいの年の頃のことよ…」


その頃から、お姉ちゃん…優太と花音のママね…お姉ちゃんは、カラダが弱かったから、近所のお友達みんなで遊びに行くときも、熱を出したりして行けないことが多かった。

私は、みんなと遊びには行きたいけど、お姉ちゃんをひとりだけ残して出かけるのはイヤで、ぐずぐずしていたの。

お姉ちゃんは、自分もみんなと遊びに行きたかったのに

「亜希ちゃん、遊んできなよ。それで、どんなことがあったか、後で教えてね!」

って言って、私を送り出してくれるの。


それで、その日も朝から、お姉ちゃんは熱があって遊びに行けなくて、私はぐずぐずしてたから、他のお友達にもおいて行かれちゃって…みんなに追いつこうと思って、野原に抜ける近道のある森の中に入っていったの。


方向はこっちでいいんだ、ってわかっていても、初めて森を通るのは心細かったわ。

案の定、私は道に迷ってしまったの。


もう、野原に抜けてもいいはずなのに、気がつくと同じところをグルグルまわっていたみたいで、いつまでたっても森を抜けられない。

さっきまでは青空が見えていたのに、なんだか森の中は暗くて余計に心細くなってきちゃった。

とうとう、私は大きな声で泣き出しちゃったの。


しばらくそうして泣いていたら

「どうしたの?なんで泣いてるの?…どこか痛いの?」

って声がした。

私は、急に話しかけられて、びっくりして、あたりをキョロキョロ見渡して…そしたら

むこうの木の影に、小さな女の子がいて、こっちを心配そうな顔で見ていた。

女の子は初めてみる顔で、だけど…どこかで見たことがある顔にだった。

不思議と怖くはなかったの。

「道に迷ったみたいなの」

私がそう言ったら、女の子は

「じゃあ、連れてってあげる。亜希ちゃんはどこに行きたいの?」

って聞いてきたの。

私は、本当だったら、野原にいるお友達のところ、っていうはずなのに、その時は

「お姉ちゃんが待ってるの」

って言ったのね。

女の子は私と手をつないで

「こっちだよ」

って歩きだしたの。

しばらく歩いたら、ぽっかりと木々がきれて、星空の下のいつもの野原に出たの。

コジローが私に向かって駈けてきて、その後ろから…お姉ちゃんが走ってきて、私をぎゅ~って

抱きしめてくれたわ。

あの女の子は、いつの間にか、いなくなってた。




「お姉ちゃんとコジローと一緒に家に帰って、涙でグチョグチョになってた顔を洗って、鏡を見たら…

鏡の中に助けてくれた女の子がいたの」

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 7

Mori

亜希子おばさんの話は、僕には半信半疑だ。

本当に?

そんなことってあるのかな?

やっぱり信じられないや…


「亜希子おばちゃん、すごいねぇ~。でも、その森であった子ってどこの子なのかなぁ?鏡の中にいたの?
じゃあ、いつの間にか、おうちに来てたの?」

花音はトンチンカンなことを聞いている。

「ばかだなぁ。違うよ。鏡にうつった亜希子おばさんの顔が、その女の子の顔だったんだよ。そうでしょ?」

亜希子おばさんは、僕たちを見比べて

「そうねぇ。後ろを振り返っても誰もいなかったし、鏡にうつっていたのは私だけだったから…優太のいうとおりね」

「へんなのぉ」

「私も、夢だったのか…本当だったのかと思うけど。でも、その女の子がいなかったら、きっと私は森の中から帰って来られなかったと思うわ」



それからしばらくの間は毎日、朝ご飯のあとコジローの散歩に行き、午前中は約束どおりに、僕は夏休みの宿題をやって、お昼を食べたら少し昼寝をして、夕方涼しくなったらまたコジローの散歩に行く。

おじいちゃんの家と最初に行った野原の往復ばかりだ。

それでも、野原には虫や名もない草花や、都会の僕の家では見たことのない自然でいっぱいだ。

コジローは、最初僕たちを手加減していたみたいだ。

最近では散歩に行くときに引き綱をなかなか付けさせてくれないし、野原に着く前から走り出してみたりして
…僕たちが追いつけないのを楽しんでいるみたいだ。

とはいっても、本気でいうことをきかないつもりなわけじゃなく、ちょっとからかってやろうって感じかな。


一週間が過ぎて、父さんは会社のお休みが終わって帰っていった。

行く前に言ってたように、おじいちゃんに僕と花音だけが残ることを了解をもらってた。

亜希子おばさんは、村に3日だけいて、父さんより先にいったん帰った。

僕たちの夏休みが終わる頃に、今度は一週間お休みをとって、迎えにきてくれるらしい。


村には、小さい子供は、今はすごく少なくて、桃子ちゃんくらいしかいないらしい。

だから、桃子ちゃんも僕たちと遊べて楽しそうだ。

父さんや亜希子おばさんくらいの年の人も少なくて、村の大半はおじいちゃんくらいの年の人たちだ。

でも、どの人もみんな元気で風邪ひとつ引かないらしい。


僕と花音は夏休みの間に、すっかり村の子供みたいに全身まっくろになった。

花音の甘えん坊も少しだけ、なりをひそめている。

この夏休みは本当に楽しかった。

これからも毎年来られるといいな。



明日には、亜希子おばさんが村にやってくる。

今度は一週間いて、最後の土曜日には父さんもくる。

それで、日曜日には村を出発する予定だ。

「あのね、おにいちゃん。花音、おうちに帰る前に桃子ちゃんに何かプレゼントあげたいな。

花音たちがおうちに帰ったら、桃子ちゃん、大人の人達の中にひとりぼっちでしょ。花音、来年もまた遊びに来たいけど、来年がくるまで桃子ちゃんが淋しくないように。

桃子ちゃんに、いつでも花音とおにいちゃんのこと思い出してもらえるように。何かプレゼントあげたいの」

桃子ちゃんにあげるプレゼントっていっても、僕たちは何にも持ってない。

 それで僕たちは、いつもの野原にあるお花を集めて、花カゴを作って、それから桃子ちゃんにあげる絵を描いてあげようと思い付いた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 8

いつもは僕と花音と桃子ちゃんと、コジローの散歩に野原に行くけれど、今日は桃子ちゃんが、来週からの学校が始まる前に、登校日だってことで、村からバスで小一時間のとなりの町の小学校に行っている。

桃子ちゃんへのプレゼントを作るなら、今日しかない。

僕たちは、お昼も野原で食べるからと言って、おにぎりを作ってもらい、水筒に麦茶を入れてもらって、野原に向かった。

もう、この景色を見るのも、あと少しだな。

そう思ったら少し淋しくなった。

でも、来年も絶対に父さんに連れて来てもらおう。


野原に着くと、まずコジローの引き綱をはずしてあげる。

コジローは、いつものように野原の探検に出掛けて行った。

「じゃあ、花音。きれいなお花を集めてこよう。花音は野原の真ん中の大きな木より向こう側で集めてこいよ」

「うん!きれいなお花、いっぱい摘んでくる!桃子ちゃん、きっと喜んでくれるよね!」

すぐにでも駆け出しそうな花音に

「おにいちゃんは、絵の準備をしてから、あの木のこっち側でお花を探すから。…森には入っちゃダメだぞ!」

「わかったぁ~!」

最後までちゃんと聞いたのかなぁ。

転がるように駆け出した花音に、コジローが着いて行く。

僕は花カゴができたら、すぐに絵が描けるように、持ってきた絵の具や画用紙やクレヨンを準備して、お花を集めだした。



しばらく僕たちは、お花を集めるのに夢中になっていた。

いつの間にか、太陽がすっかり頭の上にきて、夏の日差しをあびせてる。

そろそろお腹も空いてきたし、持ってきたおにぎりを食べようかな。


「花音!お昼にするよ!」

大きな声で花音を呼んで、レジャーシートの上に持ってきたおにぎりを並べる。

「花音!お昼だってば!早く来ないと全部たべちゃうぞ~」


「・・・・・」

 おかしいな。返事がない。

 そういえば、さっきからコジローの鳴き声もしない…。

「花音?」

 花音がいるはずの、野原の奥の方を見る。


 いない。


 いない?


 いない!



 そこにいるはずの、花音の姿がどこにも見えなかった。


「花音!かの~ん!」

 僕は真っ青になって、野原じゅうを探した。

 草むらのかげや、花がたくさん群れて咲いているところや木の向こう側。

 だけど、どこにも花音がいない。

 コジローもいない。


「…森?」

 あと探していないのは、亜希子おばさんの話に出てきた、この野原に続く森だけだ。

 僕は、森へと続く木立ちに向けて駆け出した。

 ふと見ると、木立ちの入口の草むらのかげに花音の麦わら帽子が落ちていた。

「花音…」



(森の中には不思議がいっぱいよ…)

(…いちばん大きな森には神様がいるの)


 森の神様、お願いです。

 花音を森から帰して下さい!

 僕のたったひとりの大切な妹なんだ。

 連れて行かないで!


(優太、困った時にはまず大きく深呼吸して。慌てちゃダメよ。自分に出来ることか、そうでないか、よく考えてから動きなさい)

 母さん!

 母さんの優しい声を思い出して、僕は森に背を向けると、亜希子おばさんとおじいちゃんを呼びに家に向かって駆け出した。

Boushi_2

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 9

Sumire

4.森の中


おにいちゃんが、絵の準備を始めたので、花音はコジローと一緒にお花を探し始めた。

「桃子ちゃんはどんなお花が好きかなぁ~?コジロー知ってる?」

コジローは花音のまわりをクルクルと回る。

嬉しそうだ。

「花音はねぇ~。このピンクのお花。可愛くて好き」

摘んだお花は、持ってきたカゴの中にとりあえず入れておく。


けっこうたくさんの色とりどりのお花が野原にはあった。

花音はお花を摘むたびに

「桃子ちゃん、このお花好きかなぁ~。お花さん、花音が摘んでもずっとずっときれいなままでいてね」

なんて、お花に話しかけている。


あっという間に、カゴの中はお花でいっぱいになった。


ふと見ると、向こう側の木立ちの入口のところに、キラキラって光っているものが見える。

「…あれ、なんだろう?」

 花音が近寄ってみると、ちょうど葉っぱに朝露のような雫が、キラキラと光っていた。

 花音がそっと、触れてみると…雫のようなものは、形を変えずに花音の小さなてのひらに落ちてきた。

「これ…何かなぁ?初めて見るねぇ。コジロー知ってる?」

コジローはそんな花音の問いかけに、答えるはずもなく、また、花音のまわりをクルクルとまわった。

「おにいちゃぁ~ん」

花音が呼んでも、おにいちゃんはお花を摘むのに夢中で、気がついてくれない。

「なんだろうねぇ~」

見ると、もう少し先の木立ちの枝も、同じようにキラキラと光っている。

花音は木立ちに近付きながら

( おにいちゃんが森には入っちゃダメって言ってたっけ… )

と一瞬思ったけど、好奇心には勝てなくて

( でも、ここはまだ森じゃなくて、野原だもんね )

 なんて自分に言い訳をして、一歩森に近付いた。


 次の木立ちにあった雫も、そうっとてのひらに落としてみる。

ふた粒になった雫は、さっきよりもキラキラが増したような気がした。

「きれい…これ、桃子ちゃんにあげたら…喜んでくれるかなぁ。もっとないかなぁ」


 花音の希望に応えるように、その先の木の枝にも、そのまた先の木の枝にも…キラキラと光の雫が輝いている。

 花音は、ひと粒、ひと粒と雫を集めながら、自分でも気がつかないうちに、森の中に足を踏み入れてしまっていた。

 森の入口で帽子を落としたことにも気がつかないで。



しばらく夢中で雫を集めていると、花音の小さなてのひらいっぱいに雫がたまった。

「そうだ。帽子に入れておこう!」

花音は、いったん木かげにしゃがんで、スカートの上に集めた雫をそっと移すと、頭の上にある帽子に手を伸ばした。

「あれ?帽子がないや。どこかに落としてきちゃったのかなぁ」

 帽子がなければ、どこに雫を入れておこう。スカートのポケットに入れたら、つぶれてしまいそうだし…

 しばらく考えて、花音はポケットから大きなハンカチを取り出すと、お花のいっぱい入ったカゴの隅に、そっとそのハンカチを広げた。

 ハンカチの上に雫を落とす。

 カゴの中で、雫がキラキラと光った。

「これでいいや」


 この時になって花音は初めて、自分が森の中に入り込んでしまったことに気がついた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 10

Ookinaki

僕が真っ青になっておじいちゃんの家に帰ると、ちょうど学校から帰ったところの桃子ちゃんが来ていた。


「優太くん、そんなにあわてて…。いったい、どうしたの?」

「桃子ちゃん!おじいちゃんと亜希子おばさん、いる?」

「うん?ふたりとも奥のお部屋にいるけど…どうしたの?大丈夫?」

「花音が…花音が…」

僕は、うわ言のように言いながら、靴を脱ぎ捨てて部屋に駆け込んだ。

「!花音ちゃん、ケガでもしたの!?」

「花音が…いなくなっちゃった」


僕が半分泣きそうな声で言うと、桃子ちゃんはびっくりして僕の腕を強くつかんだ。


「おじいちゃん!花音が…花音がいなくなっちゃった!」

僕の叫び声に、奥の部屋からあわてて、おじいちゃんと亜希子おばさんが出てきた。

「はぐれちゃったの?」

「よく探したのか!?」

「探したよ!でもいないんだ!」

「優太と花音のふたりだけで野原に行ってたのね?コジローは?」

そういえば、コジローの姿もみえない。

「わかんない。でも、コジローも野原にいなかったから、花音と一緒かもしれない…」

「…コジローが一緒なのね?」

「わかんない。でも、たぶん一緒だと思う…」



亜希子おばさんは、テキパキと救急箱や麦茶などの飲み物を用意すると

「桃子ちゃん、おうちに行って大人の人を呼んで来て。たぶん、森に迷いこんでると思うの。

花音がいなくなったことを話して、探すのを手伝ってもらって」

「うん!わかった!」

「できたら、野原と反対側から森に入って探してもらってね。私たちは野原側から探すから」

「うん!」

桃子ちゃんは僕に向かって、大丈夫!っていうようにうなずいてみせて、駆け出して行った。

「野原だな」

駆け出そうとするおじいちゃんに向かって

「お義父さん、ここにいて。もし、花音が森にいないで、戻ってきたら…誰もいないと困るでしょう!

近所の人で手伝ってくれそうな人にお願いしてください。…お兄さんには…まだ連絡しないで」

おじいちゃんは、自分で探しに行きたそうだったけど、ひとつ大きくうなずくと、近所の人に応援を頼みに行った。

「森以外の場所も探してもらって下さいね!」


 亜希子おばさん、いつものおばさんじゃないみたいだ。

「優太、行くよ!」

速足で歩き出した亜希子おばさんのあとを、僕はあわてて追いかける。



 
そのころ、花音は森の中で、道に迷った心細さで立ち止まっていた。が…


心細くて、ついに


…大きな声で歌を歌い出した。

「♪歩こ~歩こ~あたしは元気ぃ~♪」

歌いながら歌に合わせて歩き出す。

コジローが花音の歌声に合わせて、シッポを振りながら花音の周りをクルクルとまわる。

少し歩くと、さっきまで花音が集めていた雫が、また少し先の木の葉の上に、キラキラと光っているのが見えた。

花音が、その雫も花カゴの中のハンカチの上にそっと移すと、また少し先の木の葉の上に、同じように雫がキラキラと光っている。

「コジロー、この雫、キラキラ光って森の道を照らしているみたいじゃない?…雫をたどっていったら、どこに着くのかなぁ」

動かないでこの場所にいて、おにいちゃんが探しに来てくれるのを待つのがいいのか、それとも、自分から、森から出る出口を探しにいった方がいいのか…。


しばらく考えたあと、花音は雫の照らす道をゆっくりと歩き出した。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 11

Ill_leaf01 森に迷いこんでしまったけれど、花音はあまり怖くはなかった。

それは花音が、けしてひとりぼっちじゃなくて、コジローが一緒にいるから…かもしれない。


しばらく大きな声で歌を歌いながら、雫の道しるべに沿って歩いていく。

そして…ひときわ大きな木を通り抜けた。

 そこには、いきなり青い空と草原が開けていた。

 夏休みの間、いつも遊びに行っていた野原とは違う、初めて来た野原だ。

「うわぁ~!コジロー、すごくきれいだよ!ほら!お花もこんなにたくさん咲いてるよ」

花音は道に迷ってることも忘れて、その初めて来た野原に駆け出していた。

負けじとコジローが駆け回る。

その野原は、野原というよりも、草原といったほうがピッタリとくるみたいに、どこまでも広がっていた。


ひとしきり、花音はコジローと一緒に駆け回ると、草原の中ほどに流れていた生まれたての小川を見つけて、小川の水を一口飲んでみた。

小川の水は、ひんやりとしていて、少し甘いような気がする。

「水ってこんなに味がするんだね~」

さすがに少しおなかが空いてきたけれど、お昼に持ってきたおにぎりは、全部おにいちゃんに持ってもらっていた。

花音が空を見上げて、青い空にところどころ浮かんでいる白い雲を見ていると、雲の形が、おにぎりに見えてきたりした。

「おなか空いちゃったねぇ」

この時になって花音は

( おにいちゃん心配してるかなぁ )

と思ってちょっと不安になった。

( 花音、こんなに森の奥まで来ちゃって…おうちに帰れなかったらどうしよう )

花音が急に元気がなくなったものだから、コジローが花音のとなりにピッタリと座って、花音の顔をじっと見ている。

「ごめんね!コジロー!花音が泣いちゃったら、コジローが困っちゃうよね。だから花音は泣かないの!泣いても何にも変わんないもん」


花音が野原で集めた色とりどりのお花と光の雫が、カゴのなかで輝いて見える。

光の雫はまるで道しるべみたいに、花音をこの場所まで連れてきたのだ。

( 森の神様って本当にいるのかなぁ。亜希子おばちゃんが迷子になった時に助けてくれた女の子って…本当は森の神様なのかしら?花音のことも助けてくれないかなぁ )


そういえば、花音がこの草原に迷いこんでから、もうずいぶんと時間がたっているはずなのに、

おひさまはいつまでも花音の頭の上にあるし、摘んだお花もまだ生き生きとしてる。

やっぱり、花音が迷いこんでしまったのは、桃子ちゃんが神様がいるって言っていた、あの森なのかもしれない。


( 森の神様。もしいるなら、花音を助けて下さい。花音、いい子でパパと亜希子おばちゃんの言うこと、ちゃんと聞くから。

おにいちゃんと、ケンカもしないから。だから…亜希子おばちゃんが迷子になった時みたいに、出てきて花音を助けて下さい )



花音のそんな思いが通じたのか、小川の生まれた場所…小さな泉のほとりで何かがキラキラ光っているのが見えた。

花音がたどってきた、光の雫たちが太陽の光を受けて輝いていた。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 12

Pet_nohara02

泉のほとりのキラキラ光る雫は、あたりいちめんに夜空の星をちりばめたようだ。

そうでなければ、小さなダイアモンドのカケラが無数に散らばっているよう。

雫は泉のほとりだけでなく、泉そのものの中にもキラキラと光っているのが見えた。

花音が泉をのぞきこんでいると、うしろのほうで

「わんっ!」

と、コジローが一声吠えた。シッポを振っている。


花音が振り返ってみると、すぐそこの花の陰に小さな女の子がひとり座っている。

「…もしかしたら、森の神様?それとも森の妖精?」


とりあえず声をかけてみよう。

「こんにちは!」

花音が声をかけると、女の子も

「こんにちは!」

と言って、にっこりと笑った。

「わたし、花音だよ。あなたは?」

「わたしもカノンだよ」


やっぱり!…そういえば、亜希子おばちゃんが迷子になった時に助けてくれた女の子は、亜希子おばちゃんと同じ顔してたって言ってたっけ。

じゃあ、カノンと花音も同じ顔してるのかなぁ?

( 鏡なんてそんなにじっと見ないから、わかんないや )


「カノンちゃんは、どこから来たの?」

「花音ちゃんは、どこから来たの?」

「花音は向こうの森の、もっと向こうの野原から来たの」

「カノンはあっちの森の奥から来たの」


カノンと名乗った女の子は、花音たちがきた森とは逆のほうに見える、もっと大きな森を指差した。

「あっちの森には何があるの?」

「いいものがいっぱいあるよ。欲しいものは何でもあるんだよ。きれいなお花や、おいしいお菓子や、素敵な洋服や…何でもいっぱいあるよ」


じゃあ、桃子ちゃんにプレゼントしたら、すごく喜んでもらえるものもあるのかなぁ?

でも、花音のものじゃないから、それは無理だよね?

少し花音にわけてくれないかしら?


そんなふうに思って

「あのね…花音、お友達の桃子ちゃんにプレゼントをあげたいの。

それでおにいちゃんと、野原でお花を集めてたんだ。

でね、できたらでいいんだけど…カノンちゃんのいいもの、少しわけてくれないかしら?」

「いいよ」


よかった。

花音はすっかり迷子になったことも忘れて、カノンちゃんとお友達になれてよかった、と思って嬉しくなってきた。

「カノンちゃんは、森の奥に住んでるの?パパとママと…兄弟はいるの?

花音はねぇ、パパとおにいちゃんと3人だよ。で、ときどき亜希子おばちゃんがくるの。

今はねぇ、おじいちゃんの家に来てるんだ。あっ、このコはコジローだよ!とってもおりこうなんだよ」

すると、カノンちゃんは少し悲しそうな顔をして

「カノンはひとりだよ」

と言った。

「あっ、ごめんね!」

「ううん、いいの」

「ひとりだと淋しいねぇ。それに、森の中にひとりって怖くない?」

「もう慣れてるから、平気。」

「そうなの?カノンちゃんはえらいねぇ。花音だったら、怖くて淋しくてひとりじゃいられないよ」

花音がそういうと

「たまに花音ちゃんみたいな、お友達に会えるから…」

と、言った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 13

Leave7 5.森のひみつ

僕と亜希子おばさんは、急いで野原に戻って来た。

もう一度花音の名前を呼びながら野原をひと通り見てまわる。

やっぱり、花音はどこにもいない。

「ふたりが別々にお花を集めてたのね?」

「そうだよ。真ん中に大きな木があるでしょ。あの木のこっち側を僕が、あっち側を花音が集めたんだ」

亜希子おばさんは花音がいた方の側を、今度はさらにゆっくりと見てまわる。

「ここに花音の帽子が落ちてたんだ」

僕が帽子が落ちていた場所を指差すと、亜希子おばさんはその場所にしゃがみこんで、辺りを見回した。

「あれ?あれは何かしら?」

見ると森の入口の辺りの木の枝に、何かキラキラと光っている。

ふたりして、そっと近寄ってみると、朝露のような雫がキラキラと光っているのだった。

「なぁんだ。水滴かぁ」

僕が雫を指ではじくと、雫は形を変えずに葉っぱの上をすべって、足下の草むらの上に落ちた。

「ちょっと待って!この雫、ヘンじゃない?」

「変?ヘンってなにが?」

「ほら、見て!」

亜希子おばさんに言われて、雫を見たけど…別にどこが変なのかな?

「普通の水の雫だと思うけど…」

「優太、ちょっとさわってみて。そっとね」

 ???

僕はわけのわからないまま、亜希子おばさんのいうとおりに、そっと雫にさわった。

指でさわったら、こんな頼りない水の雫なんて、ぐしゃってなって無くなっちゃう。

ところが、雫は僕の指に軽く抵抗して、また元の形に戻った。

「何これ!?」

「ほら、見て。ここだけじゃなくて、森に続く小道沿いに…まだ、いくつかあるみたいだわ」

僕たちは顔を見合わせて

「もしかしたら、花音もこれを見つけたのかな?」

「そうね。きっとそうだわ。ほら、あそこの木を見て」

亜希子おばさんの指差した木をみると、上の方の木の枝に、同じような雫がたくさん、キラキラと光っている。

「上の方の木の枝には、雫がまだたくさん残ってるでしょ。だけど、ほら。ここから下の枝には、ほとんど残ってないわ」

「ほんとだ。これって…」

「花音が背伸びして、届く高さじゃない?」

言われて、あらためて見てみると、確かに花音の手が届く高さまでは、あまり光の雫がない。

「花音が好きそうだよ、こういうの!見つけたら夢中になって集めるよ、きっと」

きっと、花音もこの光る雫を見つけて、桃子ちゃんのプレゼントにでも、しようと思ったんだろう。

夢中になって集めてるうちに、森の中に迷いこんだ…。

「この光る雫をたどっていってみましょう」

花音は、道に迷ったことに気がついたかな。

僕が、森に行くなって言ったから、間違って森に入っちゃって、心細くて泣いてるかもしれない。

泣きつかれて、木の根元にでも座りこんでるかもしれない。

待ってて。

今、おにいちゃんが助けにいくよ!

僕たちも、光りの雫を道しるべに、森の中に入っていった。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 14

Goods17_300x107

森の中はとても静かだ。

ときおり、小鳥のさえずりや、小動物が草むらを進む時の微かな音が聞こえて来る。

僕と亜希子おばさんは、周囲の木々を注意深く見ながら、光りの雫の道しるべをたどって、進んでいった。

僕たちまで迷子にならないように、木々に糸を結びつけながら進んで行く。


途中で光りの雫がたくさん地面に散らばっているところがあった。

野原にあったお花が数本、淋しそうに落ちている。

「これ、きっと花音だよ!」

「そうね、コジローも一緒だわ」

「わかる?」

「えぇ、ほらここ。コジローの足あとだわ」

見ると、地面に散らばっていた光りの雫の中に、かすかだけどコジローの足あとみたいなものがある。

「もう少し先まで行ったみたいね」

「ねぇ、亜希子おばさん。子供の頃にこの森で迷子になった時のことって、本当に覚えてるの?」

「そうね。あの頃と森の中は何も変わっていないように見えるわ。…でも、私はわりとすぐに泣き出してしまったから、あとはあんまり覚えていないの…」

「亜希子おばさん、泣き虫だったの?子供の頃の母さんって、どんな女の子だった?」

亜希子おばさんは、少し遠くを見つめて…昔の記憶を手繰り寄せているみたいに、考えていた。

「私、甘えん坊だったから…いつも、お姉ちゃんや、悠ちゃん…優太と花音のお父さんね。悠一兄さんのあとをくっついて歩いてばかりいたわ」

「いつも3人で遊んでたの?」

「そうね。ちょうど、この夏の優太と花音と桃子ちゃんみたいにね。

でも、お姉ちゃんは身体が弱かったから野原に行くのは、一週間か10日にいっぺんくらいだったわ」

「3人で何して遊んでたの?」

「たいていはやっぱり、お花を集めたり、絵を描いたり、私ひとりはしゃぎまわってたわね」

「母さんっておとなしかったんだ」

「そうね。おとなしくて優しくて、でも…大人みたいにしっかりしてた。悠一兄さんより、お姉ちゃんのほうが年は下なのに、お姉さんみたいだったわ」

そんな大人みたいだった母さんも、森の不思議を信じていたのかな?

たしかに、この光りの雫みたいに、信じられないような不思議ってあるのかもしれない。

「あのね。森の不思議をいちばん知ってたのって、お姉ちゃんなのよ」

「母さんが!?」


亜希子おばさんは、また光りの雫の道しるべをたどって、歩きだしながら話はじめた。

「お姉ちゃんは、何でもよく知っていたから…。野原に行くのはたまにだけど、お花の名前や小鳥の名前なんて、何でも知ってたわ。…そうして、森の神様ともお友達だったのよ」

「森の神様と友達?母さんが?神様と友達なんてなれるの?」

「たまに…何十年にひとり、いるんですって、神様とお友達になれる子がね。心がとても純粋な子じゃないと、なれないっていうわ」

森の神様と友達になる。


森の不思議をいちばん知ってた母さん。


森の神様と友達だった母さん。


じゃあ、森の神様は、母さんの娘の花音をいじめたりはしないよね。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 15

Cb5

花音はしばらく夢中になって、カノンちゃんに森の話を聞いていた。

見るもの、聞くこと、何もかもが初めてのことばかりで、お話を聞くだけでドキドキした。


「花音ちゃん、これからも森に来て、カノンと一緒に遊んでね」

「うん!…でも花音、夏休みが終わったら帰らなきゃいけないの」

「帰っちゃうの?」

「うん…でも、また来年も来るよ!来年も再来年も…絶対に来るよ!そしたら、また一緒に遊ぼうね!」

「…花音ちゃん、帰っちゃうんだ…」

「大丈夫だよ!絶対パパにまた連れてきてもらうから!」

「約束だよ!」

ふたりはかたく指切りをして一緒に笑った。

「そうだ!カノンちゃんにも、何かプレゼントあげるね!」

「カノンにもくれるの?」

カノンちゃんは、とても嬉しそうに聞いてきた。

「うん!…でも花音、何にも持ってないから、桃子ちゃんと同じで、お花の絵を描いてあげるね。

あ~、クレヨンと画用紙、おにいちゃんが持ってるんだったぁ」

「花音ちゃん、おにいちゃんや桃子ちゃんと仲がいいんだね。」

カノンちゃんは、少し羨ましそうにつぶやいた。

「そうだ!カノンちゃんにもおにいちゃんと桃子ちゃんに、会ってほしいなぁ~。

おにいちゃんはね、花音にいろいろあれしちゃダメとか…これやっといてとか…いろいろ言うけど、ホントは優しいんだよ。

いろいろ言っても、絶対花音の味方なの。桃子ちゃんはねぇ、大好きなお姉ちゃんなの。

花音、桃子ちゃんみたいになりたいんだ。カノンちゃんも、きっと大好きになるよ!」

だけど、困ったなぁ。画用紙とクレヨンがないと絵が描けないや。

と、花音がつぶやくと

「花音ちゃん、ちょっと待っててね!」

カノンちゃんが大きな木の向こう側に行って、戻ってきた。

その手には画用紙とクレヨンが握られている。

「はいっ、これ」

「すご~い!どこから持ってきたの?でも、これで絵が描けるね!」

「うん!よかった」

「そうだ!カノンちゃんも一緒に描こうよ!楽しいよ~!」

「カノン、絵なんて描いたことないよ」

「大丈夫だよ!カノンちゃんはお花を見て感じたことをそのまま描けばいいんだよ。

あのね。最初、カノンちゃんの“いいもの”を分けてもらって、桃子ちゃんにあげたいな、って、花音思ったの。

でも、こうして、カノンちゃんと一緒に絵を描いたのをあげるほうが、きっと桃子ちゃん、喜ぶと思うんだ。

かわいいお洋服もおいしいお菓子も…今じゃなくても、いつか大きくなって自分で買ったりできるけど、

このお花は今しか咲いてないし、花音の描いた絵は、桃子ちゃんやカノンちゃんのために描く、たった一枚だもんね。…きっと、来年は来年の、再来年は再来年の、花音が見たお花や景色の絵になるよ!」


ふたりの“かのん”は仲良く並んで、世界にたった一枚の絵を描き始めた。

コジローがふたりの足元でゆっくりと伸びをすると、ふたりを見守るような位置に腰をおろした。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 16

Tonbo9 森の中を進むあいだに、僕は亜希子おばさんに、母さんや父さんの子供の頃の話をたくさん聞いた。


不思議と、花音がいなくなってあんなに不安だったのに、少し気持ちが落ち着いていた。


森の神様は、本当にいるんだろう。

森の中には、本当に不思議がいっぱいあふれているんだろう。

僕の気持ちが落ち着いてきたのは、きっと花音は、怖いめにあったりしていないって、この森の中にいて感じるから。

大丈夫!きっと花音は元気だ。


「ねぇ、亜希子おばさん。前に桃子ちゃんが言ってたけど…森に近付けても森の中には入れないって。

でも、僕たち、森の中にいるよね?これってどういうこと?」

「そうねぇ。そういう話もあるわね。…森の神様が、森に入っていい人間と入っちゃ嫌な人間を区別しているのかな」

「じゃあ、僕たちは森の神様に嫌われてはいないんだね」


そうして、しばらく光の雫に沿って歩いていくと、いきなり森の木々がきれて、青空の下の広い草原に僕たちは立っていた。



この景色は見たことがある。

「ここ、昔来たことがあるわ」


ほとんど同時に亜希子おばさんが言った。


僕たちは、草原の入り口にしばらく立ち尽くしていた。


草原の真ん中辺りを、小さなせせらぎがさらさらと流れている。 僕たちは、ゆっくりと草原の中に足を踏み入れた。



と、向こう側の森に近い草むらのあたりから、いきなり白い影が飛び出してきた。


コジローだ!


「コジロー!花音は?一緒じゃないの?」


コジローはシッポを大きく振りながら、僕たちの周りをくりくりと駆け回った。

着いてこい、とでもいうように

「わん!」

と大きくひと声鳴くと元気よく駆け出した。

その瞬間、僕はまた

(前にもあったぞ…)

と感じた。


そうだ!僕のいちばん最初の記憶。

幼い花音の手をひいて歩いている僕の横を、大きな白い犬が駆け抜けていく。

あれはコジローだったのか?

コジローは時々僕たちを振り返りながら、向こう側に見える大きな森に向かって走って行く。

「待って!コジロー!…速すぎて追いつけないわ」

亜希子おばさんの言葉がわかったのか、コジローが少しスピードをゆるめる。


さっきまで遠くに聞こえていた小川のせせらぎが、少し大きくなった。

と、いっても、小川じたいは本当に小さな流れで、中にも光の雫がキラキラとしている。

小川の先に目をむけると、小さな泉があった。

泉のほとりに、こちらに背をむけて、女の子が座っている。

「…花音?」


女の子がふたりいる。

ふたりで楽しそうな笑い声をあげながら、夢中になって、何か話をしている。

「花音?」

亜希子おばさんが、もう一度声をかけた。


花音が振り返った。

もうひとりの女の子も、少し遅れてこちらを振り返った。



花音がふたりいる!



最初に振り返った“花音”が、いきおいよく立ち上がると、こちらに向かって駆け出してきた。

顔が涙でくしゃくしゃだ。

さっきまで楽しそうに笑っていたのに…。

もうひとりの“花音”は、立ち上がってこちらを見ているけれど、じっと立ち尽くしたままだ。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 17

17

「おにいちゃぁん!」

花音が、泣きながら僕に飛びついてきた。

「花音?花音!…ばかっ!ひとりで森の中に行っちゃダメだって言ったろう!」

「ごめんなさぁい!」

あとは、言葉にならずに僕にしがみついて泣いている。

なんだか、僕まで涙が出てきた。

「見つかってよかったわ」


それにしても…


僕は泉のほとりに立つ、もうひとりの女の子~花音にそっくりな女の子に目を向けた。

女の子は花音よりも、ちょっとだけ小さな感じだ。

困ったような、悲しそうな…何ともいいようのない表情でこちらを見つめている。

「あの…」

思い切って、女の子に声をかけようとしたけれど、言葉が見つからない。

亜希子おばさんも僕と同じらしく、何も言わずに女の子の顔を見つめている。


ふと、僕の腕の中で泣いていた花音が、僕の顔を見上げて、ニッコリと笑った。

「あのね。花音、カノンちゃんとお友達になったんだよ」


カノンちゃん?


花音がカノンちゃんと呼んだ女の子は、ちょっと恥ずかしそうに、僕たちを見つめている。

さっきまでの寂しそうな顔とはちょっと違う。

「カノンちゃんはね、向こう側の大きな森から来たんだって。でね、ふたりでお花の絵を描いてたの」

花音は屈託なく笑うと

「ねっ!」

と、カノンちゃんに同意を求める。

「…うん」

と、カノンちゃんが恥ずかしそうに笑う。


僕には、何がなんだかわからないけど…この女の子~カノンちゃんは、いったい誰なんだろう。


森の神様?


森の妖精?


そういえば、さっき亜希子おばさんが、母さんは森の神様と友達だったって言ってたけど…花音まで、森の神様と友達になっちゃったのか?


そうかもしれない。

違うかもしれない。


「花音、そろそろ帰らないと。みんなが心配してるわ。おじいちゃんなんて、心配で倒れちゃうかもよ」

「え~っ、おじいちゃん大丈夫かなぁ」

「花音の元気な顔を見れば大丈夫よ」

「うん!じゃあ、カノンちゃん、花音、帰るね。また、遊びに来るね!」

花音の言葉に、カノンちゃんは少し淋しそうに笑って

「うん、また遊びに来てね!」

と、言った。


けれど、このまま帰ったら、もうこの草原には来れないんじゃないかなぁ?

なんだか、僕にはそんな気がする。


花音は僕とつないでいた手を離すと

「じゃあ、この絵、花音ちゃんにあげるね」

と、花音が何枚か描いたらしい絵の中から、一枚をカノンちゃんに渡した。

「じゃあ、花音ちゃんにこの絵をあげるね」

カノンちゃんも、花音に絵を渡した。

のぞきこんで見る。

花音とカノンちゃんの絵は、ほとんど同じに見える。

でも、それぞれがもらった絵を、大切そうに胸に抱えると、お別れの握手をした。


「カノンちゃんも、一緒にうちに来ない?あとで私がおうちまで送ってあげるわ」

亜希子おばさんにしてみれば、こんなに小さな女の子をひとりで森の中に残して帰るなんて、考えられなかったんだろう。

けれど、カノンちゃんは

「亜希ちゃん、ありがとう。でも、私はいつでもここにいるわ。森が私のおうちだから」

そういうと、僕たちにクルッと背を向けて、反対側の森の入口に駆けて行った。

| | コメント (0) | トラックバック (0)

みどりの森にいこう 最終回

Green1176.みどりの森にいこう


森からの帰り道、僕と亜希子おばさんと手をつないで、花音はひとしきり森の中であった出来事を、興奮してしゃべっていた。

僕たちが想像したとおり、花音はあの不思議な光の雫に導かれるようにして、森の中に入って行ったのだ。


「でね、泉から小さな川が流れててね、その中にも光の雫がね、キラキラってあったの。でね、泉のところでね、カノンちゃんと会ったんだぁ」


カノンちゃんに、大きな森の中にいいものがいっぱいあるって聞いて、花音が分けて欲しいと思った、というところで、僕たちは思わず

「花音!」

「花音!」

と、同時に叫んでしまった。


もし花音が、カノンちゃんと一緒に、大きな森の中に入って行っていたら…どうなっちゃってたろう。

それを思うと、僕も亜希子おばさんも冷や汗がでた。


カノンちゃんが、森の神様なのか、森の妖精なのか…はたまた、ちょっと変わったただの女の子なのか?

それは結局、よくわからないけれど、僕も亜希子おばさんも、きっとカノンちゃんは、森の神様か妖精なんだろうと思うことにした。

そして、森の神様は、花音を連れて行かずに僕たちに返してくれた。

それだけで感謝だ。


「久しぶりに“亜希ちゃん”なんて呼ばれちゃったわ」

亜希子おばさんが、しみじみと言う。

「やっぱり、カノンちゃんは、森の神様か妖精ね。私が子供の頃に助けてくれた子ときっと一緒ね」

「え?だって、もう何年も前でしょう?」

「何年どころか…10何年かは前ね」

「カノンちゃんと亜希子おばさんを助けてくれた子が同じだっていうの?」

「理屈じゃおかしいけれど、一緒なんじゃないかな?なにせ、森の中には不思議がいっぱいだからね」




「ねぇねぇ、また来年もこの森にこようね!」

花音はいつまでも、のほほんとしている。

「また来られるのかなぁ。この森に…」

「だって、カノンちゃんと約束したもん!来年も一緒に遊ぼうねって」

「そうね。花音が来年もこの村に来て、カノンちゃんと、この森を忘れていなかったら…きっとまた、さっきの草原に行って、一緒に遊べるわよ」

「うんっ!そうするっ!」



「実はね…。迷子になったあと、何年かして…あの森と草原に行こうと思ったことがあるの」

「あの森に行けたの?」

「…行けなかった。その時は、迷子にならないように印をつけながら、こっちだったかな?って思う道を歩いて行ったけど。もう、大人になりかかっていたのかもね。森や不思議な女の子のことを、半分信じてなかったのかもしれない」


森の不思議を信じてなかったら、あの森の神様のいる草原にはたどり着けないのかもしれない。

そうして、僕たちはだんだん大人になっていく。

純粋に、森のみどりがきれいだ、って思ったり、野原を吹く風にからだを預けたり…そんなことが少なくなっていくたびに、僕たちのまわりからも、不思議が無くなっていってしまうんだろう。




だから…森の神様と友達だったっていう母さんや、今日友達になったかもしれない花音みたいに、純粋な心をいつまでも持っていたい。

そうすれば、森はいつでもきっと、僕たちを心よく迎えてくれるだろう。



僕のいちばん最初の記憶。



まだヨチヨチと歩き始めたばかりの花音の手を引いている。

大きな木々をくぐりぬけたら…そこにはポッカリと青い空と草原がひろがっていて、ぼくの横を白い大きなイヌが駈けていった。



僕はきっと、いくつになっても、この記憶を覚えているだろう。


そうして、僕が大人になって、子供が生まれたら、今日の日のことを話してあげよう。


僕たちの夏休みの冒険を。



森の中には、不思議がいっぱいだ。


森の不思議をずっと信じていれば、きっと森の神様とも、友達になれる。



だから、来年もきっと、

みどりの森にいこう!



*~*完*~*

| | コメント (0)