みどりの森へいこう 1
小さい頃の記憶っていったい、いくつくらいからあるものなんだろう?
ぼくのいちばん最初の記憶は、まだヨチヨチと歩き始めたばかりの妹 花音(カノン)の手を引いている。
大きな木々をくぐりぬけたら…そこにはポッカリと青い空と草原がひろがっていて、ぼくの横を白い大きなイヌが駈けていった。そんな光景だ。
それは本当にあったことなのか、ぼくの夢の記憶なのかと…ときどきぼくは考えている。
「今年の夏は、久しぶりに長野のおじいちゃんの家に行くぞ」
父さんがテレビで野球を見ながらそう言った。
「長野に行くのは久しぶりねぇ。優太、あんた覚えてる?長野のおうち。広くて古くて、絶対おばけがでるって言って、一人で夜眠れなかったよねぇ」
からかうような口調で笑いながら言うのは亜希子おばさんだ。
亜希子おばさんは、亡くなった母さんの一番下の妹で、うちから自転車でほんの10分くらいのアパートに一人暮らしをしている。
子供の頃から母さんのあとをいつもついてまわっていたから、父さんも亜希子おばさんを本当の妹みたいに思ってるみたいだ。
「それ、僕じゃないよ!花音だよ!きっと」
「花音じゃないもん!花音、おじいちゃんちに行ったことないもん!」
ぼくたちがじゃれあっていると、父さんは笑いながら
「花音が赤ん坊の頃に行ったきりだからなぁ。おじいちゃんも、もうこっちに出て来るの大変だからな。」って言う。
たしかに長野のおじいちゃんは、今年70才。今までみたいに都会に出て来るのは、疲れるんだろう。
「お父さんはまだ若いつもりでも、身体がついてこないからねぇ…」
「亜希子おばちゃんも一緒に行くの?」
花音がまとわりつくようにして、亜希子おばさんの顔を見上げて聞いた。
「そうねぇ。私もしばらく帰ってないし…8月なら、仕事もそんなに忙しくないし…行こうかなぁ」
「うん!亜希子おばちゃんも一緒に行こうよ!」
花音はものすごく甘えん坊だ。
特に亜希子おばさんには、べったりだ。
まぁ、花音がまだヨチヨチ歩き始める頃には、母さんはほとんど病院にいて家にはいなかった。
だから、母さんの代わりに花音の面倒をずっとみていた亜希子おばさんを、きっとひよこが初めてみたものを親だと思うように、刷り込まれてるのかもしれない。
亜希子おばさんが一緒に行くって聞いたとたん、花音はもう明日にでも、おじいちゃんの家に行くみたいなつもりで、ウロチョロとしだした。
落ち着きがない。
「長野って…おじいちゃんのおうちって広いのかなぁ~。おばけがでるの?やだなぁ」
「あら、花音。もしかしたら、トトロみたいなのかもよ。」
「え~!トトロがいるの?じゃあ、マックロクロスケもいる?」
「トトロが本当にいるわけないだろう。そんなこともわかんないなんて、花音は子供だなぁ~」
「え~!トトロいないのぉ~」
「優太は夢がないわねぇ。いると思えばきっといるわよ。」
僕たちのやり取りを、ただ笑って見ていた父さんが
「じゃあ、いるかいないか、探してみればいいさ」
と言って、残ってたビールを旨そうに飲み干した。
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