青い鳥のいる部屋 1
絶対に君を探し出してみせるよ。
何百も何万も…何億の人がいても、僕は必ず君を見つけ出すよ。
1. 美鳥
生まれる前の記憶なんて、本当に覚えているはずはない。
だけど、子供の頃から繰り返し見る夢がある。
夢の中で“彼”はいつも優しい笑顔で言う。
絶対に君を探し出してみせるよ。
何百も何万も…何億の人がいても、僕は必ず君を見つけ出すよ。と…。
この夢の話をすると、大抵の友達は
「美鳥は本当にロマンチストなんだから…」
と言って笑う。
「もうそんな白馬に乗った王子さまを、夢見る歳じゃないでしょう?」
「前のダンナは夢の人じゃなかったんだね」
確かに私はもう30代も後半のバツイチだけど、そんな風にからかったりしないでほしい。
別れたダンナとは、短大に入ってすぐに始めた喫茶店のバイトで知り合った。
初めてのバイトで緊張しまくっていた私に、優しく仕事の手順やら何やらを、教えてくれた先輩アルバイトだったのだ。
彼…隆は3つ年上で、とっても優しかった。
それで、私は隆の好意を恋だと勘違いしてしまったのだ。
知り合って6年間、私は隆とちゃんと付き合っているつもりでいたし、隆も私のことを好いていてくれたと思う。
でも、それがただの好意以上のものではないなんて、その時には思いもしなかったし、隆自身も勘違いをしていたのかもしれない。
6年後の私が24才、隆が27才の時にふたりは結婚した。
ふたりっきりで北海道の小さな教会で。
あの頃は、幸せになれるって信じていた。
隆が“夢の人”だって信じて疑わなかった。
私が“夢の人”の話をすると、隆も
「それ、俺だわ」
なんて言ってくれていた。
でも、幸せな時間は…一年ももたなかった。
隆はある意味、いい人すぎたのだ。
私にとってだけでなく、いろんな人に対して。そして、隆自身もいい人でいることに馴れすぎていた。
ことの起こりは、隆が友達からお金を借りていた、そのことを私に隠していたことだ。
ふたりの共通の友達、Aさんに聞いて初めて知った時には、信じられなかった。
「美鳥ちゃんから、隆に言ってくれないかなぁ。貸すのはかまわないけど、いつ返してくれるのか…はっきり教えてくれって」
隆はAさんから10万円を借りていた。
びっくりした私が、隆に問い質すと
「悪いけど、美鳥が立替えて返しておいてくれるかなぁ。今月、金ないんだよね」
「それはいいけど。でも、10万円もいったい何に使ったの?」
「何って…いろいろだよ。悪いな」
私たちは、共働きだった。子供ができるまでは仕事は辞めずに続けようと思っていたから。
だから、借りていたお金を私が返すことには、さほど抵抗はなかった。けれど、借りたお金を何に使ったのか、はっきりと教えてくれない隆に、私は少しだけ違和感を感じていた。
けれど、その違和感もすぐに忘れてしまった。
隆は大学時代の仲間や会社の後輩をとても大切にしていた。何かと相談に乗ったり、後輩を食事に連れ出したりしていた。
家に友達や後輩を連れてくることも、月に何回かあった。
後輩たちからも頼りにされているらしく、それが私は誇らしく嬉しかった。
ある日、仕事が終わって家に帰ると、ドアにメモが挟まっていた。
それは大家さんからで『先月と今月分の家賃が未納です。取りに伺いますので都合のいい日を教えて下さい』と、書かれていた。
「それで、美鳥が払ったの?」
短大からの親友の薫が呆れた顔で言う。
「うん…」
「だって、家賃ちゃんと銀行に入れておいたんでしょ?」
「うん…。本当は家賃は隆が入れてくれることになってるんだけど…。3日前にみたら入ってなかったから、前日に急いで入れておいたんだけど…」
「それがなんで落ちなかったのよ?銀行で調べてもらった?」
「・・・」
私は途方にくれた顔をしていたのかもしれない。
「美鳥?…大丈夫?」
「…お金、入れた日に引き出されてた…」
「何それ!?」
結局、隆に聞いてもはっきりとした答えはもらえない。
ちょっとバツの悪そうな顔をして、今度ちゃんと話すから…と言うだけだ。


最近のコメント