恋愛小説の部屋*夢で逢えたら

夢で逢えたら 1

「お帰りなさぁ~い。」

「ただいまぁ~(^^ゞいゃぁ…疲れたょ…」

「今回の“伊豆の踊り子グルメツアー”は、どうでした?」

「それがさ、来週から~GWだっちゅうのに、意外に道路は渋滞してるし…
なんたって、あんた…あの"おばちゃんグループ"には、まいったょ!」

「そんなに、
嫌なことがあったんですか?」

「いぇね…皆さん人はとてもいい人たちなんだけどね…バスで待ってると…
とにかく、ほれ、これ買って来たから食べなさい…とか?いろいろと休む間もなく人が入れ替えで
食べなさい…食べなさい…っていうのと話し相手ばかりで…全然、休憩すら出来なかったし、
お腹は"パンパン"だし…すっごく、疲れたょ。 楽しかったけどね! 」

「やっぱり、出発場所やツアーの内容でもユーザー層って違うんですね。
伊集院さん、お疲れ様でした!はぃ、お疲れみたいだから、ちょっと甘めのコーヒー…
飲んで少し落ち着いて下さい。」

「ありがとう、真希ちゃん、ちょうど飲みたかったとこだょ。いつも、良く気がつくね。…」

「伊集院さん、来週のGWは、どちらのツアーでしたっけ?  え~っと?
GWから~来月の予定は…富士五湖方面が二回と千葉の房総方面…あと、白樺湖方面もありますね!でも、長距離の運行予定はないみたいですょ。」

「そっか、じゃぁ…真希ちゃん、悪いけど…GWの運行タイムスケジュールをコピーしてくれるかなぁ~
明日は非番だから、少し頭にルートを入れておくょ。」

「はぃ、わかりました、じゃぁ…先に着替えてきたらどうですか? その間に用意しておきます。」


そして…10分後~


「さてと…横浜インター近くの"万葉の湯"にでも寄って疲れでもとるか~真希ちゃんコピーはどう?」

「あっ!はぃ、伊集院さんの机の上に封筒に入れて置いてあります。」

「ありがとう、じゃぁ…今日は、お先に!」

「はぃ、お疲れ様でしたぁ~」



彼の名は…

伊集院 航 (いじゅういん わたる)

27歳   独身 生まれは千葉県

現在は東京都内在住…とはいっても23区外。

仕事は、旅行代理店専属の運転手。おもにバスのドライバ-をしているが、観光用のタクシ-の
運転も時々やっている。

伊集院 航の父は元旅客機のパイロットだった。

父は、男の子が生まれた時に、いろんな意味を含めて、"航"という名前にした。

そこには、自分と同じ様な"人を運ぶ"という仕事に就いて欲しかったという想いがあったのだろう。

そして、今は亡き父は・・・長旅を終えて帰宅すると、航と4歳上の姉の遥(はるか)に、旅先での
出来事や乗客や現地の人たちとの交流の話をよくしてくれていた。

航は幼い頃から~そんな父の姿を見て大きくなったら自分もパイロットになろうと"夢"を持ち、
やがて、航空大関係の学校へと進むが途中…パイロットを目指す者には、不向きな病気が
あるのが見つかり、悩んだ末パイロットへの道を断念した。


しかし、幼い頃から~父から、人を運ぶ仕事というのは、そこに乗っている人たちの様々な
人生模様があり、その人たちの人生の一場面に関わっていることもある。

だから、父はパイロットを選んだと...

幼き頃に、良く聞かされたことがあり、父が自分の仕事に"誇り"を持っているところが 好きだった。
だから、人を運ぶ仕事をしたかった。

しかし、生まれながら自らが持った宿命とも言えるものを受け入れなければいけなかった航は、
昔、父が航に話した言葉の中に~“人生にはいくつもの引き出しがある、どの引き出しを引き出して
道を選んでも、その全て間違いではない…そう常に自分自身を信じて生き抜くことだ!”…と

そして、航が選んだのがタクシーの運転手と観光バスの運転手だった。

何故かと言うと、直接、乗客とコミニュケーションが取れるからだった。

運ぶ人数やカタチは違っていても、彼は、自分の仕事にはプライドを持っている。
観光バスやタクシーも、自分の中では、旅客機のシッブ(操縦席)のようなつもりで運転している。

昨今、人との関わり合いが嫌いな若者たちが多い中、そんな、最近のの若者にはいないくらい…
彼は人との関わり合いを大切にしている、そんな青年だ。

また、休みの日などは、海が好きで良く、鎌倉~茅ヶ崎あたりの湘南方面…に、良く出かける。

高校時代からサーフィンもしていたので波に乗ったり、
海近くのお店で美味しいものを食べたりと
彼はお酒は日々の仕事柄、翌日に残ってもまずいのであまり飲まなくなっていた。
代わりに、珈琲や紅茶など好きで美味しい店を見つけては、ひとりでぶらりと立ち寄ったりもしている。

それから、彼は小学校~中学校までの9年間は地元のスイミングスクールに通っていた…
中学3年の時にはインターハイで東京都代表にも選ばれたほどの腕前でもある。

あとは、普段が運転の仕事なのだが、プライベートで、"ぶらり旅"などもするのも好きだった…

例えば、映画も良く観にいくので、その映画の舞台となった場所を廻ってくるのも好きで、
その旅先で、見たり感じたことを詩にして写真と一緒に残して、最近流行りのBLOGも始めようかとも
思っている。

彼が好きな過ごしたい生活スタイルは…ONとOFFをちゃんと分けて、OFFでの、風の流れるような~
過ごし方が大好きみたいだ。

「さてと…ゆっくりと湯にでも浸かってから、明日は非番だから、少し早いけど…来週の命日は仕事だから、
先に親父の墓参りにでも行ってくるか。」

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夢で逢えたら 2

窓から入ってくる明るい春の陽射しに、誰もがうとうととしてしまう季節。

目が覚めたらのんびりと足の向くまま、気の向くままに散歩して…そんな時に、

ふと立ち寄ってみたくなる。

『花言葉』はそんな喫茶店だ。

誰かの家に遊びに来たみたいに過ごしてほしい。

だから、大きく看板を出すこともなく、クチコミで常連客が増えていくような…

そんな感じ。

「曲がってない?大丈夫?」

「うん。もうちょっと、右側を下げて…」

「こんな感じ?」

「あっ、下がり過ぎた!」

「えっ、じゃあ…」

「あっ、また上がり過ぎだよ」

「春ちゃん。自分で見ながら直したほうが、早いんじゃないの?」

そう言いながら、翔平がフレームを徐々に動かしていくと

「あっ!そこっ!そこで止めてっ!」

春海が大きな声で叫んだ。

ふたりは今、店の壁に掛けてある、可憐な花の写真のフレームを掛け替えている

ところだ。

数々の花の写真は、春海が時間のある時に、一眼レフを片手にあちこち歩きながら

撮りためたものだ。

「ここ終わったら保育園に美空を迎えに行ってもいいかな?
今日はおふくろが都合悪くてさ」

「うん。いいよ。どうせ暇だし。行ってきなよ」

「わりぃな」

「いいって、いいって」

彼女~佐藤春海(さとうはるみ)が、本編のヒロインだ。
まぁ、ヒロインなんていう柄でもないか…。

鎌倉にあるこの喫茶店『花言葉』の若きオーナーである。

若き…といっても、つい先日とうとう35歳になってしまった。

名前からわかる通り春の生まれだ。

この歳になるまで独身でいるのは、独身主義なわけでもないが、結婚願望が強い
わけでもない。

ずいぶん前に両親を事故で亡くして以来、歳の離れた妹とふたり、父親の両親と
一緒に暮らしてきた。

実は、この喫茶店も春海の両親がやっていて、両親が亡くなったあと一時は他人の
手に渡ったが、祖父が買い戻してくれたものだ。
その祖父もおととしの暮れに亡くなった。

妹の彩夏(あやか)は、高校を出て大学の途中で小さな劇団に入り、大学は中退して
しまった。

その時に家を出てひとり暮らしを始めて、今ではその劇団の看板女優として活躍
している。

といっても、自主公演のたびに、劇場を借りる費用やらチケットを売りさばかなければ
ならないので、公演以外の時にはアルバイトで忙しそうだが…。

「うみちゃ~ん、ただいまぁ!」

店の扉を開けて、勢いよく駆け込んできて、春海の足にまとわりつく。

子犬のように転がりこんできたのは、今、翔平が迎えに行ったはずの美空(みく )
だった。

「あれっ?そらちゃん、なんでいるの?今、パパが迎えに行ったのに!」

「あのね、そらね。今日ね、あいちゃんとね、かえってきたの」

ちょっと得意そうに言う。

「えっ、藍ちゃんと帰ってきちゃったの?藍ちゃんのママも一緒なの?」

「ううん!そらね、あいちゃんとね、かえってきたの!」

「何?もしかして、ふたりだけで帰ってきちゃったの?洋子先生は知ってるの?」

「知らないっ!」

きっと今ごろは保育園は大騒ぎになっているだろう。

美空は翔平の一人娘だ。

翔平は春海の両親がこの店をやっているころから、店を手伝ってくれている。

春海より3つ年上なので、春海は子供の頃から翔平のことを、本当の兄貴のように
慕っていた。

翔平が結婚して美空が生まれると、春海にとって美空は姪っ子のような存在だった。

とはいっても、翔平の妻の麻里子が元気なうちは、翔平も美空を店に連れてくることも
なかったのだが…。

「春ちゃん、電話してきなよ。美空ちゃんは私がみてるから…」

「うん。由美子さん、ごめんね」

常連客の由美子に美空を頼むと、店の電話で慌てて保育園に電話する。

保育園は大騒ぎになっていた。

「あぁ、よかったぁ!じゃあ、無事に着いてるんですね。もう、洋子先生が泣きそうな
声で電話してきて、これから手のあいてる先生が総出で捜しに出ようとしてたんです。
本当に申し訳ありません」

「いぇ、こちらこそ。じゃあ、翔平…藤本には、私から連絡しますから!」

電話を切って、翔平にかけ直そうと、もう一度受話器に手を伸ばしたら、電話のベル
が鳴った。

翔平からだった。

「美空がいなくなっちゃったんだけど、そっちに行ってないか?」

「うん。いるよ。藍ちゃんとふたりだけで勝手に帰ってきちゃったみたいだよ」

「はぁ~、やっぱり行ってたか…。じゃあ、洋子先生に言ってすぐに戻るよ」

大人たちの心配をよそに、とうの美空は保育園のかばんから、らくがき帳とクレヨン
を出して、一生懸命に何か描いている。子供の成長って早い。

ついこの前までハイハイしていたと思ったら、もう自分で保育園を抜け出して帰って
きてしまう。

美空は描きあがった絵を、得意そうに春海に見せてくれた。

小さな女の子を真ん中に、メガネをかけた男の人とショートカットでカメラ(らしきもの)
を手に持った女の人が手をつないで立っている。

3人のまわりには色とりどりなたくさんの花(どれもチューリップに見える)が
咲いていて、青く塗られた空の端には、真っ赤でまんまるな太陽が描かれていた。

「ほら!あげる~」

「また、うみちゃんにくれるの?ありがとう」

「いいなぁ、春ちゃん。どこに飾るの?」

「額に入れて自分の部屋にね、飾ってるのよ」

春海の部屋には、そうして美空からもらった絵が何枚も、スクラップしてとってある。

「春ちゃん、いっそのこと、翔平くんと一緒になっちゃえばいいのに」

笑いながら由美子が言う。

「やだぁ!やめてよ!兄貴と夫婦になるなんて、考えたくないわ」

「麻里子さんが亡くなって、もう一年半だっけ?考えてもいいんじゃない?」

「冗談でしょ。私はひとりでいいよ」

「お休みとかひとりじゃつまんないでしょ?」

「そんなことないよ。あちこち写真撮りに行くし…。来月もまた山中湖に行くんだ。
バスツアーも楽しいよ!」

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夢で逢えたら 3

いょいょ…ゴールデンウイークに突入し、航も連日、渋滞でイライラしないように気をつけて運転業務をしている。

今日は、連日、富士五湖方面のツアーの最終日。

「やっぱり最終日は、いつにも増して混むなぁ~でも、今日のお客様は、比較的静かな感じて運転に集中出来るから楽だ。」


この日は、忍野八海~山中湖・花の都公園を廻るルートで帰ることになっており、忍野村と花の都公園では時間的にも少し長く停車するので若干の時間は乗客たちと廻って見ることにした、航だった。

今回の乗客のほとんどは、都内か神奈川・千葉県からの人たちが多く、圧倒的に8割が女性なのでツアーもいつにも増して賑やかである。
「忍野村はホント…久し振りに来たけど、相変わらずの人だなぁ~お土産屋さんも変わらないなぁ~
おぉ…っ、アジア系の中国や韓国系の団体さんも増えたなぁ~それにしても、みんな元気だよなぁ~
やっぱり"キムチパワー"かな?。(^_^)」

航がひとり、お土産を冷やかしていると航のバスの乗客がやってきた。

「あっ!運転手さぁ~ん。スミマセン…カメラのシャッター押してくれませんか?」
女性数人のグループにシャッター押しを頼まれた航は、愛想良く応対した。

「皆さんは、どちらからいらしたんですか?」
「はぃ、神奈川と東京からですー、伊集院運転手さんのバスでね!」
「(^^ゞ…はぃ…どこでいいですか?ちようど富士山の雲がはけてきたからバックにしましょうか?」
「はい…じゃぁ…お願いします。」
「じゃぁ…撮りますょ…はちみつを英語で言うと…」
「えっ?“ハニー”~?」
「はい、いい笑顔で撮れましたょ。」
「ありがとうございました。運転手さん面白い“ハニー”って撮ったのは、初めてですょ。」
「いいぇ…少しでも和めばと…ところで、失礼ですが…皆さんは?何かのサークル仲間か何かですか?」
「はい、きっかけは、福祉朗読の仲間なんですが…いつの間にかみんな旅行や花を見るのが好きなので最近は、こうして季節ごとに時間が合うメンバーで旅してるんです。」
「そうですか…でも、そういうのもいいですね。」
「じゃ…また、次の“花の都公園”でも…写真お願い出来たら声かけますね。」
「富士山は全部は見えないけど…あのあたりで富士山バックに写真が撮れるといいですね!」
「はぃ、期待してます。o(^-^)o じゃぁ…また。」
こんな風に、旅先でお客様と触れ合うのは航にとっては当たり前の光景であった。
航も、少しぶらついてみることにした。

忍野村を何年か振りに歩いた航は、胸の奥底にしまっておいた、その昔、富士五湖方面に一緒に遊びに来た当時の彼女のことを思い出していた。


航が大学生の頃に付き合っていた彼女、深雪(みゆき)のことが、このエリアに来るといつも思い出してしまう。
だから彼は、プライベートでは決して富士五湖方面には来ることはなかった。
今でも鮮明に当時の彼女の記憶は彼の中からは薄れていくことはなかった。
二人は、同じ大学のキャンパスで出逢い、やがて…ごく自然なカタチで恋に落ちた…
互いに、今どきにはいないような透明で真っ直ぐな性格もあいまってか、それは、いわゆる"純粋"な恋だった…しかし…運命という神は、どうして、こんなにも幸せな二人にこんな仕打ちをするのかと思う様な出来事を二人に与えたのだった。

忘れたくても忘れることは出来ない、あの真夏の出来事…

当時、大学4年の夏に、二人で、この富士五湖方面に来た時のこと…

学校関係も夏休みということもあり、家族連れでどこも混雑していた。

深雪と航たちが…この山中湖あたりでご当地物を食べたりしながら散策していた。

航が深雪が食べたいと言っていた名物のソフトクリームを買いに行っていた間にそれは起きた…

航が買いに行ったお店には沢山の家族連れやカップルで混雑していた。


「すみません…巨峰ソフトクリームをコーンで2つ下さい…」


…っと、深雪の好きなソフトクリームを買っていた、その瞬間…航の背中で悲鳴とともに車の急ブレーキ音と共にドン!という鈍い音と共に悲鳴があがった…

何気に振り返ってみると…そこには、ありえない光景があった…

深雪が車に跳ねられて照りつく真夏のアスファルトに血を流して倒れているではないか…

その隣には、2歳くらいの女の子の泣く姿があった…

深雪は…航が道路向こうのお店に買い物に行った後…

親もとから離れて間違えて車道に出て行こうとする子供を見つけて…

抱きかかえて戻る時に対向車線から来た車に跳ねられた…

しかし、抱きかかえていた女の子は奇跡的に助かった。

ソフトクリームを投げ捨てて深雪のもとに駆け寄った航だったが…

すでに深雪の心臓は停止しようとしていた。

そして…深雪が航に薄れてく意識の中で必死に最後に言った言葉…

「航…ごめんね…約束..果たせなかったょ。。また、いつか逢おうね…きっと…だ…ょ…」

そう言うと深雪は“ひとしずくの涙”を流し静かに息を引き取ったのだった。

あれから…幾つもの季節が過ぎ去ったが、航には、深雪の“最後の言葉”とあの涙をは忘れることは一日たりともなかった。

その後…航たちは、次のスポット『山中湖・花の都公園』へと向かった…

「GWでも富士山には、まだ、結構雪があるんだなぁ…
ん?…っと…さっきから…富士山を撮らずに花ばかり携帯電話で撮影する一人の女性がいるけど…何、撮ってるのかなぁ?」

航はその女性に近づくと声をかけた。
「こんにちは、いい写真…撮れますか?」

「あっ、はぃ…最近の携帯電話はデジカメ並みなので…つい夢中になって…」

年の頃は、航よりかなり上のようで、化粧もしていないが…笑顔がとても印象に残る感じの女性だ…

どこか、雰囲気が深雪のような感じがしていた…

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夢で逢えたら 4

「こんにちは、いい写真…撮れますか?」

春海が夢中になって写真を撮っていると、後ろから声をかけられた。

「あっ、はぃ…最近の携帯電話はデジカメ並みなので…つい夢中になって・・・」

いつもは重い一眼レフのカメラを持ち歩いて、目に留まった花や景色を撮っている春海だったが、つい先日、機種変した新しい携帯には、それこそ古いデジカメなんかよりも、よっぽど綺麗に写せるカメラ機能が搭載されていて、試しに今回は携帯のカメラで撮影してみるつもりできたのだ。

「さっきから花の写真ばっかり撮ってるみたいですね。富士山は撮らないの?」

「富士山も撮ってますょ」

春海がそう言うと、話しかけてきた男性は(あれっ?いつ撮ったんだろう?)

という顔をしたけれど、すぐにまた笑顔になって

「向こうのほうには桜が咲いてましたよ」

と言った。笑顔が爽やかな青年だった。

最初、話しかけられて(誰?)と思った春海だったけれど、胸元につけられた名札を見て、彼が春海の乗ってきた観光バスの運転手だったことに気がついた。

名札には観光バスの会社名と『伊集院』という名前が書かれていた。

彼が向こうのほうと指差した先には、確かに淡いピンク色が帯状に連なっているのが見えている。

「ありがとうございます。行ってみますね」

「うん。いってらっしゃい」


春海は大抵こういったバスツアーもひとり参加だ。

店で接客している時には、いろんなお客さんといろんな会話で盛り上がるが、ひとたび店の外に出てプライベートになってしまうと、特定の誰かと親しく話したり、ずっと一緒にいることが、緊張してしまって上手く出来なくなる。

要するに人見知りなたちなのだ。

妹の彩夏には

「だから、お姉ちゃんはいい人が出来ないのよ」

と、いつも言われている。

店を離れて、普通に会話が成り立つのは彩夏と翔平くらいなものだろう。

(そういえば、今の人とは普通に話せちゃったわ?…伊集院くんだっけ?)

あまりに自然に話しかけて来てくれたものだから、全然気負わずに自然に言葉が返せた。


彼が教えてくれた桜の道まで来て、後ろを振り返ると、小さな女の子を連れた家族連れと楽しそうに話している彼の横顔が小さく見えた。



バスに戻ると、一緒にツアーを廻っていたもう一台のバスの姿がなく、乗車口の脇で伊集院運転手と若いバスガイドの女の子が何やら話し込んでいる。

春海の姿に気がついて、伊集院運転手~航が

「お帰りなさい。桜、綺麗だったでしょう?」

と、話しかけると、慌てて隣のバスガイドも笑顔で

「お帰りなさい」

と言った。

「ただいま。…どうかしたんですか?もう一台のバスいないみたいだけど」

「……」

「いゃ、何でもないですょ。この後の確認をしてるだけですから…」

どうもバスガイドの女の子は新人らしく、半分泣きそうな顔で無理やり笑顔を作っている。

春海の後に、女性グループが戻ってきて、出発予定時刻より若干早く、全員が揃ったようだった。

ほどなく運転席に航が座ると、バスガイドの女の子が言った。

「では、全員揃ったようなので、少し早いですが出発します。…で、予定には入ってなかったんですが、この近くに菜の花が一面に咲いていて、絶好の撮影ポイントがありますので、ちょっとだけ立ち寄ってみようと思います。よろしいでしょうか?」


それは、忍野の内野地区の花畑だろうか?

整備された『花の都公園』とは、また一味違った本当の自然の中で一面の花畑をバックに見られる富士山がとても綺麗だと聞いたことがある。

一度行ってみたいと春海は思っていたのだけれど、そんなマニアックな場所に立ち寄るようなツアーなどなく、自分で車の運転も出来ない春海は諦めていたのだ。

(でも、どうして急に?)

バスのあちこちから「ぜひお願い」「行ってみたいわ~」と声があがると、バスガイドの女の子は目にみえてホッとした顔をした。



春海たち乗客にはあえて説明しなかったけれど、実はこれには理由があった。

航の運転する2号車より、遅くに『花の都公園』に着いた1号車で、乗客がひとり行方不明になっていたのだ。


ここにくる前に立ち寄った忍野八海を出発する時に、ひとりの乗客がお手洗いに立ち寄ったまま集合時間を過ぎても、戻って来なかった。

慌ててその女性客のグループの人が何人か捜しに戻ったのだが、当人は戻ってきたが捜しに行ったうちのひとりを乗せ忘れて来てしまったのだ。

『花の都公園』についてバスを降りてから、そのことに気がついて、1号車のバスはそのグループだけ乗せて忍野八海に戻った。

1号車のバスガイドも新人だったから、どうしたらいいか?航に助けを求めてきたのだった。

1号車の乗客には、バスが戻ってくるまで、集合時間を伸ばして伝えたが、2号車の乗客で早くに『花の都公園』から出てきてしまった人がいたので、公園内で待たせるわけにもいかず、かといってバスの中で待たせるわけにもいかなくなって、急遽、航が機転を利かせたのが、『とっておきの場所』への案内…での時間調整だった。



内野地区の花畑は、案内板があるわけでもなく、もちろん駐車場もない。

バスがその場所に到着すると、バスガイドの里香はまた航に

「出発時間はどうしますか?」

と、小さな声で聞いた。

航は頭の中で素早く道路の状況と1号車の戻った時間を計算すると

「10分間、だな。それで次の場所で同じくらいの時間に着けると思うよ」

と言った。

「では、今から10分間、時間を取ります。あまり長くは道路にバスを停めておけないので、皆さん、時間は守ってくださいね!」

春海の念願の光景が、目の前に広がっていた。
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夢で逢えたら 5

春海が…見たかった内野地区の菜の花畑…

まさか、こんなカタチで見られるとは思ってなかったので内心…運転手の伊集院には感謝していた。

5月のこの時期は、その年によって遅咲きとなる桜の樹があったりはするが
、なんといっても内野地区の菜の花畑から見る富士山は絶景だ。

ちょうどこの日も珍しいくらい好天気に恵まれて、春海がかねてから良く雑誌などで見ていた絶景な風景が目の前に広がっていた。
約10分という限られた時間だったが春海にとっては菜の花の香りに囲まれ時間も忘れて写真撮影に夢中だった。

暫くすると…遠くから~航の呼ぶ声がした。



「皆さん~そろそろ時間ですのでバスにお戻り下さい~」

そう声かけをしながら、航は春海のほうへと歩いてきた

「どうでしたか?納得するショットは撮れましたか?」

…と声をかけると

春海も…何とか自分の納得するショットが撮れた様子で笑顔でバスへと戻り航に挨拶した。

「はぃ、ありがとうございました。ここの写真がずっと欲しかったのでとても嬉しいです。」

「それは、良かった。皆さんに、そう言って喜んでいただけた声や笑顔が僕らは一番嬉しいです。
撮影された写真は引き伸ばして部屋にでも飾られるのですか?」

「はぃ、小さな喫茶店をやっているのでお店のどこかにでも飾ろうかと…あと、趣味でBLOGを始めたので、そちらにも載せようかと。」

「そうですか、喫茶店はどちらですか?」

「鎌倉で両親がやっていたお店を引き継いで、ひっそりとやっています。
珈琲は自慢出来ますょ!」

「そうですが、あのあたりは僕もたまに友達と行くので、名前だけ聞いておこうかな?いいですか?」

「はぃ、近くに来られたら是非、立ち寄って下さい。美味しい珈琲と自慢のケーキもご馳走しますょ。あっ、そうそう…お店の名前は『花言葉』です。
BLOGも、そんな感じの名前なんですが…」

「了解です。じゃぁ~また、その時は立ち寄らせていただきますね。」

そんな会話をしながら~二人はバスへと戻っていった。

普段は、人見知りな春海だが…何故か、航とは自然に会話が出来ていた…そのことは春海自身は気付いていなかった。


その後~再度1号車と合流したバスは春海たちを乗せて出発地の町田市民ホールの駐車場へと戻ってきた。

乗客たちの荷物を荷物入れから出して、一人ひとりに手渡しながら乗客たちを見送った航だった。

バスから降りてきた春海は航に丁寧に挨拶をした。

「今回は、いろいろとお世話になり、ありがとうございました。

また、ご縁があれば、ツアーで、ご一緒したいです。とても気持ちいいツアーでした。」

そう航に挨拶すると…

「いいぇ…今回は晴天に恵まれ良かったです。帰り道にはハプニングがちょっとありましたけどね。
素敵な写真が撮れたみたいですから、撮られた写真は、これから~帰宅されてから写真をいろいろとやられるんですよね。 頑張って下さい。
僕もホームページかBLOGをやろうかと思っています。友達がホームページ用のソフトをくれるっていうので、まだ、少し先になるかと思いますが。ダメならBLOGかもしれないですが..
また、そちらのBLOGも検索して写真見にいきますね!」

「はぃ、是非、いらして下さい、毎日のように゛花言葉゛についても載せてますし、きっと旅行の写真を見ればわかるでしょうしね。お待ちしています。
“花言葉”で検索してみて下さい。その時は、ゲスブに書き込みお願いしますね。
ホームページのアドレスなんかは“内緒モード”で書き込みすれは私にしか見られないから使って教えて下さいね。
私もホームページ覗きに伺いますから~」

「了解です。じゃ…また、見に行きますね、今回は、お疲れ様でした。」



そう話すと、二人は爽やかな笑顔で別れ、航たちも他のお客様の見送りも丁寧にして無事に今回の仕事は終わり、航と同行のバスガイドの山口里香の二人は車両を車庫に戻すのに会社へと戻っていった。


その車内で、里香から航に話しかけた…

「伊集院さん、今回のツアーはアクシデントがありましたが何とか時間通りに終わりましたね。」

「うん、お天気が良かったからね、山口さんの対応も落ち着いていて良かったよ。ご苦労様。」

「いいぇ…伊集院さんが、いつもお客様第一に考えているおかげで私も安心して乗務出来ました。
あっ、そうそう…
さっき、お客様と話しをされていた時に鎌倉あたりの話をしていましたけど
、良く行かれるんですか?」

「うん、たまにね。最近は、湘南方面にはあまり行かなくなったなぁ~でも、そろそろ梅雨が来て空けたら…夏だからね…。
映画を見に行くのが最近は多いかな?」

「私も良くひとりでに息抜きする意味で映画は見に行きますょ。
で…映画は、どんな作品を見に行くんですか?」

「うん…キャストと内容が気に入れば何でもかな?」

「最近の作品で、何か見たい作品は何かありますか?」

「そうだなぁ~○×△◇…なんかは見たいねぇ~」

「あっ…それなら私も気になってる~」

「じゃあ~今度、休みのシフトが合う時に映画でも行こうか?山口さんが良ければだけどね…」

「えっ!ホントですか? 嬉しいo(^-^)o 行きます、行きます!」

里香たちのガイド仲間内では、伊集院航は何気に人気があるドライバー的存在であった。

それは、他の運転手にはなかなかない。

乗客にも添乗ガイドに対してもいつも気配りしてくれる人間性に、皆一同に仕事してることを忘れてしまうくらい優しい…そういう存在であった。

そこで、里香は勢いのままに…

「じゃあ…また、連絡取り合って予定を決めましょうね。
あの…もし、差し支えなければ携帯のメアドとか番号とか…教えていただいても宜しいですか?」

「うん、そうだね、いいょ、構わないょ。ちょっと待ってね。あっ…山口さんの携帯はどこのメーカー?」
「私はauです。」
「同じだね。じゃぁ~赤外線通信であげるょ。」
「はぃ、じゃあ~・・・」

そう言いながら…二人は互いの連絡先を交換して、この日は、帰路についた。

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夢で逢えたら 6

ゴールデンウイークの忙しい時期を過ぎると、航の仕事も一段落がつき、しばし余裕のある日々が続いていた。

梅雨の時期は、観光に訪れる人も若干減るからだ。

今は梅雨の合間にフルーツ狩りなどで集客をはかるくらいで、次に忙しくなるのは、夏休みに入る頃だろう。

自然に航たちドライバーの仕事のローテーションも緩くなり、自分の時間も忙しい月に比べるとゆっくりと持てる。

今日は溜まっていた報告書を会社に提出すると、他には予定もなかったので、早々に退社した。

つい先日に発売になったお気に入りのアーティストの新しいアルバムを買って帰って、あとはのんびり聴きながらゆっくりと過ごそうと思っていた。


「お疲れさま。お先に…」

「お疲れさまでした」


事務員の真希に見送られて営業所を出ると、ちょうど都内の半日のバスツアーの添乗から戻ってきた里香が、荷物と一緒に大きなゴミ袋を2つ両手にさげて、向こうから歩いてくるところに行きあった。


「お疲れさま」

「お疲れさまです。今日はもう、おしまいですか?」

「うん。今日は報告書を出しにきただけだからね。山口さんは、今戻ってきたの?」

「はぃ。今日は東京下町味巡りツアーで、半日の乗務だったんですょ~。見てくださいよ。このゴミの量!」

「すごいな」

「半日にして、この量ですもん。まぁ、あちこちに捨てられちゃうより、いいですけどね」

「かしてごらん。持つよ」

「大丈夫ですょ」

「いいから、かしなょ」


一緒に乗務したドライバーの田嶋は、とっくに自分の荷物と一番小さなゴミ袋だけ持って、先に行ってしまっていた。

こんなさりげない気遣いが、航と他のドライバーとの違いだなぁ、と里香はあらためて思った。


「じゃあ、すみません」

「山口さんは、午後はまた乗務あるの?」

「今日はもうおしまいです。…あっ、伊集院さん、このあと予定ありますか?」

「いゃ、特にないけど?」

「じゃあ、前に話してた映画。見に行きませんか?確か先週の土曜日に公開になったはずだったから」


いきおいに任せて、里香が言うと

「あれっ、そうなんだ?」

と航が笑いながら言った。


「うん。確か先週末に公開ですょ。テレビで予告も流れてたし…」

「いゃ、そうじゃなくて…山口さん、一緒に映画行ってくれるんだ。メアドとか聞かれたのに、ちっとも連絡くれないからさ」


航の笑顔と言葉に、里香は心なしか頬を赤らめてしまった。

いきおいで航にメアドを聞いてしまったものの、自分から何とメールしたらいいのかわからずにいたからだ。


「すみません。映画が公開にならないと、メールしても困るかな、って思って」

「なんで?別に映画だけじゃなくても、飯食いに行ってもいいんじゃない?。あ、でも時間が空いてなかったのかな?」


だったら、伊集院さんから誘ってくれてもよかったのに…


そんなふうに思いながらも、里香は笑顔で航に言った。


「じゃあ、急いで片付けてきちゃいます。ゴミ袋ありがとうございました」

「いいょ。ゴミは僕が片付けておくから、先に着替えてきちゃいなよ」

「そんな、いいですょ」

「ダメダメ。そっちの袋もかして。そのほうが早いょ」

「そうですか?…じゃあ、急いで支度してきますね!」

「うん。慌てなくてもいいょ」


航にもうひとつのゴミ袋も渡すと、里香は小走りになって、営業所に駆け込んだ。



営業所の事務室の中では、田嶋が真希に淹れてもらったインスタントコーヒーを飲みながら、来客用のソファーにふんぞり返っていた。


「お疲れさま」

「おぅ、お疲れさん。早かったじゃないか」

「里香もコーヒー飲む?」


書類を整理する手をとめて、真希が立ち上がろうとするのを

「ありがとう。でも、いいわ」

と応えて、田嶋には軽く眉を上げてみせる。


「田嶋さん、さっさと先に行っちゃうから、大変だったんですょ!伊集院さんが手伝って、ゴミ袋運んでくれたんですからね!」

「おぅ、わりぃな!でも、航は優しいからさ、俺なんかと違って」

「ホント、田嶋さんとは大違い。真希もそう思うよね?」

「航が特別だろ?フェミニストってやつだよな」

「他のドライバーにも、少しは伊集院さんを見習ってほしいわ」


田嶋に向かって、わざとキリッとした顔をしてみせると、里香は持っていた乗務ノートを真希に渡した。


「ごめんね。ちゃんとした日報は、明日の乗務前に書くから、数字だけ入れておいてもらってもいい?」

「うん、いいわょ。なぁに?急いでるの?」


真希の問いに言おうか?やめようか?少し迷ったが、田嶋には聞こえないくらいの小さな声で

「うん。これからね、伊集院さんと映画を見に行くの」

と告げた。


「えっ!?里香、伊集院さんとデートなの!?」

「しっ、声が大きいって!…そんな大層なもんじゃないわょ。前に一緒に乗務したときに、映画の話になって
…たまたま、こないだから上映してるし、今日はふたりとも半日だったから…」

「いいなぁ。伊集院さん、優しいし楽しいし…誰にも分け隔てないじゃない。私なんて事務だからって、バカにしてくる人も多いんだよね」

「じゃあ、真希も一緒に来る?」


そう言いながら、里香は

( 私ったら、何をバカなこと言ってるんだろう?ホントはそんな気もないのに… )

と思っていた。


「う~ん、行きたいけど、今日は夜帰着が5台あるから無理だわ。あとでどんなだったか、ちゃんと報告しなさいょ、里香」


真希が一緒に来ると言ったら、航になんて言おうか?と思っていた里香は、ホッとしていた。

きっと、真希が一緒に来ても、航はなんの違和感もなく、いいょと言うのだろう。

そんなふうに考えて、真希が仕事を放り出したりしない子でよかった、と里香は胸をなで下ろしていた。

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夢で逢えたら 7

偶然、仕事あがりのタイミングで航に会い“想定外”な映画デートとなった里香はロッカー室で支度をしながら…考えていた。


(まさか、伊集院さんと映画になるなんて思ってなかった。
映画の後…晩御飯も一緒に出来たらいいけど…無理かな?
あまり調子にのると嫌われちゃうから…止めとくか…
あっ!いけなぃ…早く、行かなきゃ…(^^ゞ)

「すみませぇ~ん。お待たせしました。ゴミ…ありがとうございました。」
「いゃ、気にしないでいいょ、同じ職場の仲間なんだから当たり前だょ。」
「ところで、山口さんは車でしょ…どうする?バラバラで行くか一台で行くか?山口さんの家ってどこだっけ?」
「はぃ、上鶴間です。」
「そっか…このあたりだと映画館は大和か南町田あたりだから…
僕のアパートは金井だから、君のを置いて、僕の車で行くっていうのはどうかな?抵抗あるなら二台でもいいょ…」
「いいえ…そんなことはないですょ。じゃぁ…そうしましょう。」
「でね…映画だけど…【四日間の奇蹟】…だったよね…浅倉卓弥の小説の…確か舞台が山口県下関市が舞台で景色も予告編見ても良かったんだよね…でもさ…どの映画館で見ようかと…今…待ってる間、調べたけど…大和か南町田あたりが時間的にはいいかな?って調べたけど…
今日は、時間が合わないょ、レイトショーになっちゃうから…あまり遅いと…両親が心配するから…
でね!真逆な映画だけど…【電車男】も見たかったんだょね…どう?」
「はい、いいですね、私も見たい映画だったからいいですょ。
(本当は、伊集院さんと行けるなら何でもいいんだけどなぁ~)」
「じゃあ、決まりだね、そんな感じで行こう。」

そう話すと…2人は車で、まず、里香の家に置いて、航の車に里香が乗り込み映画館へと向かった。

その車内で…

「山口さんは…車は何年目?」
「はぃ、やっと3年目です。あっ!それから~山口さんでなくて、里香って名前で呼んで下さい。業務中でもないので。」
「うん、わかった。じゃぁ、里香ちゃんは、映画とかコンサートは良く見に行くの?」
「映画はジャンル問わずに、ひとりで行ったり友達と行ったりしています。
コンサートは、徳永英明や小田和正はチケットが取れれば行ってます。」
「小田さん好きなんだ…僕もオフコース時代から好きだよ…じゃ、小田さんのbest-CD作ったのがあるから~聴きながら行こうか?」
「えっ~そうなんですか?意外だったなぁ~イメージ的には、ハマショーとかだったから・・・意外です。
そういえば、伊集院さんって声高いですもんね。カラオケ♪なんかは行かれるんですか?」
「あぁ…自分からは誘ったことはないけど…誘われれば行くって感じかな。
徳永英明もあの声好きだよ。」
「じゃぁ…次回は、カラオケ誘ってもいいですか?」
「うん、時間が合えば構わないけど…歳の差があるから歌が合わないかもょ!」
「全然…気にしてませんから…じゃぁ…次はMailしてもいいですか?」

「うん…誘いでなくても、暇な時に、たわいもない内容でもいいょ…Mailしてくれても、人との会話は好きだから・・・」

そんな雑談をしながら~2人は映画館に着いた。
「あれ~今日は…ガラガラだねぇ~」
「ホントですね。」
「里香ちゃんはトイレは大丈夫?」
「はぃ、大丈夫だと思います…でも、念のために行ってきますね。」
「じゃぁ~チケットは僕が買っておくょ」
「お願いします。後で精算して下さいね。」

そう話した後…二人は映画を見たのだった。

見終えて中から出てきた二人は…

「結構、良かったね、ちゃんと恋愛ストーリーしていたしね。」
「そうですね、山田君も中谷美紀も、いい感じでしたよね!」
「ところで…里香ちゃんは、この後は何か用事はあるの?なければ晩御飯一緒にしない?ひとりより二人のほうがいいし…どう?」
「はぃ、大丈夫です。喜んで…(ラッキー!伊集院さんから誘われるなんて~)」
「じゃぁ…何?食べたい?」
「そうですねぇ…洋食屋さんとか、雰囲気のいい喫茶店でもいいなぁ~伊集院さんは近くで知ってるところありますか?」
「う~ん…このあたりはないなぁ~。町田ならいくつかあるけど…里香ちゃんが行きたいとこにしょうか?そのほうが楽しみだし…」
「いい感じの喫茶店がありますが、そこでいいですか?」
「うん、コーヒーは大好きだからコーヒーが美味しいならいいょ。」
「はぃ、コーヒーは自慢ですょ。じゃぁ…私が案内しますね。」


そう話すと、二人は、航の車で里香のお気に入りのお店に行き食事をし、いろんな話題で盛り上がり楽しい夜を過ごし、航が遅くならないうちにと…里香を家まで届けて別れた。



航のほうは里香を送り届けた後にいつものスパへと向かい温泉に浸かった後に~帰路についた。

先に帰宅した里香は~

お風呂に入りながら~今夜のことを思い返していた。

(伊集院さんとは、初めてのデート?だったけど…何だか自然体で一緒にいられたなぁ~
彼って?彼女っているのかなぁ? 全く、そんな雰囲気ないけど…
うん… …まぁ~あまり気にすることないか。)

その頃、航は…

帰宅して、少し時間があったので一杯飲みながら~久しぶりにパソコンを開いて、ホームページにしょうか?流行りのブログを開設しょうかと迷いながら…ネットサーフィンをしながら様々なホームページやブログを検索していた。

そんな中…ふと、先日のバスツアーで一緒だった女性のことを思い出して検索してみた…

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夢で逢えたら 8

「こんなにたくさんあるんだ…」

パソコンを前に、『花言葉』で検索をかけてみて、航はあまりの数の多さに驚いた。

ブログだけでなく他の『花言葉』に関するサイトも混ざっていたせいか、約333万件もある。

ブログに絞って検索してみても、まだ184万件ほどもある。

( そうだよな。どこのブログを使ってるかもわからないし…そもそも、名前も知らない… )

また、時間がある時にでも、思い出したら探してみよう…

そう思い直して、パソコンを閉めた。



明日は朝が早い。

今シーズン最後の、山形のさくらんぼ狩りだ。

枕元の目覚まし時計を4時半にセットすると、航はそうそうにベッドにもぐりこんだ。






パタンと春海はノートパソコンを閉じた。

明日は久しぶりの定休日だ。

以前は週に一度は定休日にしていたが、春海が店を任されるようになって少しずつだが常連客も変わってきた。

それに合わせて店の定休日も月に2~3度、不定休に変わってきてしまった。



春海が任される前は、祖母の みすゞが店を切り盛りしていた。

春海も妹の彩夏も学校から帰ると、みすゞを手伝って店が閉店する時間まで一緒にいるのが大好きだったし、日課だった。

祖母のみすゞは、80才を過ぎて今もなお元気だ。

本当はまだまだ店も自分で切り盛り出来るのだが、春海の性格を見越して店を任せてくれた。


「まだまだ長生きして楽しまなきゃねぇ。あとのことは春海に任せたよ」


今では友達と海外旅行なんかにも行っている。


「本当は若い頃に行きたかったんだけどね」

そういうと鈴がなるような声で笑った。


実際、喫茶店をやっていると、なかなかまとまった休みなどは取りにくいものだ。

春海の場合は、まだ海外旅行なんて行くつもりもないし、どこへ出掛けるのもたいてい一人だ。

だから数少ない定休日には、その季節に見頃な花を求めて、行ける範囲で足を延ばしている。

バス会社の日帰りバスツアーを利用するようになったのは、つい最近のことだ。

それまでは電車や路線バスを使って出掛けていたので、行ける範囲も地元の鎌倉とその周辺ばかりだった。

日帰りバスツアーを利用するようになって、がぜん行動範囲が広がった。

実はこれも、みすゞが勧めてくれたことだ。


「海外旅行もパッケージツアーはつまらないね。確かに便利だけどね。健太朗さんと行くときは、あの人心配性だから、パッケージツアーにしていたけども、今は小夜ちゃんとは、断然フリーだね」


“健太朗さん”は、みすゞの夫…春海の祖父だ。

ふたりは歳を重ねても名前で呼び合うほど、仲がよかった。

だから、健太朗が亡くなってしばらくは、みすゞの落ち込みようったらなかった。


「おばあちゃんが元気がないと、おじいちゃん哀しむよ」


春海と彩夏の励ましの言葉に

「そうだね。こんなことじゃ、健太朗さんに叱られちゃうね」

と、気を取り直してからは、みすゞがクヨクヨしているのを春海は見たことがない。


“小夜ちゃん”はみすゞの幼なじみで、70年来の親友だという。

今では小夜ちゃんと二人で年に1~2回は海外旅行をしている。


「フリーでなんて行って、観光はどうするの?おばあちゃん、英語だってろくに話せないじゃない?」

「そんなもんはどうにでもなるもんだよ。現地でね、外国人観光客向けの旅行会社を探すんだよ。それで、気に入ったオプションて~の?頼むんだよ」

「そんなのいきなり頼んで大丈夫なの?」

「なんとかなるもんだよ。いろんな国の人と仲良くなれるし、面白いよ。」

「ふ~ん?」

「春海もひとりで出かけるのは気楽だろうけども、一日で行けるバスツアーとか行ってみたらどうだい?いろんなとこに行けるだろう?」

「日帰りバスツアーねぇ…」

「ヨーロッパにだってあるんだから、日本にだってあるだろう?なんならあたしがついてったげようか?」

「いいょ。そうだね、探してみるね」



そうして、実際利用してみたら、今まで行きたくても行けなかったようなところまで行けるので、今ではバスツアーの日程に合わせて定休日を決めてしまったりもする。



バスツアーも旅行会社主催のもの、バス会社主催のもの…などなどいろいろ試してみた。

コースも様々なら、対応も様々だ。


( こないだの山中湖のバスツアーは、対応よかったな )


花をメインに考えてコースを決めるので、たいてい見学コースはどこで頼んでも一緒だ。

違うのは、どこの場所に時間を多くとっているか?

そしていちばん重要なのは、バスガイドさんや運転手さんの対応~接客に対する姿勢なのだ。


あまりに大手の旅行会社だと、他に添乗員もつくが、乗客に対する態度が事務的だったり、通り一遍だったりすることが、しばしばある。

前回のバスツアーは、その点、気配りが行き届いていて、不測の事態にも臨機応変に対応していた。

あの想定外の『内野の花畑』での短時間の観光は、まさしく何か?不測の事態の対応配慮だったのだろう。


春海はそう思ったけれど、他の乗客はきっと気づかなかったに違いない。

( また、いいコースがあったら、利用してみよう )


明日の定休日は、幼なじみの翔平と、翔平のひとり娘の美空と一緒に、動物園に行くことになっている。

本当は翔平親子と、翔平の母の陽子で出掛ける予定だったのに、陽子が先週、階段で転んで足を捻挫してしまって行けなくなってしまった。

親子水入らずで行ってもよかったのだけれど、美空が

「うみちゃんも一緒がいいの!」

と言い出してきかなかったのだ。

陽子にも

「春ちゃん、お願い。一緒に行ってあげて!」

と、頼まれて、春海は

「うん。いいよ」

と引き受けたのだった。

子供のころに両親を亡くした春海にとって、陽子はみすゞとはまた違った意味で、母親のような存在だった。


( 動物園なんて何年ぶりだろう? )


明日は早起きしてお弁当を作ろう。

春海は部屋の灯りを消し、ベッドにもぐりこんだ。

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夢で逢えたら 9

♪…♪…
携帯電話の目覚ましが鳴っているが…めずらしく春海は気づかず眠っている。
このところお店を休んでいなく、先日のパスツアーも約1ヶ月振りの休みだったが歳のせいか少しずつ疲れが抜けなくなってきていていた。

♪…♪…♪…
やっと3度目の目覚ましで目が覚めた。

「う…う~ん。 よく寝た…゛あら!嫌だ~ (/ ^^)/もうこんな時間!
これから… 翔ちゃんと空ちゃんたちの分のお弁当作らなきゃ~どうしょう?完全に寝坊だぁ~
とりあえず…遅れのMailしておこう。 」

そう言いながらバタバタと、何とか3人分のお昼のサンドイッチとサラダ・おかずなどを作りバスケットに詰め込んで翔平と美空の家まで駆け足で行った。
「おはよう~ ゴメン…ゴメン…少し遅れちゃった… 」
「大丈夫だょ!春ちゃん、゛遅れる~゛のMailをもらってるから。
春ちゃんも…疲れが溜まってるんじゃない? あまり無理すんなょ! 」

「うん、ありがとう。 空ちゃん、遅れて、ごめんね。 」
「待ってたょ~… ねぇねぇ…早くパパの車で動物園に行こうよ。」
そう話すと3人は、かなり前から行きそびれていた動物園へと翔平のワゴン車で向かった。
そして…到着。
「わぁ~ぃ! 動物園!動物園~ !」

美空が待ちきれないというように、春海の手を引いて今にも駆け出しそうだ。

「時期はずれとはいえ祭日なのに意外と空いてるなぁ~ 」
「そうね。良かった…空いていて。さぁ~チケット買って中に入ろう。 」
3人はチケットを買って中へと入って行った…
しかし、どうも春海がイメージしていた動物園とは何だか雰囲気が違っていた…
行き交う家族連れたちの服装が…どうにも時代と゛ミスマッチ゛していた…
そんな不思議な感じで周りを見渡している間に…いつしか、翔平と美空の姿がなくなって春海は一人になっていた。
「あれ?翔ちゃんと空ちゃんがいない?探さなきゃ… 」
そう…ひとりごとをいいながら歩いていると…
後ろから…遠い昔に聞いたような懐かしい声が…春海を呼んだ…
「ハル~!ここや…そんなとこで何してん?」
「えっ?誰…?」
…と振り返ると、そこには、遠い昔につきあっていた恋人の山崎幸司だった…
「あれ? コウちゃん…何でここにいるの? 」
「ハルが何や道に迷っているみたいやさかい、心配で逢いにきたんょ。」
「ホント久し振りだね。あれから~何してたの? 」
「うん、あれからは~いつもハルのこと見てたんょ。」
そう話していると…少し離れたところから~
「あれ、コウちゃんじゃないかい?」
「あっ。みすゞばあちゃんやないけ…健太朗じぃちゃんも…珍しいな…ツーショットは。 」
「あんたたち、こんなところでデートかい?コウちゃんと逢うのは何年ぶりかね。 どうなの…そっちの生活は…?」
「そういう、ばあちゃんも健太朗さんと仲よう動物園デートかい? 」
「まぁ~約束した訳じゃないけどね゛偶然゛ってやつかね。
いつも考えていることは一緒だから~ね。健太朗さん。」
「そうだょ、春海がね…まだ、自分の運命に気づいてないから~
教えてやろうかと思ってな…それと、みすゞにも逢いたかったし… 」
「あら~私に逢いたかっただなんて相変わらずだね…嬉しいょ。
健太朗さんも元気そうだし…良かったょ。 」
「えっ?ちょっと…理解し難いシチュエーションなんだけど… 」
(いったい、どうなってんの?)
「ハルは元気だったんか? 懐かしいなぁ~。こん場所も何年ぶりやろうか?
確か?ハルとは2回くらいは来たことあんねんな…覚えてるか?」
「うん、コウちゃんとは、そうだね2回だね。最後に来たのは、ずいぶん前だから覚えてないょ… でも…一緒に、あの場所で2人で写真を撮った時のことは覚えているょ。
あの時のコウちゃんの笑顔は忘れられないもん。」
「せやな…あん時は、ずっとこの幸せが続きますようにって心の中で願っていたからな。 」
「あんたたちの姿を見ては、私たちも負けじと手を繋いで良く公園なんかを歩いていたよね…健太朗さん! 」
「あぁ…わしも、みすゞと、いつまでも…一緒にいたいって思っていたからな。 」
「゛運命゛っていうやつは、なかなか思い通りには働いてはくれないからね。
だから、自分で開いていかないといけないんだ…って、あの時、私は思ったよ。
゛たいせつなもの゛は、一分一秒でも、離してはいけないってね。だから…健太朗さんの時は辛かったょ…ホント。 」
「それは、わしもだょ。人は、大切なものに気づいた時には、いつの間にか指の間から~すり抜けていってしまうもんだからな。
春海…そのことだけは決して忘れるでないぞ。これからのお前には大切なことじゃからな。」
そんな感じで4人が話していると…
「見つけた!見つけた…春ちゃん。どこ行ってたの?パパとお昼なのに、どこかに行っちゃうんだもん…探したょぉ~空は、お腹ペコペコだょ~ 」
「ごめん…ごめんね。でも、知らないうちに二人共どこかに消えちゃったから… 」
「まぁ~いいさ、さぁ、お昼にしょうょー 」
「うん…そうしょうか? 」
(でも…この2人には、みすゞばあちゃん達は見えてないの?)
そうこうしながら…お昼を食べた3人は、…
「そろそろ…ゲートに行かないと…帰りのバスを待たせちゃうょ。 」
「空も…眠いから~早くバスに乗りたい…」

そう話した後…ゲートに戻ると帰りのバスがあった。

「お帰りなさい、楽しかったですか?」
そこに待っていたバスの運転手は…伊集院 航だった。
「えっ!どうして?ここにいるのですか?」
「ずっと…あなたのことを待っていました…」
そう言って優しく微笑んでいた…

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夢で逢えたら 10

♪…♪…♪…


携帯電話の目覚ましが鳴っている。


ガバッと春海はベッドから起き上がった。


( …夢?…夢だったのかぁ )


夢の中に、懐かしい顔が見えた。

春海はしばらくベッドの上で、ぼんやりとしていたが

( いけない。本当に遅れちゃう! )

と、慌てて布団を抜け出した。

3人分のお昼のお弁当に、サンドイッチとサラダと…おかずは美空が好きな玉子焼きとタコさんウィンナーを入れた。

待ち合わせていた翔平の家に行くと、出てきたのは翔平だけだった。

「あれ?美空ちゃんは?」

「はりきりすぎて熱出しちゃってさ。それでも、行くってきかなかったんだけど、クスリ飲ませてさっきやっと眠ったよ」

「そうなんだ?まだ熱高いの?」

「いゃ、もう下がったから大丈夫。だけど…そんな訳だから、今日の動物園はナシな。悪いな。」

「ううん、いいよいいよ。また行こうね。美空ちゃん、早く元気になるといいね」

「ちょっと寄ってくか?」

「ううん、どこか一人でぶらぶらしてくるよ。お大事にね」

そう言うと春海は今来た道を引き返した。



( そらちゃん、大丈夫かなぁ?麻里子さんに似て、あんまりカラダが丈夫じゃないとこあるから… )


それにしても、きっとガッカリしているんだろう。

美空はことのほか、動物が大好きなのだ。

( そうだ。ひとりでも行って動物たちの写真を撮ってきてあげよう )

一緒に行くつもりだった動物園は、車でないとちょっと行きづらい場所だったので、春海は電車で行ける動物園に行くことにして、バスで鎌倉駅に向かった。



駅に着くと、ちょうど動物園行きの電車がホームにいたので、慌てて飛び乗った。

電車の中は空いていて、春海の他には同じ車両に乗っている人はいない。

ひとり座席にポツンと座っていると

「春ちゃん。隣に座っていい?」

儚げな笑顔でそう言って、春海の隣に腰掛けたのは…


「麻里子さん!なんで?なんで麻里子さんがいるの?」

春海の記憶の中の麻里子は、いつも静かに微笑んで、ヨチヨチ歩きの美空を見守っている姿だった。

その記憶通りの麻里子が春海の隣に腰掛けて、優しい笑顔で春海を見つめている。

「春ちゃん、いつもありがとね。春ちゃんが美空と翔平のこと、気にかけてくれてるから、私も安心だわ。」

「そんな…当たり前じゃない?翔ちゃんは私のお兄ちゃんみたいなもんで、だから、そらちゃんだって姪っ子みたいなもんだもん。」

「今日は美空、とっても楽しみにしてたのよ。」

「うん。でも、熱出しちゃって…きっとガッカリしてるね。」

「あの子、いつもそうなのよ。ふだんは全然元気なのにね。
でも、春ちゃんが動物の写真を撮ってきてくれたら、きっとそれだけでご機嫌だわ。」

「そうかな?喜んでくれるかしら…?
でも、いつも花ばっかし撮ってるから、動物の写真はあんまり自信がないなぁ…」

「大丈夫。春ちゃんの愛情がこもってるもの。」



そうかなぁ…と思いながら、動物園のゲートをくぐる



「わぁ~ぃ!動物園!動物園~」

「時期はずれとはいえ祭日なのに意外と空いてるなぁ~」



あれ?と思いながら、駆け出しそうな美空に手を引っ張られ


「そらちゃん、待って!走らないで!」

「うみちゃん、早く早く~!早くしないとみんなおうちに帰っちゃうよ!」

いつになく走るのが速い美空の後ろ姿を必死になって追いかけるけれど…なかなか追いつけない。

後ろ姿は見えているのに、走っても走っても追いつかないのだ。

角を曲がる美空の姿を遠くからみとめて、春海も少し遅れて角を曲がる。

するとまた、次の角を曲がろうとしている美空の後ろ姿が見える。

何回か繰り返して角を曲がった…




さっきまで見えていた美空の姿が見えない。

ちょうどそこは、レッサーパンダの柵の前で、以前来た時には、可愛らしいレッサーパンダが同じルートをぐるぐると歩き回っていた。

春海は( そうだ!カメラ、カメラ… )と思って、カメラのレンズを向けたが、レッサーパンダが歩き回っている気配がない。

しばらくそこにいたが、諦めてまた歩きだした。


しばらく歩くと猿山が見えてきた。

ところが…ここにも猿の子一匹いないのだ。


( なんで?なんで全然いないの?そらちゃんに動物たちの写真撮ってあげなきゃいけないのに… )


春海は広い動物園をひたすら歩き回った。

どこもかしこも、空っぽで動物たちが一匹もいない。

それに、動物園にいるのは春海だけ…

他の誰にも会わないのだ。


「みんな、どこ行っちゃったんだろう…」

春海は途方にくれて、トボトボと歩いていた。



くいっくいっ、とTシャツの裾を引っ張られて振り向くと、美空がちょっとふくれた顔で

「…春ちゃん。どこ行ってたの?パパとお昼なのに、どこかに行っちゃうんだもん…
探したょぉ~そらは、お腹ペコペコだょ~」

「ごめん…ごめんね。でも、知らないうちに2人ともどこかに消えちゃったから…」

「まぁ~いいさ、さぁ、お昼にしょうょ」

バスケットいっぱいのサンドイッチやおかずも瞬く間になくなって…

「そろそろ…ゲートに行かないと…帰りのバスを待たせちゃうょ。」

「そらも…眠いから~早くバスに乗りたい…」

そう話した後…ゲートに戻ると帰りのバスがあった。



「お帰りなさい、楽しかったですか?」

そこに待っていたバスの運転手は…伊集院 航だった。


「えっ?あなたは、確か…」


( 誰だっけ?そうそう、この優しい笑顔には見覚えがある… )


「ごめんなさい。すごく待ちました?私たちが最後かしら?」

「大丈夫ですよ。僕はずっと待ってますからね。だって約束したじゃないですか?」

「約束?」

「えぇ、約束したでしょう?待っているって。」

「ずっと待ってる…?」

「えぇ、ずっとね。待ってますょ。」

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夢で逢えたら 11

…ん…?

あら?…?

…ここって?  今日は…?

「あっ!やっぱり夢だったんだ…何だか?同じような夢をダブって見ていたような感じがする…
健太朗じいちゃんや…コウちゃんもいたような気がする…
何だか不思議な゛夢゛だった…最後のほうに現れた人って?
誰だったんだろう?
でも…何だか?みんなの゛ぬくもり゛を感じた…そんな゛夢゛だったな…
さてと、今日は…久しぶりの休みだったんだよね。」

そろそろ、紫陽花が見頃な時期だから…たまには地元の近くをカメラ片手に散策でもしようかしら?

月曜日だから…どこも空いてると思うし。

よし!そうと決めたら…支度して出かけるとするか。

そうひとりごとを言いながら…春海は、そろそろ見頃となってきている紫陽花など季節の花を見ながら

BLOG用にデジカメで写真を撮り、ゆっくりとした時間を過ごすことにした。

江ノ電に乗って…少し鎌倉の街を散策しはじめた春海は…

ぶらり…お茶とデジカメを片手に歩きながら…
春海>BLOGも…毎日の花言葉の掲載以外にも、写真やいろいろは記事を載せなきゃね。
たまにはデジカメでの撮影もいいかも…
何かいい写真が撮れればいいなぁ~
…そう言いながら…ひとりぶらり~ぶらり~と歩きながら…
「♪…山がある 川が見える 君と住んでた街がある…

  僕は月に…君は星に…キラリとポロリと光って溢れて 転がった
   それは…いつでも あったんだょ なくせないのが…あったんだょ

     時々忘れてたんだょ… でも、あったんだょ…
      いつだって …君は君らしく 僕は僕のように
       強くなく 弱くもなく 光って溢れて…un…

゛愛だったんだょ゛…♪   」
懐かしいなぁ~この歌~

コウちゃんと字は違うけど、同じ名前のアーティストの曲…だったよなぁ~
確か? NHKの「みんなのうた」でも…流れてたっけ…
゛君は君らしく、僕は僕のように゛ …か。
そう、遠い過去の幸司の面影を夢とダブらせながら~街を歩いて、江ノ電に乗った。

山崎幸司は、春海が以前付き合っていた彼氏だった。

幸司とは、春海がやっている喫茶店に幸司が来ていて知り合い付き合いが始まった。

幸司は、もともとは大阪が実家だったが、神奈川支店に配属となっていて自宅のアパートが喫茶店゛花言葉゛の近くだったのと、大の珈琲好きと言うこともあり、良く春海の店に来ていて、ちょうど幸司の仕事が花を扱う仕事ということもあり、たまに店の花の手入れなども手伝っていたところから親しくなり、自然に互いに惹かれあっていき恋に落ちていったのだった。

春海の今の店は親が切り盛りしていた時は『喫茶・風見鶏』という名前だった。

今の『花言葉』に改名したのは幸司が亡くなってから~

一旦、お店が人手に渡り、亡き祖父が買い戻してくれた後に、再スタートする時に店の名前は幸司の大好きだった花言葉を使い永遠に幸司と過ごした時間を忘れないためにも店の名前は変えたのだった。

その幸司は、仕事で嫌な事があった時など…春海に励まされ、また、春海も落ち込んだりして元気がないときは、幸司が得意だったギターで歌を良く唄ってくれ励まってくれて、互いに支えられている存在でもあった。

そんな二人の幸せな毎日に突然ピリオドが打たれたのだった…
幸司が仕事中に店舗のディスプレイの飾りつけをしていた時に、飾りつけの花の向きを変えようとした時にバランスを崩し…乗っていた脚立が倒れてコンクリートの床に頭部を強打してしまい…
一週間ほど意識が戻らず…
そのまま春海に何も告げずに他界してしまった。

それはあまりにも"突然"の出来事だった。

当時の春海は…幸司の突然の死を受け入れられずに、約一年ほど…何も手につかなかない状態だった。

そんな時に、陰で支えてくれたのが翔平だった。

両親が生前より~幼なじみの翔平が店を手伝ってくれてはいるが、幸司の事以来~春海は゛大切な人を失う哀しみ゛は、もう二度とはしたくないと心に決めていて、恋愛には興味を持たなくなっていた。

一方の翔平は、幸司亡き後、さりげなくいつも兄弟のように春海のそばにいて見守っていた。

翔平の妻の麻里子が一年半くらい前に亡くなってからは、やはり、小さな娘との生活の中では心寂しいものを感じていて、月日を追うごとに春海のことが好きになっていたが…春海の幸司への気持ちが分かる翔平は、その気持ちはいつも自分の胸の奥深くにしまい込んでいた。

途中から~江ノ電に乗っていた春海は、由比ヶ浜駅で降りた。

「さてと久しぶりに『鎌倉文学館』でも行こうかなぁ~」


そういうと…ぶらりと踏切を渡り歩き始めた…

鎌倉文学館に着くと…

「あら?今日は゛休館日゛だったんだ…あちゃー」

そうだった…今日は月曜日だもんね。久しぶりだったから…うっかりしちゃった…

でも、せっかくだから…このあたりだけ写真撮って帰ろ。あっ!あんなとこにニャンコがいる~

う~ん。これから~どうしょうかな?予定が狂っちゃったから~
…え~と?近くだと『長谷寺と大仏』もいいなぁ~じゃぁ…予定変更かな。

そういうと…春海は長谷寺へと向かった…

長谷寺に入ってしばらくすると…春海は誰かに肩を゛ぽん!゛と叩かれた。
振り返ると、そこには、デジカメを片手にしている翔平が立っていた。

「あれ?翔ちゃん。こんなとこで何してんの?」

「いゃね…最近ねデジカメを買ってさ、春ちゃんが毎月お店に『季節の花』の写真を撮って飾ってるだろ…
で…俺もちょっと挑戦して、俺の写真もたまには飾ってもらおうかと密かに思っててさ…
春ちゃんには内緒にしてビックリさせようかと思ってたんだけどなぁ~
でも…見つかってしまったね  (^^ゞ 」

翔平がそう話すと2人は、それぞれのカメラで自分だけのショットを撮りしてお昼をして家に戻っていった。

一方の航は、早朝より~山形の゛さくらんぼツアー゛にと乗務していた。

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夢で逢えたら 12

Sakuranbo1
日帰りのバスツアーも、目的地が遠いと自然に集合時間が早くなる。

航は目覚ましの鳴る4時半より少しばかり早くに目が覚めてしまった。

これが旅行会社が主催のものなら、旅行会社の添乗員が付いていろんな手配などしてくれる。

航の勤めている四つ葉交通は鉄道とバスやタクシーなどのグループ会社で、同じグループに旅行会社もある

にはあるが、一泊以上の旅行は四つ葉トラベルが主催で、日帰りツアーは航たちの所属する四つ葉バスが主催だった。

だから、日帰りツアーに関しては添乗員なしで、ドライバーとバスガイドのふたりで手配から受付から…

全てをやらなければいけないので、余計に大変なのだった。



今回、乗務する『初夏の蔵王エコーライン、山寺と佐藤錦さくらんぼ狩りツアー』は、さくらんぼの中でも特に人気の高い“佐藤錦”のさくらんぼ狩りツアーの最終催行のツアーだけあって、申し込んできたお客さんの数も通常の3倍だった。

当然バスも3台になり、航のバスは3号車だ。

1号車は航と同期の田嶋祐一で2号車は入社2年目の松永健太。

松永が長距離の日帰りツアーに乗務するのは、今回が初めてだった。

対して一緒に乗務するバスガイドは3人ともベテランで、航の母親くらいの年代だ。

3号車のバスガイド、中里真知子はいつも気さくでお客さんともすぐに仲良くなってしまう。

今も集合場所で受付をしながら朝の軽食のおにぎりとお茶を配っているが、こうやってお客さんと話しながら、

お客さん一人一人の顔と名前を覚えているのだった。



「伊集院クン。今日は女性のグループ客が多いから、5分巻きでいくからね」

「わかりました。中里さんがいてくれるから心強いですょ。今日一日よろしくお願いしますね」

「ハイハイ。まかしといて!今日は3号車でラッキーだわ。2号車の松永クンは長いのは初めてだって?」

「えぇ。フォローお願いしますね。なにせ前に乗客を置き去りにしちゃった事件で、けっこうショック受けちゃってて『この仕事向いてないのかも…』って悩んでるみたいなんで」

「あぁ、山中湖の時だっけ?そんな終わったことクヨクヨしててもしょうがないんだけどね。まぁ、安全運転で無事故で行きましょうね!」



航の母、静江は名前のとおり物静かなタイプの女性なので、母と同じくらいの年代の女性と言っても中里真知子はだいぶタイプが違う。


正直なところ最初は戸惑ったが、真知子はお客さんに対してだけでなく、航たち若いドライバーに対しても、気さくで飾らない性格だったから、何度か一緒に乗務している間に、会社の“お母さん”といったような感じがしている。



里香のような若いバスガイドの時と、また一味違った良さでツアーバスの中は和気あいあいとした雰囲気で目的地に向かった。



定番の観光ルート~蔵王エコーラインをバスを走らせ、深緑の水をたたえた“お釜”をあとにすると、バスは

次の目的地の山寺~立石寺に向かった。


立石寺は松尾芭蕉が『奥の細道』で“閑さや 巖に染み入る 蝉の

声”と詠んだ場所である。

山寺の名のとおり、山の上にあるので、参詣する人々は麓から、

たくさんの石段を黙々と登って行かなければならない。


大抵、バスガイドはお客さんと一緒に登るが、ドライバーはバスで待機している。


「伊集院クン、一緒に登るでしょ?自分だけバスで待ってるなんて言わないわよね?」


昼食の後、ひとりバスに戻ろうとする航に真知子が言うと、その言葉にお客さんたちも一緒になって


「運転手さんも一緒に登りましょうょ!」


と言い出した。

乗客のほとんどが、真知子と同年代の女性客ばかりだから、航はいいようにかまわれてしまっている。


たくさんのオバサマがたの『一緒に登りましょう!』コールにあって、航が断る余地などありそうになかった。


よくこれだけの石段を登りながら、絶えず喋り続けられるな~と思うほど、真知子をはじめお客さんたちも元気だ。航は聞き役に徹していた。

やがて奥の院への道から少し外れて、山寺の中で随一の絶景のビュースポット五大堂にたどり着くと、人々の間から感嘆の声があがった。

そこには、下界の些末な出来事がとても小さなことのように

思えてしまうような、景観が広がっていた。

航が山寺のツアーに乗務するのも初めてではないけれど、

ここまで登ってくることはめったにない。

今日は真知子やお客さんたちに乗せられて、登ってきてしまった

けれど、たまにはそんなのもいいもんじゃないか…と、そう思った。



山寺の観光を終えると、バスは今回のメイン“佐藤錦さくらんぼ狩り”へと向かった。

山形の中でもさくらんぼ狩りの出来る場所は、上山, 天童, 山形市などたくさんある。

今回のツアーはその中でも特に人気の高い寒河江の果樹園だった。

Fruit_sakura_2

「時間は50分間です。その間にたくさん食べてね!袋に入れて持ち帰っちゃダメですよ!

入れていいのは、胃袋にだけ。お土産には売店で、特別に美味しいのが用意してありますから、そちらで買って下さいね。」



真知子の説明に、お客さんたちはバスを降りる前から駆け出しそうな様相でいる。

「樹の上のほうのが、お日さまをいっぱい浴びてて甘いですょ。脚立がありますから使って採って下さいね。くれぐれも脚立から落ちないように」



お客さまを案内して真知子たちバスガイドも果樹園の中に入ってしまうと、航たちドライバーは乗務員用の休憩室でサービスのコーヒーを片手に帰路の打ち合わせをした。

といっても、ここが終わってしまえば、後は戻るだけである。



「家に土産でも買ってくか」

新婚ほやほやの田嶋は、気持ちももう家で待つ奥さんのもとに飛んで行っているようだ。

航もお土産に買って帰って、明日の休みにでも久しぶりに実家に寄ってみようか?と思った。

それから、里香はさくらんぼは好きかな?とふと思いついて


『今日は何時までの勤務?』


とメールを送った。

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夢で逢えたら 13

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『さくらんぼツアー』で里香にMailをしたあと暫くしてから~里香から返事が届いた。

今日は、三浦岬~湘南江の島あたりのツアーで航よりもだいぶ前に帰社するので里香は、一旦、帰宅して、航からの連絡が来たら前回デートで使った店で待ち合わせをすることとなった。

航の母、静江も゛さくらんぼ゛は大好きなので土産を買って、少し遅くはなるが帰りに泊まりながら行くことにした。

そして、航たちのバスは、ほぼ予定時刻に帰社出来た。

航は、早々に事務所の日報を書き上げ里香にMailをして里香の待つ店へと向かった。

『ごめん…ごめん…待たせたね。』

里香>いいぇ、大丈夫ですょ。お疲れ様でした。 さくらんぼツアーはどうでした?

『うん、お客様たちは満足していたみたいだったょ。でね…はぃ!お土産…さくらんぼ以外にも色々とあったんで買って来ちゃったょ。』
里香>わぁ~美味しそうな、さくらんぼ…お菓子もですか? あれ?この小さな袋もですか?
『うん、開けてみてょ、気に入らなかったら着けなくもいいからね。』
里香>わぁ~可愛いいキーホルダーじゃないですか?嬉しいo(^-^)o
里香>じゃぁ~私からも、はい、お土産。
『おっ!たこせんじゃん~久しぶりだなぁ~』
里香>以前、食事した時に伊集院さんが…江の島行ったら~この店に寄ってごらん!って話していたでしょ、それで、ちょうど江の島に到着してフリーになったタイミングで伊集院さんから~Mailが来たので、思い出して…寄ったんです。 もちろん、私は゛熱々をいただきましたょ゛。

『そっか、良かったね。そうだ、江の島かぁ~今度、新・江の島水族館にでも行こうか?そうそう…事務所の真希ちゃんも好きみたいだょ…何人かでみんなで行くのもいいね。』

里香>水族館ですか?いいですね。(でも…二人っきりがいいなぁ~)でも…勤務シフトがみんなだとなかなか合わないんじゃないかなぁ~

『だったら…二人で行けばいいし、とりあえず声かけだけでもしょうょ、僕も後輩でも声かけしてみるょ。』

里香>はぃ!('-^*)/

短い時間だったが、そんな会話をした後、二人は別れた。

その足で航は久しぶりに世田谷にある実家へと向かった。

実家に着いた航は…
『ただいま… 』
そういうと…奥から~家政婦の白井千恵が足早に出て来た。
千恵>お帰りなさい…航坊ちゃま、お久しぶりです。元気でしたか?
『あぁ…何とか仕事…頑張ってるょ。千恵さんも元気そうだね…。母さんは?』
千恵>はい、奥様は、入浴中です。
『そっか…そうだね、だいぶ遅くなったからね。』
千恵>先に、お部屋で着替えて来たらどうですか?
『うん…そのほうが楽だしね。』

千恵>着替えられたらリビングにいらして下さい。坊ちゃんの好きなモンブランケーキとジャスミン茶を奥様に言われて今日、買ってきたので。
ところで、晩ご飯は済んだのですか?

『うん、まだなんだ、夜も遅いから~千恵さん、?軽く食べるものって何か作れる?

千恵>はい、晩ご飯が分からなかったので奥様に頼まれて、坊ちゃんの好きな「鰯のつみれ汁」を作ってありますが…。

あと…おむすびくらいでしたら作れますが…

『じゃぁ…そうしてくれる。いつも、ありがとうね。』

そうそう…ところで姉さんは?

千恵>はぃ、遥お嬢様は、今日、成田に19時あたりの到着便で戻る予定で…明日はお休みなので帰宅される予定です。

もう暫くすれば帰られるかと思いますが。

『戻って来るんだ、姉さんとは母さん以上に久しぶりだなぁ~、じゃぁ、2階で着替えて来るよ!』

そして、航が着替えリビングに降りてくると、母の静江が湯上がりの姿でソファーに座っていた。

『久しぶりだね…いい湯だった?』

静江>あら?お帰りなさい。少し遅かったわね。

『うん…帰りに一件立ち寄って、会社の仲間にお土産を渡してたから~
あっ!そうそう…はぃ!これ、母さんの好きな゛さくらんぼ゛を買って来たよ。』

静江>あら~すごく艶やかで美味しいそうね、ありがとう。
ご飯、まだなんだって?千恵さん特製の゛つみれ汁゛があるから、千恵さんに出してもらって。
千恵>はぃ…ただいまお持ちいたします。
その後…久しぶりに千恵の作った゛つみれ汁゛を食べたあとに…
『いゃ~懐かしいなぁ~ここのモンブラン…何年も食べてないから~嬉しいなぁ~』
静江>航は、どこに行ってもケーキと言えばモンブランだったからね。
大きくなっても変わらないわね。
『今日は、姉さん、戻るんだってね。婚約者の城戸和也さんって言ってたっけ?…そっちのほうはどうなの?順調なの?その事も気になってたので遊びに来たんだ。
静江>和也さんとの式のほうは少しずつ進んでいるみたい。和也さんのほうもホテル経営の仕事だから、なかなか遥と時間が合わないみたい。
遥が仕事を退職してから細かいところは進めていくんじゃないかな?

今度、夏過ぎあたりに先方のご家族と顔合わせをしながら食事会をしようかと思っているの、航も早めに日程が決まったら連絡するから、出席してちょうだいね!

『うん、わかったょ。連絡は早めにね。』

その後…1時間ほどしてから~姉の遥が帰宅して久しぶりに家族でお酒を少し飲みながら語り合いながら…

静江は…夫の悟が癌で亡くなってから~本当は航と一緒に生活をしたかったが…亡き夫が最後に静江に、
「航は病気があって私と同じ仕事が出来なかったから、もし航が実家を出て生活すると言っても自由にさせてやって欲しい。
あいつは、静江や遥のことはいつも考えていてくれる奴だから大丈夫。私は、安心して逝けるょ。
本当は、私も、あいつとは男同士として…いろんなことを語り合ったり教えてやりたかったが、もうそれは叶わない。
せめても…あいつの生きたいようにさせてやってくれないか?静江には苦労をかけるかもしれないが…
すまないが頼む…」

…そう遺言されているので、そっと見守るしかなかった

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夢で逢えたら  14

久しぶりに実家に帰って、ゆっくりとした時間を過ごすことができた。

航は当時のままになっている2階の自室のベッドに仰向けになって、ぼんやりと実家を出た頃の事を思い起こしていた。




航が実家を出て一人暮らしを始めたのは、大学を出て3年経った頃だった。

仕事にもそろそろ慣れ始めて、何より時間が不規則な仕事だったから、両親…とりわけ母には心配をかけたくなかった。


姉の遥もスチュワーデスという仕事柄、やはり時間は不規則だったから、早朝の出発や深夜の帰宅の度に、母の静江が休みもせずに起きているのを見ていて、航は自分までこのまま家にいたら、母は倒れてしまうのではないかと心配になってしまったのだ。

定期的に連絡を入れて、休みの日にはなるべく顔を出すから…と約束してようやっと一人暮らしの許可をもらったのだった。




ところが、航が家を出てからほどなく、父の悟が病に倒れた。

癌だった。



数年前から体調不良を訴えていたが、会社の健康診断ではコレステロールと血糖値が若干正常値より高いくらいで、これといって異常が見つかることもなかった。

だから、念のために今度人間ドッグを受けようか?としていた矢先だった。



あの時、もっとこうしていればよかった…



大学4年の時、恋人の深雪を目の前で交通事故で亡くしてから、大切な人が突然いなくなってしまうことに、航は臆病になっていた。


深雪の時と違い、悟の場合は残された限られた時間があった。

もう後悔はしたくない。

一人暮らしを止めて実家に戻ろうか、とも思った。

父が母に、航の可能性を潰さないでやってくれと話したことなど航は知りようもなかった。

だから航が遥に

「アパートを引き払おうと思う」

と話した時、遥から

「航は戻ってこないでいい」

と言われて、少なからずショックだった。

遥はその時期、すでに国際線のチーフパーサーになっていて、文字通り世界中を飛び回っていたのに、いつの間にか地上勤務に異動願いを出していて、

「ちゃんとお父さんお母さんのことは、私に任せてくれて大丈夫だから」

と、言われてしまったのだ。



美しくて聡明で優しい姉は、航の密かな自慢だった。


でも、何でもてきぱきと自分で決めて鮮やかに行動に移してしまう、そんな遥に、少しは頼りにして欲しかった。



コンコン


控えめにドアをノックする音に、航は物思いから我にかえった。


「航。起きてる?」

「うん。起きてるょ」

ドアを静かに開けて、遥が部屋に入ってきた。

「ごめんね。もう寝ようとしてた?」

「いゃ、姉さんのこと考えてた」

航の言葉に、遥はクスっと笑いながら

「いやねぇ、もっとましなこと考えなさいょ」

と言った。

「そうかな?だって、もうすぐ姉さん、嫁に行っちゃうんだぜ。淋しいよ」

「だったら、もっと帰って来なさいょ。お母さんだって千恵さんだって、もっと航に帰ってきてほしいのょ」

「姉さんは?」

「私は…ここから嫁いで行くんだから、寂しがってなんかいられないわょ」

「…なんだ。冷たいなぁ」

航はわざと笑って見せたが、淋しい気持ちなのは本心だった。

「…で、仕事はいつまで続けるの?」

「年末年始の忙しい時期まではいてくれって言われちゃったから、来年の1月の末付けね。実際には、お正月までだと思うけど」

「そうか…。式は来年の5月だっけ?」

「えぇ。でも、まだ何にも決まってないけどね」

遥も忙しい人だが、遥の婚約者~城戸和也はそれに輪をかけて、忙しい人物だ。

まだ37歳という若さで、伊豆にあるホテルを経営している。

まだ新しいホテルだが、宿泊客からの評判はよく、常連の顧客もかなりついているようだ。

航は仕事柄、旅行客と言葉を交わすことが多いけれど、たびたび和也の経営するホテルの良い評判を耳にしていた。


「まだ何も決まってないって、日取りと結婚式場くらいは決まってるんだろ?」

「それはそうだけど、まだまだ決めなきゃいけないことが、山ほどあるのよ。和也さんも忙しいから、なかなか一緒に打ち合わせの時間が取れなくて…。そうそう、9月の頭くらいに、和也さんの家族と食事会をするの。航も来てね」

「あぁ、母さんから聞いてるょ。はっきり日程が決まったら、すぐに教えてね」

「うん。でも、和也さんも予定が目まぐるしく変わるから…」

「まぁ、僕のほうはなんとかするょ」

航が笑いながらそう言うと、遥は安心したように微笑んだ。

「姉さん、明日は休みなんだろ?和也さんとデートかな」

「残念ながら和也さんは明日も仕事です。そうだ!明日ウェディングドレスを見に行くんだけど、航、付き合ってくれない?航も休みって言ってたよね?」

遥は良いことを思いついた、というようにはしゃいだ声をあげた。




翌日、航の運転する車で遥と静江を乗せて、遥が式を挙げる予定の結婚式場と契約しているブライダルサロンへと向かった。

本来なら花婿の和也が一緒に来て、ウェディングドレスなどの衣裳も決めるべきところなのだが…

「まだ、いくつか候補を決める段階だもの。いくつかに絞ってから、また和也さんには一緒に来てもらって決めるわ」

そう言うと、目に付くウェディングドレスを片端から試着したいとでもいうように、遥は華やいだ顔でウェディングドレスのたくさん並んだ中を、嬉しそうに見て廻っている。


そんな遥の顔を見て、少女みたいだ、と航は思った。

そして、遥のウェディングドレス姿を見て、こんな綺麗なドレスを着ることもなく逝ってしまった深雪を想った。

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夢で逢えたら  15

◇人は一生の中で、どれだけの時間…『幸せ』を感じていられるのだろうか?

たったひとつの゛出逢い゛が…場合によっては、その人の運命や未来も変えてしまう…

楽しそうにウェディングドレスを試着している姉の遥の姿を見ながら~航は…もし、自分が深雪と出逢ってなかったら…

あの日あの時、深雪は事故には出会わなかった訳で…だとしたら?深雪の幸せを奪ったのは自分だったのではないか?

そんなことを再び思い起こし…自分を責めていた。

姉の遥の式の準備のお手伝いも終わり、何年かぶりに、母と姉と3人でお昼を食べてることとなり…

昔から航が大好きな洋食屋に入った。

『ここに3人で来るのは久しぶりだね。』

静江>そうね、深雪さんが亡くなって航が5日くらい何も食事をしていなかった時に3人で元気付けのために来て以来だわね。

遥>そういえば、さっき私がいろいろと試着している時に、航…ポーッとしていたけど、何か考え事でもしてたの?


『うん…姉さんの姿に深雪を重ね合わせてみていたんだ。

だって…僕と出逢ってなければ…深雪は、きっと生きていてきっと今頃はウェディングドレスも着れただろうに…なんてね。』


静江>そうね、年齢的には結婚していてもおかしくない歳だからね。


遥>もしかしたら~航は、そのことがトラウマになって自分から~゛自分と付き合ったら…また、同じような事になってしまうんじゃないの?゛だなんて心のどこかで思っているんじゃないの?
あなたの性格なら考えられるわ…
遥からの指摘は当たっていた。そして航は、ちょっと元気のないような声で…
『うん…そうかもしれない。…深い付き合いになればなるほど…その大切なものを一瞬にして失った時の辛さは言葉には言い表せないくらい辛かったし…何にもまして、出逢ったことで…互いの運命すら変わってしまうのが何だか怖くてね。』
遥>でも…逆に出逢った事で…゛幸せになれる゛っていうこともあるんじゃないのかな?
マイナスな事ばかり考えていても人は前には進めないょ。
考え方ひとつで変わってくるんじゃないのかな?
静江>遥のいう通り、確かに深雪さんが亡くなったことは航はもとより母さんだって辛かったわょ。

実はね、あの時、お父さんが私にこう言ってたの…

「航は責任感の強いやつだから、きっと自分のことをずっと責め続けるだろう。そんな時は、伝えて欲しい…」てね。

「一生の間には、たくさんの出逢いがある…そのひとつひとつには全て意味がある。

その中で゛こうしか生きられなかった。という人生よりも、こうも生きられた…゛という、そういう生き方をして欲しい」

静江>お父さんは、航には、それが出来るはずだ…って言ってたわ。

『うん…今の自分には難しいかもしれないけれど…今の父さんの言葉は大切にしておくょ。母さん、ありがとう。』

遥>きっと、これから~航にも、深雪ちゃんみたいな゛運命の人゛との出逢いがあると思うょ。

でも…その時は、亡くなった人の事は大切にしまっておいて、目の前にいる人を大切にしてあげることだょ…

亡くなった深雪ちゃんは、航が幸せになることを願っていると思うから。

ダイジョウブ。頑張って良い恋愛しなさぃ。

『あぁ…わかったよ。』

久しぶりに家族水入らずでの外食は、思いもよらぬ航の話で終わってしまった。

その後、暑い夏を互いに過ごし…遥の婚約者の家族との会食会も近くなってきた…

季節は夏も終わろうとしていた9月に入っていた。

双方の家族の顔合わせは今回が初めてだった。

初顔合わせの場所は、遥の婚約者の和也の姉が経営している銀座の高級料亭の奥の離れ部屋にて行われた、この部屋は政治家などVIPが客が使う部屋だった。



和也の家族は祖父と両親と3歳上の姉と7歳下の妹6人家族である。

姉の京子と妹の美沙子は京子が経営している料亭で姉が代表・妹が取締役として活躍している。

共に若いが父から~経営学を学び、今や銀座では゛美人姉妹の店゛と…雑誌などにも掲載されていて、ちょっとした有名店となっている。

両家とも比較的温和な家庭環境にあり和やかな雰囲気で話が進んでいた。

航は、歳が近いこともあり美沙子と旅の話や航の好きな美味しい珈琲のお店やケーキの店などの話しで盛り上がっていた。



美沙子>そうなんですか?航さんも結構穴場のお店しってますね。

私は、仕事があるのであまり遠方には行けないですが神奈川だと横浜や湘南・鎌倉方面は時々行きますね。

鎌倉には大学時代の友達の家族が美味しい喫茶店をやっているので。

こうして、初めての食事会は、和気あいあいの中、あっという間に時間が過ぎ思ったより互いの家族のことを知るには有意義なものとなった。


航にとって、後に、この日のことが彼にとって重要なターニングポイントとなることは航自身も知る由もなかった。


姉の遥たちとの食事会も無事に終わり…季節は初秋を迎え…夏に賑わっていた湘南海岸も静けさを少し取り戻していた。

そんな頃、前より予定していた『新・江ノ島水族館』に職場の仲間たちと行くことになった。

結局、航と山口里香、そして事務所の木下真希と航の後輩の松永健太の4人となった。

後輩の松永健太は、航に似ているところもあり、ドライバーの中では航に次いで゛気のきくドライバー゛だが、真面目すぎて仕事でトチッタ時は気にし過ぎて落ち込むことが多く、そんな時に良く航が食事やカラオケなどに誘って元気つけている。


一方の真希と里香は事務所の中では大の仲良しで、こちらも良く食事なんかにも出かけている。

4人共、水族館は学校時代以来みたいで様々な水槽やイルカショーなどをみてはしゃいでいた。

水族館の出口の手前に土産物屋があったのでみんなで自分の誕生月のストラップなどを買って航から~

二人の女性には可愛いイルカのアクセサリーをプレゼントした。

それから~帰りに4人で映画を見て帰って行った。

そして、季節は秋から~一気に冬へと移り変わっていった…

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夢で逢えたら 16

「こんにちは!」



店の扉を勢いよく開けて、入ってきたのは春海の妹の彩夏だ。


「おぅ!彩ちゃん、久しぶり!生きてたか~」

「うん、なんとかね。翔ちゃんはちょっと見ない間に、オジサンになったんじゃない?」

「バカいえ。1ヶ月でいきなりオジサンになってたまるか!」


実際、彩夏が『花言葉』に顔を出すのも、1ヶ月ぶりのことだ。


「お姉ちゃんは?」

「ちょっと出てる。すぐ戻るよ。彩ちゃん、近頃は舞台ないのかい?」

「年明けてからね。3月に東京であるんだけど…なぁに?翔ちゃん、来てくれるの?」

「おぅ、我らがマドンナ、彩夏姫の舞台だもんな」


彩夏が所属する劇団は、弱小ながらお客様の評判がいいせいか、たびたび東京のホールを借りきったりして芝居を上演している。

ただ、評判がいいといっても客席を埋めるのは大変なようだ。

翔平も春海も欠かさずチケットを買っている。


「いつもごめんね!」

「俺は彩夏姫のファンクラブの会長だからな」


翔平の言葉に笑いながら、彩夏は持っていた大きな紙袋をあいているテーブルの上に乗せた。

紙袋の中から、ダンボール箱を取り出すと、今度はバッグから手帳を取り出してテーブルの上で広げた。




「ただいまぁ。いらっしゃいませ!」


外出から帰ってきた春海は、店の中にいるお客様たちに笑顔で声をかけると


「あれっ!彩夏、来てたんだ」

と、彩夏に気がついた。

「うん。お姉ちゃん、新しいの持ってきたよ」

そう言うと、彩夏はさっきテーブルの上に置いたダンボール箱を開けて、中からビニール袋をいくつも取り出した。

「あ、持ってきてくれたのね。どれどれ…」


彩夏がビニール袋から取り出したのは、根付けや携帯ストラップ、チャームなどのアクセサリー類で、どれもほんの小さな大きさだが味があって愛らしい。

同じデザインのものを2つずつ、テーブルの上に順番に並べていく。

春海は、ひとつひとつを手に取って見ると、にっこりと笑った。

「どれも可愛く出来てるわね。お客様たちもみんな喜んでくれるわ」

アクセサリーは、彩夏の手作りだった。

「ホントは、こんな素人が趣味で作った代物に、お金払ってもらうの心苦しいんだけどね」

「何言ってんの。彩夏の手作りアクセサリーは、欲しいってお客様いっぱいいるのよ」

「ホントに?実はお姉ちゃんがみんな買ってるんじゃないの?」



早くに両親を亡くして、祖母のみすゞの手で育てられたふたりは、姉妹である以上に強い絆でつながっていた。

両親が事故で亡くなったとき、春海は中学2年、彩夏はまだ小学校の3年生だった。

それ以来、春海は彩夏の小さなお母さんのようでもあった。

だから、あながち彩夏が言ったようなことも、あり得ないことではない。


「信用ないなぁ。ホントだって!彩夏の作った携帯ストラップ、お揃いで付けて、嬉しそうにしてる人もいるのよ」

「誰が?まさか、お姉ちゃんと翔ちゃんだったりして」

「なにバカなこと言ってんの」

彩夏からアクセサリーの値段を書いたリストの紙を受け取ると、それをレジの台の引き出しにしまって、春海はテーブルいっぱいに広げられていたアクセサリーの袋を、またダンボール箱の中に戻した。



「ところで、今年はどうするの?うちに来る?」

毎年クリスマスの日には、春海の家に彩夏や翔平親子、翔平の母の陽子が集まって、賑やかになる。

春海はみすゞとふたりでクリスマス用の食事やデザートを用意するのに忙しい。

普段は春海とみすゞふたりだけで、とても広く感じられる家も、この日ばかりは笑い声でいっぱいになる。


加えて店の方も12月の声を聞くと、クリスマスの飾りつけをしたり、メニューにクリスマスの特別デザートを加えたりするので何かと忙しいのだ。

彩夏に持ってきてもらったアクセサリー類も、この時期がいちばんよく売れる。


「うん、今年も帰るよ。昼間も平気だから、お店の方も手伝えるよ」

「なんだ。彩ちゃん、今年もデートする彼氏はいないのかい?」

「彼氏なら、いますぅ。ただ、忙しい人だから時間が空いてないだけなのっ!」


翔平にからかわれて、彩夏は ぷぅっと膨れてみせた。




本当は、彩夏が付き合っている劇団の演出家の五十嵐雄大は、家庭があるのでクリスマスには子供たちに家族サービスをしなければいけないから、彩夏はひとりで我慢しているのだけど…

春海はそれを知っているので、頬をふくらませてみせる彩夏の顔を、複雑な心境で見ていた。






この年のクリスマスは、めずらしく朝から雪がちらついていた。


「積もるかしら…?」

「うん?どうかな?積もりそうな雪だな?」

「パパ、そら、雪だるま作りたい!」


今までカウンターの隅でおとなしく絵を描いていた美空が、春海と翔平の会話を聞いて大きな声で言った。

「もうお外は暗いから、明日起きて雪が積もってたらね」

「うんっ!」

素直に返事をして、また絵を描くのに夢中になった。


昨日のクリスマスイヴと違って、クリスマスの今日はお客様の引きも早そうだった。


「春ちゃん、そろそろ家の方に戻っていいよ。あとは俺と彩ちゃんで閉めるから…。おふくろが手伝いには行ってるだろうけど、みすゞばぁちゃんの方を手伝いにそろそろ行った方がいいょ」

「うん。じゃあ、お店お願いね」



手早く身支度をすると、春海はひとり先に店を出た。



この季節になると、春海はひとりでいるのが辛くなる。

どこもかしこも幸せそうな家族連れや恋人たちの笑い声で満ち溢れて、ひとりでいるのが怖くなる。

気がついたら春海ひとりが、独りぼっちで取り残されて、この世界に置き去りにされてしまうのではないか、と不安で堪らなくなる。

家の灯りが見えて、春海はホッと息をついた。

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夢で逢えたら 17

春海が家に着いた頃には雪は本降りとなってきて、あたりは、もう薄く雪化粧をして
『ホワイトクリスマス』状態になっていた。

家に入る前に…暗い空から舞い落ちてくる雪を見上げて゛はぁ~゛っと白い吐息を吐いて…
服に付いた雪をはらって家へと入った。

春海>ただいまぁ~みすゞばあちゃん、陽子おばさん、準備ありがとう…
   今…手洗いして、すぐに手伝うからね。

陽子>春ちゃん、お帰り~外の雪はどう?

春海>うん…もう本降りだょ、積もってきたよ。

みすゞ> 春、あんたはスィーツ関係を頼むょ。材料は冷蔵庫にあるから~

春海>うん、わかった!任せて。

そう言いながら3人は自分たちの担当となっているメニューを仕上げるのに慌ただしかった。

一時間ほど過ぎたころに…玄関周りから~子供たちの声がしてきて、賑やかになってきた。

春海は、いつもケーキ担当だ…その年々で様々なアレンジをしているのが人気だった…

そのことがキッカケとなり、調理師の免許も取得し、お店でもケーキセットを販売するようになった。



やがて…最後に翔平が来て…全員揃ったのでパーティーが始まり…今年はみんなでいろいろなゲーム
などをやって盛り上がった。

そして、楽しい時間は…あっという間に過ぎ去り~
春海と彩夏とみすゞの3人は片付けを何とか済ませて、軽くワインを飲んでいた…

みすゞ>今年も終わってみると、あっという間だったねぇ…ところで…春海は誰かいい人は見つかったのかい?

春海>いゃだ…お婆ちゃん、急に何を言うの…

彩夏>そうだよね、お姉ちゃんも、そろそろ見つけたほうがいいょ。いつまでも独りだと…
   あっという間に40の大台になっちゃうょ。

みすゞ>まさか?お前は…ずっと独りで生きていこうなんて思ってるんじゃないのかい?

春海>嫌だ~何よ…2人とも急に私をいじめだしたりして…

彩夏>そんなつもりじゃないょ。やっぱり、生きていくには、どんなカタチであれ…心の支えが必要だょ…ベストカップル…っていうのなら最高だけど…そうでないほうが逆に長続きする場合もあるしね…

みすゞ>それは、彩夏…自分のことだろ?あんたも、今は何事も起きてないけど…どうすんのさ… ゛戦争が勃発゛したら~

彩夏>うん、本音は、一緒に生活したいけれど、向こうにも、私と出逢う前の歴史があるし…
今は、カタチよりも~繋がっていられることを大切にしているから~まずは現状でもいいの。

春海>ふぅ~ん、私には理解出来ないわ。
そういえば、前にお店でバイトをしていた、美鳥さんを覚えてる?
ほら、凄く大人しくて控えめな女性で…。その美鳥さんもあの当時、どうも家族持ちの人と恋に落ちてしまってたみたいで、自分の中で毎日葛藤していたみたいで、とても辛そうだった。
でも、その゛運命の人゛の事は忘れられなかったみたい。その後のことはわからないけど。
最近では、離婚することは、めずらしいことでもなく、離婚に対しても社会的には、昔ほど
゛罪の意識゛みたいなものが薄らいできているみたいだね。
好きな人と死に別れてしまう人もいるのにねぇ~私から見たら、贅沢な話しだょ。
彩夏も、そろそろハッキリとさせてもいいんじゃない?自分のためにもね!

彩夏>うん、分かってるって…

そうそう…話は変わるけど私の大学時代の友達のミサのお兄さんが来年の春に結婚するみたい

春海>ミサちゃんって…あの姉妹で料亭をやっている子でしょ?
   確か?お兄さんってホテルのオーナーでしょ?相手はどんな人なんだろうね?

彩夏>うん…相手は現役のCAみたいだょ。でも、結婚と同時に仕事は辞めるみたい…
   ミサは、近々…遊びに来るって言ってたから…
   たぶん、ここで待ち合わせするから聞いてみるょ…馴れ初めとかね!

   ちょっと聞いたとこによると…たまたま旅先で知り合って、そこから時間をかけて
   ゛愛を育んだ゛って言ってたなぁ~

みすゞ>そうだね、私と健太朗さんだって、キッカケは、にわか雨が降る駅前だったからなぁ~
    春海も…どこに本当に自分と一番相性のいい人がいるかもしれないから…人との関わり合いは大切しないとね。何事も゛キッカケ゛が大切だょ。

春海>そうかなぁ~私には、コウちゃん以上の人は現れないって思ってるんだけど~

彩夏>大丈夫だょ、意外と身近にいるかもょ?例えば…翔ちゃんだったりだとか?

春海>嫌だ…彩夏ったら変なこと言わないでょ、それはないと思うょ。
翔ちゃんは、優しくて素敵な男性だょ。
でも、私みたいな年増じゃなくて、もっと若い人が似合ってるょ。

みすゞ>まぁ~何はともあれ、彩夏も春海もいい人を見つけたら、自分のことだけを考えて、真っ直ぐに突き進むことだね。
春海は、意外と恋愛には鈍いところもあるから~゛運命の人゛に出逢っていても気づかないだろうから~ちゃんとね。


彩夏>はぃ…はぃ…分かってます。ねっ、お姉ちゃん!

春海>そうだね。


そんな話をしながら…クリスマスの夜は更けていった…
そして、クリスマスが終わると…2005年もあっという間に終わりを告げ…
2006年が明けた。


お正月の春海はというと、元旦に、みすゞ婆ちゃんたちと鎌倉の鶴岡八幡宮に初詣に行って…
あとはみすゞ婆ちゃんたちと家で過ごしたり映画に行ったりと過ごしている。



2006年も例年通りに過ごし…喫茶店のほうは、いつもより少し長めの7日まで休みを入れておいて、春海だけ、箱根あたりの温泉に行く予定をたてていた。

幸司亡きあとは、こうして一人旅のほうが気楽で慣れている春海だったが…最近は、゛ふっと゛気付くと…気楽さよりも…寂しさを感じる時がある自分に気付くようになっていた。
友人から勧められ始めたブログも、日々の花言葉をアップするだけになっていたので、旅行から帰ったら少しブログでもやろうと思っていた。

その頃、航は、独身者ということもあり、年末年始はグループ会社の応援で地方へ帰省やスキーをする夜行バスの運転手をして年末年始は働き詰めだった。

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夢で逢えたら 18

年末年始の忙しい時間が過ぎると、航も2日間だけだが有休を入れて、少しだけのんびりとして体の疲れをとることにした。

ふだんは自分がたくさんのお客様を運んで、いろいろな土地を訪れているが、たまには航が客としてふだん訪れることのない土地に足を踏み入れてみるのも、いいじゃないか?と思ったのだ。


あまり遠くまで足をのばすと、あちこち訪ねてみたい場所ばかり増えてしまいそうなので、ここは寒さに疲れた体をゆっくり温めたいと思い、温泉にでも行ってみるか、と思い立った。


急に出掛けようと思ったものだから、宿がとれるか心配だったが、ここはいっそのこと宿は決めずに、足の向くまま気の向くままに出かけてみることにした。


たまにはそんなのもいいじゃないか。

ふだんの仕事が分刻みのスケジュールだから、かえって新鮮な感じがする。


航の住む街から出掛けるのに手頃な温泉といえば、伊豆か箱根あたりだ。

車で行くか、電車やバスを利用するか迷ったけれど、観光目的じゃなく温泉に浸かりに行くのだし、今回は目的地を決めずに動く。車にするか…

それに仕事がら車の運転には自信がある。

とはいっても、安全運転は鉄則だ。

とりあえず小田原厚木道路にのって、その先は道路の状況を見て決めることにした。



道を進むにつれて、目の前に富士山が雄大な姿をあらわした。

「やっぱり富士山はいいな」


冬の富士山は特に美しいと航は思う。ひとり孤高に佇む神さまのようだ。

そういえば、富士山は木花咲耶姫と言って、日本の昔から伝わる神話の女神さまに例えられるのだ、という話を幼い頃に父から聞いた覚えがある。

富士山の姿に導かれるようにして、航は進路を箱根方面に向けた。



航の住む町田からは一時間ほどしか離れていないというのに、箱根湯本を過ぎるとまるで別世界のようだ。

すっかり雪におおわれた箱根の山々も、空気が澄みくっきりとその姿が見える。

つい先日には、この曲がりくねった箱根の山道を駅伝の選手が駆け上り、駆け下りたのだと思うと、不思議な感慨に包まれる。

車はスタッドレスタイヤを履いていたが、航はより慎重なハンドル捌きで進めて行った。


やがて、道の両側に数軒の温泉旅館が見えてきた。塔ノ沢温泉だ。

この先、大平台、宮ノ下と温泉が続く。

いずれも古く箱根七湯と言われた時代から今まで、箱根を訪れる人たちを温め旅の疲れを癒してきた。

宮ノ下の富士屋ホテルが見えるあたりで、道はふたつに分かれていた。

道を左手に進むと、小涌園、芦の湯温泉を通って芦ノ湖~元箱根に出る。

道を右手に進めば、宮城野を通って、仙石原まで抜ける。

確か強羅の手前、彫刻の森美術館を過ぎたあたりに『餃子センター』というその名の通り餃子の美味しい専門店があったはずだ。

昼はそこで食べることにしよう。

そう思い、車を左手の道に進めた。




雪の衣を身につけた彫刻の見える『彫刻の森美術館』を通り過ぎ、登山電車は彫刻の森駅を出るともうあとは終点の強羅駅まですぐそこだ。

昨日の夜から今朝まだ早い時間には雪が降っていたが、なんとかそれも上がって今は晴れ間も見えている。

春海は強羅公園でうっすらと雪をかぶった冬桜の写真が撮れるだろうか?と期待と不安が入り混じった気持ちで、手に持っていたマフラーを首に巻き付けた。

もしかしたら、もう咲き終わってしまっているかもしれない。

その時には、温室のブーゲンビリア館でゆっくり写真を撮ろう。



やがて登山電車が強羅駅に滑り込むと車内アナウンスが流れた。

『…どなた様もお忘れ物のないよう、ご注意ください。なお、本日は雪のため強羅公園は休園いたしております。…』


「休園?今、休園って言った?」

わざわざ強羅まできたのは、強羅公園に行くつもりだったからだ。

雪だと休園だなんて…そんなの箱根湯本で電車に乗る時に言ってくれればいいのに…。

いきなり予定が狂ってしまった。

「しょうがない。お昼食べて、移動するしかないか…」

駅前の踏切を渡り、ガイドブックに載っていた蕎麦屋を目指した。




「…定休日かよ」

お昼を食べるつもりで行った『餃子センター』には一台も車が停まっていなかった。

せっかく、餃子の気分でいたのに…がっかりである。

「しょうがない。他へ行くか…」

こんな時に気持ちの切り替えが早いのは、航のいいところだろう。

Uターンするよりもこのまま強羅方面に車を進めた方がよさそうだ。

どこで何を食べようか?と車窓に見える看板に注意しながら、ゆっくりとしたスピードでまた動きだした。




店の中は人でいっぱいな様子だ。

春海は「どうしょう?」と思いながら、そっと中をガラス戸越しに覗き込んだ。

ガラッとドアが開いて、中から店の男性が出てきた。

「そっちの小屋でメニュー見て待っててくれる?おふたりさんだね?」

「えっ?」

春海が後ろを振り返ると、駐車場の車から降りてきた若い男性がこちらに向かって歩いてくるのが見えた。

店の人は彼が春海の連れだと勘違いしたみたいだ。

「違います。私ひとりです」

「僕もひとりです」

後からきた男性もそう言うと店の人は

「混んでるから相席でいいでしょ?」

と当然のように言ってきた。

春海が黙っていると

「僕は構いませんけど、嫌かな?」

と笑顔で言う。

「あ、はい。私もいいです」


ふたりして小屋で待つことになってしまった。

しばらくして席が空き春海と彼~航は続いて店に入り、それぞれに蕎麦を注文した。

蕎麦が来るまでの間、春海は持っていたガイドブックで、どこに行こうか?と考えていた。

「すみません。ガラスの森美術館はどのバスに乗って行けばいいですか?」

「バスねぇ。バスだと乗り換えなきゃいけないから面倒くさいよ」

春海が面食らっていると

「よかったら乗せてきましょうか?」

さりげない口調で航が言った。

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夢で逢えたら 19

思いもよらない場所で再会した航と春海だったが、互いに過去に面識があったことは忘れているようだった…

春海が航の何気ない一言に暫く…戸惑った顔をしていると…

『どうしました? いゃ…無理にとは言ってないですょ。こんな天気だし、このあたりだと天候が急に変わる時もあるので、それに、さっきから空を見ているんですが雲行きが怪しいから…雪でも降ったら大変かな?って思ったので。』

暫くして…

春海>(見た目は悪い人には見えないし、彼の言うとおり雪になったら大変だし…お願いしちゃおうかな。でも?どこかで聞いたような話し方…)
じゃぁ…お願い出来ますか?

『はぃ、了解です。だったら、僕も気まぐれ旅みたいなものだからガラスの森美術館に久しぶりに行こうかな?ご一緒してもいいですか? もちろん別行動で構いませんから…』


春海>いいですょ、じゃぁ…宜しくお願いしますね。

そう話した後二人はお蕎麦屋さんを出発した、そして移動の車中で少し互いの事を話し始めた。

『だいぶ冷え込んできましたね、箱根あたりは年末あたりから2月いっぱいくらいまで急に雪が降ったりするんですよね』

『あっ、そうだ…名前をまだ言ってなかったですね。僕、伊集院 航といいます、何者か?警戒されても困るんで…』

春海>私は、佐藤春海といいます。

(伊集院…?この名前と話し方…やっぱりどこかで会ったような?…un…思い出せない。なんか…変なこと聞けないし…)
このあたりは良く来られるのですか?

『はい、家が町田なので仕事が休みの日は山と温泉…あと珈琲やケーキも好きなのでいい景色を見ながら一杯やりにきます。お酒ならいいんですが、殆ど日帰りだから~仕事柄飲酒運転になっても困りますしね。』


春海>お仕事は、何をされているのですか?

『はい、運転手をしています、バスのね。そちらは?』

春海>はい、親の後を次いで喫茶店をやっています。

『そうですか、珈琲は美味しいです?』

春海>もちろん、何が好きですか?

『僕は、モカが好きです。』

春海>うちのモカもなかなかですょ。

今度、鎌倉あたりまで来たら立ち寄ってみて下さい。『花言葉』っていうお店です。

『はぃ、じゃ…その時は是非、立ち寄っらせていただきますね。』
(花言葉って…前に聞いたことが…あるような?)

そうこう話しているうちにガラスの森に到着した。

春海>やっぱり雪が残ってる~

『そうですね、まぁ~見学コースをあまり外れなければ大丈夫でしょ。』

そう言いながら…航たちは車を止めガラスの森美術館へと入っていった…

『じゃ…ここからは、別行動で…』

春海>はぃ、ありがとうございました。助かりました。

そう挨拶して中へと入って行く春海に…

『あっ!そうだ、佐藤さん!…ちなみに今夜はどちらの宿にお泊まりですか?』

春海>えっ?

『いぇ…場所によってはバスもなくなるし、この天候だとロープウェイを使う予定なら…難しいって思ったから…スミマセン…お節介だったかな~』

春海>宿泊先は湖畔の『小田急・山のホテル』です。

『そうですが、じゃ…尚更だ、僕も丁度まだ、宿が決まってないんで送らせもらって予約なしで素泊り出来るか?聞いてみて大丈夫なら僕も泊まっちゃおうかな?ダメなら…小田原あたりで泊まって帰りますから~どうですか?なんか…しつこくしてるみたいに迷惑って思われるなら、この入り口で゛さよなら゛しますが。』


春海>(う~ん、伊集院さんが言ってるのもわかるけど…悪い人には見えないし…)

はぃ、じゃ…お言葉に甘えてお願いしちゃおうかな。

『了解です。では、一時間後くらいに、この場所で待ち合わせでいいですか?それから…分かれば゛山のホテル゛の電話番号が教えていただけますか?先に、電話で聞いてみます。』

春海>そうですね、そのほうが安心ですもんね。

じゃ…今…番号言いますね。

そういうと、航は聞いた番号を携帯に保存した。

『では、また…後ほど、この場所で待っていますね。』

優しい笑顔で春海に話す航の姿を見て…春海は…

春海>あれ?この感じ…過去に見たような?

何だろう?今日は゛デシャブー゛ばかり出てくる…不思議。

そして…一時間後

先に待ち合わせ場所にいたのは航だった。しばらくして…春海が小走りにやって来た。

春海>ごめんなさぃ~お世話になっているのに遅れてしまって…

『大丈夫ですょ。』

春海>おみやげ屋さんのレジが予想外に並んでて…

ところでホテルはどうでしたか?

『はぃ、食事付きでなければ大丈夫みたいだったので予約しました。』

春海>良かったぁ~これから探すのも大変ですしね。

『いゃ~僕のほうこそ佐藤さんと会ってなかったら下まで下がらなきゃいけなかったから…助かりました。ありがとうございます。』

春海>春海…春海って呼んで下さい、いつも周りからは名前で呼ばれてるので、そのほうがいいなぁ

『はぃ、じゃぁ~春海さん、行きましょうか。』

春海>はい、お願いします。

そう話すと、航たちはホテルへと向かった…車中…

春海>さっきからいい曲ばかり流れてるけど、音楽は好きなんですか?

『そうですね、男女問わず、僕は邦楽が好きですね。

そうだ、ホテルまでの短い時間ですが、僕も名前の航で呼んで下さい。』

春海>はぃ、じゃ…航さんは、誰が好きなの?

『そうですね、徳永英明や小田和正…最近は職場の仲間の影響でコブクロも聴きますょ。』

そんなたわいもない話をしている間にホテルへと到着した。

春海>今日は本当にありがとうございました。

はぃ、これ、さっき美術館で買ったの、甘いものが好きそうだったので。

『ありがとうございます。いいんですか?他の方のために買ったのでは?』

春海>いいえ、航さんにあげようと買ったから大丈夫ですょ。

『じゃ遠慮なく、いただきますね。じゃ、明日気をつけて帰って下さい。』

春海>はい、いろいろとお世話になりました。

そう挨拶を交わすと二人は別れていった。

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夢で逢えたら 20

キラキラと朝陽に輝く湖面の向こう側に、真っ白な雪の衣装をつけた富士山が見える。

富士山もまた、朝陽の光に照らされてキラキラと輝いている。

そのまばゆさに航は瞳を開けていられずに、そっと瞼を閉じた。



瞼を閉じたまま、深く深呼吸をすると、湖とは逆…右手の小高い丘の方から、えもいわれぬいい香りが漂ってきた。

澄み切った青空と優しくそよぐ風に運ばれてくる可憐な花の香り…。

航はゆっくりと瞳を開けると、香りをたどるようにして丘のさきに足を向ける。


…と、丘の向こう側から、カリヨンの音色が微かに風に乗って聞こえてきて…丘一面の真っ白な雪の先に同じように真っ白な雪と氷で出来た可愛らしい教会が見えた。

航がゆっくりと教会に向かって歩いていくと、同じように真っ白な雪の衣装を身に着けた花嫁がひとり、航に向かって微笑みかけている。


雪だと思っていたが、教会に近づいてみると、それは雪のように真っ白な花が…辺り一面に咲き乱れているのだった。


雪と氷で出来た教会と思った建物も、ガラスと白いたくさんの花で彩られている。



( …僕は、夢を見ているんだろうか? )



そういえばさっきから歩いている感覚も、ふわりふわりとまるで雲の上を歩いているような感じがする。


( わたる…航… )


航を呼びかけている花嫁を見れば、先日の試着で着ていた真っ白なウェディングドレスに身を包んだ遥が、にっこりと微笑みながら航を手招きしている。


( …姉さん… )


( 航。お母さんのこと、頼むわね。 )


当たり前だろ…



そう言葉にしたつもりが、航の唇からこぼれ出た言葉は、ひらひらと雪のように真っ白な花びらに変わって、かすかにそよぐ風に乗って舞い上がって行ってしまった。



ふと、遥の姿に瞳を戻すと、いつのまにかそれは遥の姿をした氷のオブジェに変わっている。


氷…いや、ガラスで出来たオブジェだ。



( なんだ。やっぱり夢じゃないか…。それにしても… )



ガラスで出来た遥のオブジェは綺麗だった。



( …わたる…航さん… )

ふと声のした方を見ると…

忘れるはずもない…かつてと同じ笑顔で…やはり、雪のように真っ白なウェディングドレスに身を包んだ深雪が航に向かって微笑んでいた。



( 深雪!? )


( 航さん…私のことはいいから…。きっと幸せになってね )


切ない想いが胸をしめつける。


( …深雪。自分だけ幸せになんてなれないょ。深雪より誰かを好きになるなんて、考えられないょ… )


( …いいの。…でも、忘れないでいてね )


( 何言ってるんだ!忘れられるはずないだろう?…ずっと、深雪の笑顔は僕の胸の中に…いつだってあるょ! )



航が伸ばした手が、深雪に届きそうになった瞬間…深雪もまた、ガラスで出来たオブジェに変わっていた。



夢とはいえ、目の前で深雪の動きが止まったことに、航は胸の奥の方がキュンと痛んだ。




白い花とガラスのオブジェ。

色のない夢の世界。

しかし、それは不思議と美しい光景だった。

あたり一面が光に満ちている。



航は愛おしい想いで見つめていた深雪のガラスのオブジェから目をそらすと、まばゆい光の溢れている方向にそっと目を向けた。



“こうしか生きられなかった”という人生よりも、“こうも生きられた…”という、そういう生き方をして欲しい…

父の悟が母に託した言葉…

その言葉を航は思い出していた。

5年たった今もなお、深雪のことを忘れられずにいる。

こうして夢の中にまで出てきてしまう。

そしてまた、遥の言葉も思い出す。


…きっと、これから~航にも、深雪ちゃんみたいな“運命の人”との出逢いがあると思うょ。

でも…その時は、亡くなった人の事は大切にしまっておいて、目の前にいる人を大切にしてあげることだょ…


本当にそんな時が来るのだろうか?


自分は恋愛には不器用だから、深雪への想いを黙ったまま、新しい恋をすることなんて出来そうにない。

亡くしてしまったかつての恋人への想いを胸にしまったままで、そんな航を丸ごと愛してくれるような…

そんな女性に出逢えることが、あるのだろうか?



目の前のまばゆい光に照らされた、たくさんの白い花が、そよそよと風に吹かれるように揺れていた。

航はその光に向かって、ゆっくりとまた歩き出した。

これは夢だと、わかっているのに、その光の先にあるはずのものが、航を呼んでいる。

ゆっくりと一歩ずつ、光に向かって歩いていく。

光は近づいたように見え、また遠ざかり、航の周りにはそよそよと吹く風に乗って、雪のように真っ白な花びらが、まるで風花のように舞っていた。

光の先に何が待っているのか?…

航にはわからない。

いや、あるいはわかっているのかもしれなかった。


ただ航は、まっすぐに前を向いて、ずっと変わらぬ歩調で光に向かって歩いていく。


光の中心に、ひときわ美しく輝く光の粒のようなものが見えて、キラキラと輝き、弾けて消えていく。

光の粒は現れては消え、消えては現れ…

限りなくそれを繰り返していた。



ふと、その光の粒がぼんやりと人の形をかたどっているように見えた。

思わず航は駆け出していた。

けれど、夢の中だからなのだろうか?なかなか近づいてこない。

それでも航はひたすら走った。

光の粒はやがて、はっきりと花嫁の姿に変わった。



遥も深雪も航の方を向いていたけれど、この光の粒に飾られた花嫁は向こう側を向いている。

同じように真っ白な花で飾られたウェディングドレスに身を包み、長い長いヴェールがドレスよりも長く、白い花の咲く上にふぅわりと波うつように広がっている。

航がそっと後ろから肩に触れると、ゆっくりと振り返った。



が、顔もヴェールによってはっきりとは見えなかった。

いつか、どこかで、出逢っているような…



ゆっくりと花嫁のヴェールに手を伸ばし、そっとヴェールを持ち上げようとした…。





「 …夢か。…… 」

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夢で逢えたら 22

慌ただしく店の扉を開けて出て行く彩夏の後ろ姿を見て、春海は苦笑しながら珈琲のカップを片付けた。


「まったく、落ち着きがないんだから…」

「なぁに?彩ちゃんの舞台、またあるの?」


いつもの席で珈琲を飲みながら、雑誌のページをめくっていた由美子が顔をあげて聞くと、カウンターの端に置いてあった彩夏の芝居のチラシを、春海は一枚取ってきて渡した。



「月末に3日間、東京の劇場で公演があるの。今回もまた、シェークスピアをパロディにしたみたいな話みたい」

「へぇ~、面白そうね。前に観に行った時は“十二夜”だったかな?今度はなぁに?」

「“お気に召すまま”だって」

「へぇ~、ロザリンド?」

「うん、そうみたい」

「あれっ?今回は演出家の先生は出演しないのね?」


由美子が公演チラシの裏側の出演者の名前を見ながら言った。


彩夏の所属する劇団の主宰者であり演出家の五十嵐雄大は、ワンマン劇団の常で毎回芝居にはかなり重要な役で出演していたが、今回に限っては演出に専念するようで、出演者の欄には名前がなく“演出,脚本:五十嵐雄大”とだけなっていた。


「彩ちゃんはやっぱりヒロインよね!華があるもの!」

「…でも、今回は本当はオーランドーを演じたかったみたいよ」

「オーランドーって相手役でしょ?誰がやるの?」

「五十嵐さんの見つけてきた新人の娘みたいよ」


実際、この配役では一悶着あったのだ。

オーランドーを女優を使うというアイデアは、公演の演目が決まった時点からあって、当初は彩夏がオーランドーのはずだった。

ところが稽古が始まってすぐに、五十嵐が札幌の小さな劇団にいた若い女優の沢渡ちひろを連れて来て、オーランドーは彼女にさせると言い出したのだった。



「あら、じゃあちょっと残念ね。彩ちゃんのオーランドーだったら、タカラヅカの男役みたいで楽しみだったのに…」

「まぁ、ロザリンドも男装になる場面があるからね。もともと男性のオーランドーを女性が演じるわけだから、女性のロザリンドが男装したところとは違いを出さなきゃいけないから、彩夏もだけどオーランドー役の人も大変だと思うわ」

「ふぅ~ん、大変なのね。成功するといいわね。春ちゃんも観に行くんでしょ?いつ行くの?」

「お店をそんなに空けてられないから、私は初日だけ。由美子さんも良かったらまた観に行ってやって」

「そうねぇ。ちょっと予定を見てみるわ」


そう言って貰った公演チラシを4つに折りたたむと、由美子はバッグにしまってまた雑誌に目を落とした。





彩夏の初日の舞台はまずまずの成功のうちに幕を下ろした。

オーランドー役の沢渡ちひろも新人にしては舞台度胸があり、彩夏に負けず劣らずスタイルも良くスラッと背も高かったので、本当にまるでタカラヅカの男役のようだった。

対する彩夏も可憐で勝ち気なロザリンドになりきっていて、この配役はなかなか的を射ていたのではないかしら、と春海は思った。


初日にはけっこう彩夏の友達が観に来ていて、春海もそのうちの何人かとは面識があった。

なかでも特に彩夏の大学時代の友人で仲の良かった八木羊子と城戸美沙子のふたりは、今でもたまに彩夏と一緒に“花言葉”を訪れることがあるので、春海も割と気安く話が出来る相手だった。

芝居が終わって劇場のロビーに出ると、友人達に贈られた花束を抱えた彩夏がまだ舞台衣裳のまま、羊子と美沙子と楽しそうに話をしているところだった。

春海が近づいていくと

「あ、お姉ちゃん」

と、まず彩夏が気がつき、春海に背を向けて立っていた羊子と美沙子が揃って振り向いた。

「こんにちは」

「こんにちは。今日はお店、お休みなんですか?」

「こんにちは。ふたりともお忙しいのに、彩夏のためにありがとうね。今日はお店はお休みにしちゃったの」

「そうなんですか…。また、春海さんの美味しい珈琲とケーキ、戴きに行きたいわ」

「ありがとうね。ぜひいらしてね。…そうそう、彩夏からチラッと聞いたんだけど、美沙子さんのお兄さん、結婚が決まったんですって?おめでとうございます。お式はいつなの?」

「5月の末です。結婚式は鎌倉プリンスホテルなんですけど、日を改めて鎌倉のレストランを借り切ってレストランウェディングみたいなのもする予定なんです。兄も花嫁も知人・友人が多いもので…」

「花嫁さんは元CAなのよね。ミサのお兄さんのホテルで式を挙げるのかと思ってたけど違うのね?」


彩夏も初めて聞いたようで、興味がありそうな口調で言った。


「えぇ、いろいろあるみたいよ。…そうそう、明後日また観にくるけど、その時にお嫁さんの弟さん、連れてくるわ」

「へぇ~、独身?」

「やぁねぇ、メェったら…」

「メェもまた観にくればいいじゃない?」

「独身?いいオトコ?」

「メェったら相変わらずなんだから…」


お嬢様育ちで上品でおっとりとしたミサ…美沙子と、実家のラーメン屋を手伝っている庶民的なメェ…羊子。
早くに両親を亡くしたせいで、妙に大人びたところのあるアヤ…彩夏。

まったく違った3人だからこそ、逆に仲がよいのかもしれない。




翌々日の千秋楽。美沙子は話していた通りに、花嫁の弟、航と連れ立って劇場にやってきた。

映画やコンサートには行ったことがあるが、芝居の観劇など航には初めての経験である。

美沙子の誘いがなかったら、観に来ることなどまず有り得ないだろう。

芝居が終わったあと、美沙子が彩夏に紹介するから、と言うので近くの喫茶店で彩夏が来るのを待っていたが
(感想を聞かれたらどうしょう…)
と、航は落ち着かなかった。

羊子がこの場に来ていたら、きっと航は質問責めにあっているはずだ、と美沙子は彩夏を待ちながら

(メェ…来れなくて悔しがってるだろうな)と思った。

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夢で逢えたら 23

彩夏の公演を美沙子と見にきていた航は美沙子が彩夏に挨拶だけでもと勧めるので会場近くの喫茶店で待っていた。

そして待つこと30分、舞台衣装に軽くジャケットを羽織って足早に店に彩夏が入って来た。
航は何て話そうかと頭の中でまとまらないうちに彩夏が来てしまったので困った。


美沙子>アヤ、お疲れ様~今回は、いつになく気合いが入ってたね。

彩夏>うん、今回は、いろんな変化があった舞台だからね。
(そうミサと話していた彩夏は席の向かいにいた航に目を向けて軽く会釈した…)

美沙子>あっ。そうそう…紹介するね。兄のお嫁さんの弟さんで伊集院さん。

『はじめまして、伊集院 航といいます。宜しくお願いします。
舞台は初めてで何もわからなかったですが、演じている皆さんの情熱っていうのか?
…が、凄く伝わってきました。いい経験をさせていただきました。
ありがとうございます。…また、お疲れ様でした。』


彩夏>はい、ありがとうございます。そう言っていただくと演じている私たちは嬉しいです。
また、お時間ありました是非いらしてくださいね。

『はい、喜んで…また、誘ってくださいね。』

美沙子>…で…アヤの今日、これからは~

彩夏>うん、スタッフたちと打ち上げなんだ、またミサとは、ゆっくり逢いたいね。温泉でも行こうか?

美沙子>そうだね、この伊集院さんは旅行会社の運転手さんだからいろいろと知ってるから情報を聞いておくね。

彩夏>そうなんだ、じゃあ~これからは楽しみだね。そうだ!今日は電車?車?

美沙子>うん、車だょ。航さんに乗せて来てもらったの。

彩夏>時間あるんなら帰りに遠回りになっちゃうけど…

お姉ちゃんのお店に寄っていけば…周りも春の花たちが咲いて綺麗だし…でも、これからだと夜になっちゃうか?
ミサが…この前、ちょっとだけお店に来たでしょ
あの時、お店の中に何か綺麗な写真なんかあるといいね…って話してたのを聞いていて、お姉ちゃんが旅で撮った写真をミサにあげたいんだって…言ってたから。
出来たら行って欲しいなぁ~ミサも忙しくなったら~足が遠のくからさ。

美沙子>そういえば…お姉さんが話してたね。航さんは時間は大丈夫ですか?

『はい、大丈夫だけど…お店って?…』

美沙子>はい、アヤのお姉さんがやっている喫茶店なんです。
珈琲はなかなか美味しくて地元の珈琲好きには結構知られているお店なのそれから自家製のケーキも美味しいですょ。
伊集院さんは珈琲とケーキ好きでしたよね。

彩夏>そうなんだ…じゃお姉ちゃんに連絡入れておくょ。今からだと到着は夜になっちゃうからね、お店閉めないでねって。
あっ!ゴメン…もうこんな時間…控え室の引き渡し時間が迫ってるから…私は行くね…
じゃ…ミサまたね。
伊集院さん…今度、また会いましょう~今日はありがとうございました。

『こちらこそ…お芝居…ずっと頑張っていってくださいね。応援してますから~』

美沙子>じゃ…私たちは『花言葉』に寄ってくね。連絡お願いね。


…『花言葉…』…はて?

以前…どこかで聞いたような名前…だなぁ?


鎌倉…花言葉…?


航は…あいまいな記憶の中にあった花言葉…という言葉を辿っていた…


美沙子>航さん…どうしたの?

『うん…? 何でもないょ。じゃぁ…花言葉…行こうか!』

美沙子>そうですね。行きましょう。

そう話すと2人は彩夏と待ち合わせていた店を出た。

『花言葉は…どのあたりにあるの?』

美沙子>鎌倉駅から少し住宅街を入ったところかな?

お店の雰囲気は彩夏のお姉さん…春海さんっていうんだけど…

ご両親が二人が幼い頃に亡くなって春海さんが引き継いだ時に少しリフォームして春海さんの好きな感じにしたんだけど…
レトロな雰囲気も少し残っていてとても落ち着いた雰囲気がありいい感じの゛大人の雰囲気゛があるお店です。
私は…自分の銀座のお店とは真逆な感じで…別の意味でとても落ち着くの、だから時々、息抜きに来るんです。
『そうなんだ、楽しみにだなぁ~。了解!じゃぁ…とりあえずは鎌倉駅に向かえばいいね。』

美沙子>そうですね。お願いします。急に予定入れてすみません。

『いいぇ…大丈夫ですょ。一日空けてますから。』

そう車内で話しながら二人は湘南鎌倉方面に車を走らせた。

移動中の車内で航は美沙子から春海と彩夏の姉妹のことをいろいろと聞かされながら鎌倉へと向かっていった。

都心を抜けるのに少し時間がかかってしまい、鎌倉に出た頃には夕陽も沈み、あたりは薄暗くなっていた。



『とりあえず、鎌倉駅近くだけど…細かい道案内をお願いします。』

美沙子>はい、じゃぁ…私が案内します。

美沙子の案内で二人を乗せた車は喫茶店゛花言葉゛に到着した。

途中で買った春海への手土産を美沙子が持ち、その後を航が付いて店へと入っていった。


美沙子>こんばんは~

春海>いらっしゃぃ~

思ってたより遅かったねミサちゃん。

美沙子>はぃ、意外と混んでました。

はぃ、これお土産。前に買ってきた時に春海さんが凄く喜んでくれてたので…

春海>ありがとう。うん…これ、これ…美味しいんだょね。

…と話しながら…春海が航を見て…

春海>…あら?

…そして、航も…

『あれ!…?』

春海>あら?確か…箱根の時の…

『はぃ…  ですよね。』

春海>うっそ~ビックリ!

『先日は、どうも~』

春海>こちらこそ、いろいろありがとうございました。ホント助かりましたー

『いいぇ…こっちこそお世話になりました。』


美沙子>えっ!?  2人は知り合いだったの~?

春海>知り合いっていうか…   ねぇ…

『はい…』

美沙子>う~ん、もう何よ~2人とも、もったいぶらないで話してょ。

春海>実はね、年初めに箱根に旅行に行った時に、偶然、お蕎麦屋さんで合い席になって…

店を出ようとしたら天候が怪しくなってきたので私が不安な顔してたら彼がホテルまで送ってくれたの。ねっ!

『はぃ、そうです。 でも、ビックリしましたょ...』

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夢で逢えたら 24

( 世の中って広いようで、案外つながっているんだなぁ )


美沙子に箱根でのいきさつを話しながら、春海はひとり不思議な気分で満たされていた。

それは忘れかけていた何かを、ふっと見つけた時のような感じだった。


同じように航も、心の中に春の陽射しのような温かな気持ちを感じていた。

航は職業柄、毎日のようにいろんな人と出逢い、そしてまた別れていく。

その時その時の出逢いは大切にしているけれど、次に会う機会のある人はほとんどいない。

まさしく一期一会だ。

だからこそ、こうしてまた出逢えた偶然を、大切にしなくちゃな…


たまに勤務中に親身に接したお客さまから、感謝やお礼の手紙が届くこともある。

航にしてみれば、どの勤務もどのお客さまに対しても、同じように接している。

当たり前のことだ。

「でも、その当たり前のことが出来ない若者が多いのよ!」とベテランガイドの中里真知子がグチる。

「だから、伊集院クンは変わっちゃダメよ!」

自分はきっとずっと変わらないだろうな…

それが航の性分なのだから、もし変わりたいと思ったとしても、それほど変われるものでもないだろう。



「それにしても、ここって昔から変わらないですよね」

ほんの一瞬だが、それぞれ自分の物思いにふけっていた春海と航を、現実に引き戻したのは、美沙子の声だった。

「そぉ?ミサちゃんが初めてお店に来たのっていつだったかしら?」

「え~と…大学1年の秋だったから、今から10年以上前…ですね」

「わぁ~、もうそんなになる?」

「アヤと大学の演劇研究会で知り合って、初めて連れてきてもらったんですょ」

「そうねぇ…あの頃はまだ彩夏も一緒に住んでたし、ね」

「へぇ~、美沙子さんも演劇やってたんですか?」

航が驚いて言うと、美沙子は少しはにかんだ顔をして「えぇ」と答えた。

「私は演じるほうじゃなくって、裏方だけどね」

「ミサちゃんは舞台衣裳や美術を担当してたのよね?」

「えぇ、本当は私…美術系の学校に行きたかったんだけど、いけなくて…」

「へぇ~…」

「でも、ホントに。初めて来たときからそうだったけど、ここって落ち着きますよね。
私、うちのお店よりもここの方が落ち着くわ」


美沙子がそう言って店内をグルッと見回したので、航もつられるようにしてお店の中を見渡した。


けっして広くない店内は、航たちが腰掛けているカウンター席と、四人掛けのテーブル席が窓側に2つ、店の奥の壁際に2人用の席が2つあるだけである。

14~15人も座れば、いっぱいになってしまうだろう。

鎌倉に着く頃にはすっかり陽も落ちてしまっていたので、今は外の様子は見えないけれど、窓は大きく、昼間なら陽光が充分に差し込んで店内を明るく照らしそうだった。

店の入り口付近には、小さな飾り棚のようなものがあり、そこにはアクセサリーや小物がセンス良く並べられている。

窓のない壁にはキャビネ版サイズくらいの写真がフレームに入れられ、何枚も飾られている。

写真はどれも春の花を撮したものだった。

可憐だったり…優美だったり…という姿が写し出されていた。


「この写真、どれも春海さんが撮したものなのょ」

航の視線に気づいて美沙子が解説した。

「お店のお休みに撮影しに行くんですって」

「へぇ~、どれも愛情がこもった写真ですね」

航の素直な賞賛の言葉に春海は少し顔を赤らめたが、航がお世辞でもイヤミでもなく、本当に心からそう思って言っているのが感じられたので、素直に「ありがとう」とお礼を言うことができた。


「航さんって不思議な人ね」

春海が言うと、美沙子も同じように思っていたらしく、小さくコクンと頷いた。

「不思議…ですか?」

「えぇ。箱根で初めて逢った時にも感じたんだけど…。なんか、そこにいるのがずっと当たり前みたいに…
前からのお友達みたいに、気がつくとお話してるのよね」

「…そうですか?」

春海の淹れてくれた美味しいモカをひとくち飲んで、航は春海の次の言葉を待った。


「私、このお店の中でなら、言葉もわりとスムーズに出てくるけど…本当はすごく人見知りなの」

「……」

「だから、こないだみたいな旅先でいきなり話しかけられたら、言葉がなくなっちゃうのよ」

航も美沙子も黙って珈琲を飲んで春海の話を聞いている。

「気持ちを許すまでに時間がかかるのね。…そのぶん、気持ちを許しちゃうとお節介なおばさんになっちゃうんだけど…」

春海はふっと笑うと視線を航に戻した。

「だから、気がついたら航さんの車に乗せてもらうことになってて、自分でもびっくりしちゃった」

「いゃ、春海さんあの時困ってそうだったし…。誰だってあの場合は、ああするでしょう?」

航がごく自然にそう言うと

「ほらね。そういうところが、いまどきの若い男の子と違うのよね」

「そうそう。でもそれって、航さんのお家の人みんなそうなんですよね。義姉になる遥さんもそうだし…」

美沙子までが春海と同じように言い出したものだから、航は少しあせって

「やだなぁ~二人して…からかわないでくださいょ」

と言った。


春海は美沙子と顔を見合わすと、ふっと笑って

「からかってなんかいないけど…。珈琲のお代わりはいかが?」

とコーヒーポットを手にした。

「いただきます」

美沙子が答えて、航も軽く頷く。

「近くで見てもいいですか?」

「どうぞ…」

航は飾ってある写真を一枚ずつゆっくりと観ていった。

満開の桜。可憐なスミレ。可愛らしいチューリップ…

どの写真を見ても、春海の被写体に対する愛情が伝わってくる。



ふと、一枚の写真が航の瞳をとめた。

「…これって…」

「?…どれかしら?」

「この富士山と菜の花の写真です。これってどこですか?山中湖?」

「あぁ、それは山中湖のはずれの内野っていうところよ」

「忍野八海の近くの内野地区ですか?」

「えぇ…」

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夢で逢えたら 25

美沙子に連れられて~春海の店に来た航は三人でいろいろな話をしながら店内に飾れていた写真を見ていた。
そして、その中の一枚に目がとまり、春海から~「忍野八海の近くの内野地区」の写真だと聞くと一気に記憶が蘇った。

   
『春海さん、この時は何で行かれました、車ですか?それとも…バス?』
春海>その時は、都内のバス会社の日帰りツアーで行きました。その写真が何か?
『ひょっとしたら、その時のバス会社って四つ葉交通でした?
で…その時、春海さんがしゃがんで花の写真を撮っている時に運転手に声をかけられませんでした?
だいぶ前だから…記憶がないかもしれないけど…?』
春海>はぃ、確か?四つ葉交通だったと思います。
運転手さんのことは覚えています。確かあの時は他のバスとの折り合いが上手く行かず時間が少し空いたから…といって運転手さんが気をつかってくれて…
『山中湖・花の都公園』とは別に特別に内野地区まで行ってくれたの…
私としても、あのあたりの花の写真が撮りたかったので短い時間だったけど、とても素敵なサプライズだったから良く覚えているわ。

『あの時、春海さんたちを乗せたのが僕だったんですょ~』
春海>うっそ~!
と...隣にいた美沙子は
美沙子>゛え~っ゛それって?凄い偶然じゃなぃ?
春海>確かに…今日、お店に入って来たときは、以前逢った箱根の印象が一番あったけど…
他にも…゛どこかで逢ったような~ないようなぁ~?って…実は、こうして航さんと話しながら…感じてたの。
そういえば、そんな感じかもしれない…でも確か?髪型がもう少し短かかったような記憶があるわ。
『はぃ、あの頃の髪型は短かったから…今からはイメージ出来なかったんでしょうね、…やっぱり…』
美沙子>ということは、一年以上も前から…二人は知り合いだったってことなの?
『そういうこと…になりますねぇ…でも、びっくりしました、今日で三回目だなんて…』
春海>ほんと…こんなことってあるんですねぇ~
『でも、今度、このお店に来る時は゛偶然゛じゃなくて…常連さんとして来ようかな。良くこのあたりは来るから~』
春海>はぃ、是非、いらして下さいね。
『ここのモカ…美味しいし…そういえば美沙子さんから聞いたんですが、お手製のケーキも美味しいって…今日は、もう品切れなんですか?』
春海>ごめんなさい、もう、この時間帯になると完売しちゃうの、せっかく来てくれたのに。
今度、前もって連絡してくれれば作っておきます。
航さんは…どんなケーキが大好きなの?
『えっ!春海さんはどんなケーキでも作れるの?
ちなみに僕は、モンブランと紅茶のシフォンケーキが大好きですが…』
春海>紅茶のシフォンケーキは得意中の得意ょ!
モンブランは…秋ごろに季節のケーキとして作る程度だけど…大丈夫!
まかせなさぃ~お姉さんに!
そういって春海が自分の胸を叩くと…航と美沙子…そして春海自身にも笑顔がこぼれた…
『すみません…じゃ次来る時は連絡入れてから来ますので連絡先をメモかなにかでいただけますか?
あっ、場所をまた検索するので出来れば住所もいいですか?』
春海>はい、了解…今…忘れないうちに書くわね。
そういうと…春海はメモ用紙に書き込むとふたつに折って航に渡した。
航は…コーヒーカップでコーヒーを飲んでいたので春海から貰ったメモ用紙は、そのままシャツのポケットにしまい込んだ。
美沙子>春海さんの紅茶のシフォンケーキは一番の人気メニューなのょ。

常連さんの中ではね。
『そうなんですか?僕もあのスポンジの間から香る紅茶の匂いが大好きなんです。』
春海>そうなんですか?ケーキ系は好きそうですね。
『はい、好きなケーキベスト3~と言ったら。
モンブラン・紅茶シフォンケーキ・サバランですかね。』
春海>ホント…ケーキの話をしている時の航さんって…☆目が輝いてる~
そんな二人の会話を見ていた美沙子は不思議な光景を見ていた気がしていた…
春海と航が話している横顔は、美沙子が、これまで見てきた二人とは全く別人のような感じがしていた。
『そういえば、あの山中湖の時、確かブログを始めたって話してましたよね、実は僕も友人からの誘いもありブログを始めたんです。』

春海>そうなんですか~ブログには、このお店の名前を使って…ほぼ毎日…花言葉について載せています、やっと最近は他の記事をアップするようになりました。
航さんは?どんなブログなの?
『はい、またアップする記事も不定期で月に何度かしか記事なアップしてないんです。どんな記事をアップしたらいいのやら?
アクセス数だけを意識したような人気ブログなんてするつもりもないですし、日々過ごしている中での出来事や心の中の引き出しを開けたのをって思っています。
じゃぁ~今度アクセスしてコメ落としていきますね。HNは?
春海>HNは~そのまま春海です。航さんのブログの名前とHN…?
『はい、僕は゛風の街゛で探してもらえば見つかるかと思います…名前は゛言乃葉゛と名乗っています。』
春海>゛風の街゛かぁ~いい名前ですね。何からとったの?
『はい、小田和正の歌で゛風の街゛ってあるんですけど、ちょうどブログをアップしようとしていた時に部屋で小田さんのCDを聴いていたのと、風…って僕好きなんですよ。』



意外な展開となり、三人はいろいろな話をして予定より少し遅くなるまで゛花言葉゛にいた
美沙子>じゃぁ~そろそろ行きましょうか?
『あっ!ホントだ、もうこんな時間だ…すみません春海さん、長々と…美沙子さんも…

大丈夫ですか?』
美沙子>はい、大丈夫ですょ。
『じゃぁ~そろそろ出ますか?春海さん、今日は、いろいろとありがとうございました。』
春海>こちらこそ、楽しい話をありがとうございました。
ミサちゃんも、ありがとうね。じゃぁ~写真使ってね。お兄さんの結婚式頑張ってねー
美沙子>はぃ、ありがとうございます、でも、偶然とはいえ航さんを連れてきて良かった。

楽しい話が出来たし。
美沙子>じゃぁ~また来ます!
『ありがとうございました。』
…と航が春海に軽く会釈し…二人は花言葉を後にした…

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夢で逢えたら 26

美沙子を家まで送り届けて一人になると、航は( 今日は何だか、すごい一日だったな… )と、思い返していた。

ここでこうして出逢ったことが、どんな意味を持つのか…

そこまでには考えが及ばない航だった。

そのあとしばらくは仕事が忙しく、春海に渡されたメモのことはうっかり忘れていた。

航がメモに気がついたのは、しばらくして出していたクリーニングを、やっと取りに行った時だった。

クリーニング店の店員に「シャツのポケットに入ってましたよ」と、手渡されたメモを開いて「あっ!」と、思い出したのだった。

家に帰って忘れないうちにと、携帯とパソコンのアドレス帳に渡されたメモを見ながら、住所や電話番号を入れていった。

メモには、春海の優しい文字で“花言葉”の住所などが書かれていた。

「え~と…。鎌倉市雪ノ下…あっ!」

春海の几帳面な文字で住所、電話番号の下に小さくメールアドレスが書き添えられていた。

「Yahooメールか…」

店の名前と春海の名前をもじってつけられたアドレスを見ているうちに、そういえばブログを探さなきゃ、と思い至った。

メールがYahooなのだから、きっとブログもそうだろう。

幸いにも航がブログを開設したのもYahooだった。

そういえば、春海と初めて逢ったすぐ後にも、こうしてブログを検索したっけ…

Yahooにログインしてブログの画面を開く。

そのあと少し考えて、航は“花言葉”と打ち込んで検索してみた。

以前に検索した時ほどではないにしろ、“花言葉”のキーワードで出てきたブログはそこそこあった。

そのひとつひとつを、航は丁寧に見ていった。

やがて、トップページに見覚えのある風景の写真のブログに行き当たった。

ブログオーナーのプロフィールを見てみると、まさしくHNが“春海”とある。

まずこれで間違いなさそうだ。

ふと時計を見ると、すでに時計の針は0時を回っていた。

とりあえずせっかく訪問したのだし…と、少し記事を読んでみる。

春海が言っていた通りにメインになる記事は、毎日の誕生花の花言葉を紹介した“花こよみ”という記事のようだった。

ブログに表示されているカレンダーを見ると、ほとんど毎日記事がリンクされている。

航はとりあえず自分の誕生日を探した。

「5月7日…あれっ!?」

よく見てみれば、ブログの開設日は9月だった。

「なんだ…まだこれからか…」

ちょっとがっかりしたが、気を取り直して他の書庫も覗いてみる。

“花便り”という書庫には、春海のその季節にあった素直な言葉が綴られていた。

“花散歩”という書庫は、春海が旅先や文字通り散歩で訪れた場所で、春海自身が撮った花の写真が載せられていて、簡単な言葉が添えられている。

いちばん最新の記事は、三渓園の桜だった。

航はキーボードに向かうと、少し考えてコメントを書き込んだ。





   三渓園..は、歴史をかい間みれる場所があるからいいですよね、

   仕事柄、年に何度か行きますが...

   個人では行ったことがないです。

   たまにはのんびりとお弁当でも持って出かけるのもいいですね。

それから、どうせならお気に入りに登録していこう、と思い付いてゲストブックを開いた。

まだあまり書き込みをされていない。

まぁ航のブログ“風の街”などは、開設したものの記事をなかなかアップ出来ないせいか、いまだにファンどころかコメントすらゼロである。

(…いいんだ、別に数字なんて気にしてないから…)





   はじめまして 

  こんばんわ、深夜族の"言乃葉"といいます。 「花言葉」で検索してやって来ました。

  日々の花言葉、すごいですね。ほぼ、毎日、やられているんですね。

  僕も最近ブログを始めたのですが、内容がつまらないのか...未だに「コメゼロ」です...(涙)

  まぁ~コメ目当てにやっているわけでもないので、

  ぼちぼちと頑張っていきたいと思っています。

  花の写真は好きなので、「お気に入り・ぽちっと..」させていただきますね。

  これからも、時間ある時に立ち寄らせていただきますので、どうぞ宜しくお願い致します。

  <(_ _)>


久しぶりにお店も暇で、閉店前には誰もお客様がいなかった。

春海があまりに早くに帰ってきたものだから、祖母のみすゞなど目を丸くして

「春がこんなに早く帰ってくるなんて…。今夜は雪になるかもしれないょ」

と言って笑った。

ふたりして夕食をとりお風呂も済ませて、春海は久しぶりに自室のパソコンの前に座った。

気になるニュースなどをチェックして、メールを一通り読み終えると(今夜は時間もあるし…)とブログを覗いてみることにした。

もともとはあまりパソコンなど得意でない春海なので、自分でブログを開設するなど思ってもいなかったのだけれど、常連客の由美子やアルバイトをしていた美鳥に聞いて、

(パソコン音痴でもなんとかなりそう)

と昨年の秋に思いきって開設したのだった。

最初は何をどうしたらいいのかわからずに、とりあえず趣味の花の写真を載せることにした。

ただそれだけでは面白味に欠けると思い、毎日の誕生花とその花言葉を調べて載せることにした。

少しずつだけれど、訪問してくれる人も増えている。

本当はせっかくだから、お店の宣伝もしたいのだけれど…

花の写真と違って店の物を撮って載せるには、春海の納得のいく写真がなかなか撮れなくて実現せずにいた。

今日の昼間に店のパソコンからブログを少し覗いた時に、ゲスブにいくつか書き込みがあって、春海は何て書こう?と考えながらキーボードを叩いた。

今見ると、また新しく書き込みがあったようだ。



    こんばんわ、言乃葉です 

   お気に入り登録、ありがとうこざいました。 <(_ _)>

   僕は、花のことは良く知らないので、とても勉強になります。

   これから~少しずつ、春海さんの書庫が増えるのを楽しみにしていますね。

   これからも、どうぞ宜しくお願いいたします。

昨日来てくれた言乃葉さんの、春海がファン登録したお礼だった。

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夢で逢えたら 27

あまりパソコンの前に座ることのない航と春海だったがネットに繋げた時は必ず互いのブログに行くようになっていた。

そして航は、このブログの中に飾ることのない、ありのままの今の自分の思うことを綴っていこうと思っていた。

少しずつではあったがブログという新しいコミュニケーションの場を楽しみにしていくようになっていった…相変わらずアクセス数は少ないが…

そして新たな書庫なども作ったりしていた。

そこには、航がいつも胸の中にしまい込んでいる゛こころの言葉゛をありのままに綴っていこうと思ったからだった。

書庫の名も『現在・過去・未来の部屋』といった名前になった。

最初の記事は過去のことにしようと構想を様々考えていたが、まとまらず…この日はパソコンを閉じた。

そして、友人から借りてきた楽譜を見てギターを少し練習して眠りについた。


『最近は、お台場や横浜~湘南方面の日帰りツアーが多いなぁ~

今年は暖かかったからサクラもだいぶ散ってきてしまってるけど…仕方がないか!

今日は三溪園だけどサクラはまだ残ってて良かった。

…ここは古の時代の感じがするし落ち着くから好きだなぁ~』

『今日も…朝から~たくさんの人たちが来てる。バスの中にいても一時間は誰も戻って来ないだろうから~ちょっと園内を見学してみよう。』


そう…ひとりごとを言いながら航は三溪園の中に入っていった。

しばらくして内苑の池の近くにある休憩スポットあたり行くと若い女性の小グループがいて、お茶や団子などを食べながら賑やかにしていた。


その横を通り過ぎようとした時に航の耳に入って来たのは…あの懐かしい声だった…

航は…その耳を疑った。

そのグループの中にいたのは深雪だった。

そして…

「すみません~シャッターを切っていただけませんか?」

…と、深雪が航のところまで駆け寄って来た。

何が起こっているのか?全く理解出来ないまま航は写真を撮ってあげた。

(あれ?こっちのこと…気づいていないのかなぁ?)


「どうも、ありがとうございました。」
そういうとその女性はグループの中へと戻っていった。

航は…しばらくは…他人の空似? それにしても顔も声も深雪そのものだった…

もう一度確かめようと、さっき深雪たちがいた池のほとりに戻ったが、そこには誰ひとりもいなかった。

…と、その時、…♪…♪…♪と航の携帯が鳴った。

『もしもし…伊集院です。…』

「もしもし…航…さっきは写真ありがとうね。」

『み…  ? 深雪? 深雪なの? やっぱり…そうだったんだ…どうして?』

「航…聞いて、私は、もう大丈夫だから…だから、あなたはあなたの幸せを…」

そう話すと深雪の声は携帯からフェードデアウトするように消えていった…

『深雪…深雪~~』

航が何度も深雪の名前を呼んでも携帯からは深雪の声は聞こえてはこなかった。

なんだったんだろう?航にとっては不可思議な出来事だった。

三溪園の見学時間も半分は過ぎたのでバスのところへ戻ってみると…すでに何人かの乗客が乗ってきたバスのあたりで待っていた。


『すみません~ちょっと皆さんたちと一緒に三溪園内を見学してたもので…』

そう、謝りながら~待っていた乗客たちのところに戻っていくと…

その乗客たちの中にいたのは春海だった。


春海>大丈夫ですょ。ずっと待ってますから。

次は…風の街に一緒に行きましょう。

そう話すと春海は航のバスに乗り込んだ。

航が後を追うように乗り込むと…そこには、深雪も笑顔で乗っていた…




…と、その時、航は目覚めた…

…?

… あれ?

夢か…?

ずっと…深雪への思いと責任を引きずっていた航は『夢で逢えたら』…といつも思っていたのだろうか?


でも、そこには何故か春海の姿があった…

『はて?…前にも見た夢の中に顔があまりよく分からなかった女性がいたけど…

春海さんみたいな感じだったかもしれなぃ…


何言ってんだろ?  夢…夢だよ…

おっと!もうこんな時間だ…仕事…仕事…。』

何だか…夢と現実が複雑に入り混じった状態で…この日、航は仕事に出た。

この日の仕事は久しぶりに渋滞にもハマったり春特有の変わりやすい天気もあり、途中雨が降ったりとで大変な一日だった。

仕事を終えてから~姉の結婚式も近づいていたので実家に寄り…晩御飯はご馳走になり帰宅した。

疲れてはいたが…とりあえずパソコンを開いて花言葉を覗きに行った後に新しい書庫に記事を載せたのだった、昨夜の夢のこともあり、深雪への思いを綴っていった。


その書庫はフアン限定にしてあった、それを今の時点で読めるのは唯一のフアンである春海だけだった。

記事にしている航は、そのことは忘れていた。

そして、航が記事をアップした翌日あたりに春海は航の記事を読んだ。

そして航とと深雪の二人のことを知り…その後の航のことを知った。

その内容は…まるで春海と幸司のことよりもショッキングな出来事で事故に遭遇しそれ以降~恋愛に対してトラウマになっていた航の姿が綴られていた。


大切な人を突然なくした気持ちは春海には痛いほどわかっていた。

亡くなった人は、もう二度とは戻っては来ない

でも…もう一度逢いたいという気持ち。

春海も、いつしか自分の奥深くにしまい込んであったものが沸き起こってきて…

そして…知らず…知らずのうちに春海の頬を涙が流れ落ちていった。


航の記事を読んでから~自分のブログに戻ると言乃葉さん(航)からゲスブに書き込みが入っていた…

その内容は…

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夢で逢えたら 28

GWを挟んだこの時期は、春海がいちばん忙しい季節でもある。

本業の喫茶店“花言葉”の方も、鎌倉の街に観光客が増えて、いつもの常連さん以外のフリーのお客様が

多くなってくるし…春海自身もこんな陽射しの明るい日には、少し早起きして近所を散歩して花の写真を

撮ったりするのが楽しみだからだ。


店に飾っている花の写真は、先週また翔平と相談して掛け変えたが、ブログの方はすっかり放置状態だった。

かろうじて日々の花言葉の記事だけをアップしている。

撮りためた花の写真はけっこうあるし、訪問してコメントを落としていってくれる人へのお返事も書きたいのだけれど、いかんせん時間がなかった。


そういえば、ゲスブに言乃葉さん(航)から、教えて欲しいと書き込まれていた件に関しても、“調べてお返事しますね”と書いておきながら、返事をする前に、その5月7日を過ぎてしまっていた。

そのことを思い出して、春海は休憩時間に慌てて店のパソコンから航のブログにアクセスしてみることにした。


航のブログも、春海同様…更新がストップしてしまっているようだった。

航もきっと忙しかったのだろう。

なにしろ航は観光バスの運転手なのだから、春海以上に、このGWは忙しかったはずである。


ゲスブにご無沙汰していることのお詫びと、調べると言ったままになっていた件のお詫びを書き込んで、春海はふと手を止めた。

新しい記事は無いようなので、このまま画面を閉じようか…と思って、また書庫一覧に目を留める。

いくつかの書庫の中に、ひっそりと隠れるようにしてある『現在・過去・未来』の書庫。

春海は、そこに書かれた記事をもう一度読み返してみて、自分も航と同じように幸司のことをずっと引きずっているのだろうか?…と、考えた。


(そんなにカンタンに忘れられる訳がないじゃない…)


現に春がゆっくりと行き、もうしばらくしたら、また梅雨の季節がやってくる…と思うだけで春海は憂鬱になる。

夜、しとしとと雨が降る…それだけで春海は眠れなくなるのだ。

雨の夜には…幸司を想い、胸が張り裂けそうになる。

雨の夜には、幸司との“嬉しかった想い出”も“辛い想い出”も、両方があるからだ。




幸司と付き合いだして、もうすぐ一年が経とうという時期に、春海の誕生日があった。

当時、幸司は学生時代の友人が新しい会社を立ち上げて、そのオープニングセレモニーを手伝いに行っていて、当日逢うことは無理だと春海も諦めていた。

春海の携帯に幸司からメールが入ったのは、春海が店を閉めて家への道を足早に急いでいる時だった。

『はる?お疲れさま!もう店は閉めたの?』

『幸ちゃん!?…うん、さっきやっとね。今日はお店を閉める時間までお客さんがいたから…』

『そうか。今日も一日頑張ったね。お疲れさま』

『幸ちゃんこそ…もう仕事は終わったの?どうだった?』

『あぁ、僕の仕事はオープニングセレモニーが始まるまでだからね。でも、関口のイメージ通りには出来たと思うょ』

『そっか…。遠いから大変だったね。今日中には帰れそう?』

『どうかな?…はるに早く逢いたいよ』

『幸ちゃん…、私も。私も早く逢いたい』

我慢していたのに、幸司の口から「逢いたい」という言葉を聞いたとたんに、春海の心は硝子細工のように細かく震えた。

足早に歩いていたのに、いつの間にか立ち止まって…傘をさす手から力が抜けた。

『はる?ダメだょ、風邪ひくょ』

『……』

『ほら、ちゃんと傘ささないと…』

そのときの春海は、ぼぉ~っとした頭で

(傘?あ…傘ささなきゃ)

と考えていた。

が、それにしては濡れていない。

『はる。まったくこの子は…ほっておけないんだから。誕生日プレゼントだょ。うしろ向いてごらん』

ぼぉ~っとした頭で…少し目を赤くした顔で…春海がゆっくりとうしろを振り向くと、そこには最高の笑顔で、春海に傘をさしかける幸司がいた。

春海が今まで貰った中で、いちばんの、最高の、忘れられないプレゼントだった。

「昼間、電話で話したろ。はる、我慢してるなって思ったら、どうしても今日逢わなきゃって思ってさ」

そういうと小柄な春海の頭を大切に包み込むようにして、自分の胸に抱き寄せた。

「大丈夫だょ。春海が逢いたい時は、俺も同じだ。同じ気持ちでいるょ。

いつだって、どんなに離れていたって…たとえ夢の中にだって、春海に逢いに行くょ。

愛してるょ」


そう言ってくれたのに、幸司はもういない。

永遠に春海の前から姿を消してしまった。

春海の想いは…あの日から3年後の…幸司が逝ってしまった雨の日に、停まってしまった

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夢で逢えたら 29

ブログで航の隠れた辛い過去の出来事を知り、春海自身も封印していた幸司との想い出の記憶が蘇っていた、と同時に春海の中で自分より年下の伊集院 航という一人の男性に対してこれまでにない想いが芽生えていることに春海自身は気づかずにいた。

人と人とが死に別れてしまうのが運命というなら~

人と人とが出逢うのも、また運命だと…

無意識の中で春海の中で何かが変わりはじめていた

そして春海の中で三年ほど止まっていた壊れた時計の針が゛コチ、コチ…゛と音をたてて動きはじめた…

そして、いつしか春海は航のことが気になり殆ど更新されていないブログ『風の街』を覗きにいくのが日課になりつつあった。


航の誕生日の花を教えた後~航のブログを見にいくと『四つ葉のクローバー』についての記事の記載があった。

そこには、こう綴られてあった。

『 四つ葉…

それぞれの葉に込められた願いは~

◇Glorious Health(素晴らしい健康)
◇Wealth(富)
◇Fame(名声)
◇Faithful Lover(満たされる愛)

☆4枚そろってTrue Love(真実の愛)を意味します。

……(中略)

自然界で10万分の1の確率でしか採取できない四つ葉のクローバーの
稀少性は、まさに幸運をもたらすシンボルとされています。…… 』

この記事を読んで春海は…

春海>(四つ葉…それぞれの葉に込められた意味か~)

四つ目が…
◇Faithful Lover(満たされる愛)…
そして、☆4枚そろってTrue Love(真実の愛)

毎日、花言葉の意味を記事にしていたけれどクローバーの意味なんて昔から知っていたけれど…もう自分には関係のないものだと思い、いつの間にか幸司の想い出と一緒に古いアルバムの中へとしまい込んでいた自分がそこにいることに気づく。

私の手元には三つ葉のクローバーしか、もうないかなぁ…

10万分の1の確率%か…
ずっと、このままコウちゃんとのことを大切にしていく気持ちには変わりはないけど…

やっぱり、何かあった時の゛寄りどころ゛ってあるといいなぁ…

(今…こうして、伊集院 航という一人の男性に出逢えたという確率も、ただ、友人の知り合いという゛偶然゛だけではないのではないかと無意識のうちに春海の中にいる゛もうひとりの春海゛が感じているようになっていった。)

一方、航は、そんな春海の変化などは知る由もなく、5月26日に鎌倉プリンスホテルで行われる姉の遥の結婚式のほうの準備を手伝いながら慌ただしい毎日を過ごしていた。

ブログのほうは、このところ覗きにもいけない毎日が続いていた。

そして姉の遥の結婚式の当日が来た。
そして披露宴のフリータイムで…航は…写真担当ということで式に来てくれた人たちの顔を中心に撮り続けていた…

と、そこへ美沙子が航のところにやって来た。

美沙子>ご無沙汰しています。゛航写真館゛のほうは順調ですか?

『はい、皆さんの素敵な笑顔を中心に撮らせていただいています。』

美沙子>航さんは、このあとの二次会は行かれるんでしょ?

『もちろん、行きますょカメラマンとしてね。今日は終日空けてありますから。カメラマンとしてね! (*^-^)b 』

美沙子>さっきね、遥さんから高砂壇上に飾ってある素敵な花を持って帰ってお友達にもあげてね。って言われたの。

そのまま処分されてしまうのは可愛そうな気がするから。
…って言われてるの。

で…航さんの予定が空いてたらでいいんですが、ほら!以前、行った『花言葉』って喫茶店があるでしょ

ここから近くだし、春海さんはお花が大好きだから持っていってあげようと思うの、おめでたい結婚式のお花だしね、春海さんにも、もっと幸せになってほしいからって…

どうですか? ごめんなさい、いつも思いつきみたいにお願いばかりで。

『いいですょ、空いてますから~それに美沙子さんだって普段は多忙な人だから、

こういう時でないとなかなか動けないだろうしね。僕は構わないですょ。車だし…』

美沙子>ありがとうございます。では、春海さんに連絡しておきますね。いつも、ありがとうございます。航さんって優しい人ですね!

そう言いながら…

美沙子は、この時、航の優しさと数回しか会っていない自分に対しての心配りや純粋な優しさのようなものを感じ、いまどきこんなに透明すぎる優しさを持った男性なんているんだ…と

これまでと違った感情が芽生えいたのを感じた、それは、もう遠い昔に忘れてしまった゛初恋゛の感情にも似たものだった。

朝から慌ただしく、伊集院家の者として、また、カメラマンてして活躍していた航だったが、姉の遥と姉弟(きょうだい)として二人っきりになる時間が式が始まる前にあった。

そこで、弟として姉に言葉を贈った。

『姉さん、ちょうど二人っきりになったから、挨拶しておくよ。』

遥>何…急に改まったりして。

『うん、やっぱり一生に一回のことだからね。』

『小さな頃は、父さんがいつも仕事で家を空けていたから姉さんがずっと俺のこと面倒みてくれていたこと…たくさん覚えているょ。
俺って小さい頃良くいじめられていたからね、そんな時、良く姉さんが助けてくれたよね。
あの頃は、何気に怖かったし..(^^ゞ

また、美雪が亡くなった時は、母さんと二人でいろんなところに連れて行ってくれて少しでも元気が出るように応援してくれたよね。

本当にありがとう。全部憶えているし、今でも感謝してるよ。

遥>うん、そうだったね、航は気が優しいから~いじめられ易いみたいで良くいじめられてたもんね。

でも、あなたの偉いところは、どんなことがあっても決して人のせいにはしたりしないこと、それと自分自身を曲げないこと…そこだけは姉さんも今日までずっと感心してきていたのょ。

でもね、あなたにこうして話す機会もこれからは少なくなるから、ひとつだけ姉からの最後の願いを伝えておくわね。

美雪ちゃんが亡くなって以来、あなたは表には出さないけど、未だに美雪ちゃんのことがトラウマになって次の恋へと進めないんじゃないかって? いつも、お母さんと心配してるの。

人との出逢いと別れって生きていくなかで避けられないものなの…

でもね…いつまで引きずっていても何も変わらないっていうことをわかって。

私は、あなたにもっと幸せになって欲しいって願っているの。

だから、必ず、あなたでなければいけない゛運命の人゛っていうのかな?
そういう人と、どこかで出逢うと思うの…その時は、その人や自分のキモチに素直になって、その道へ進んでいって欲しいの。

美雪ちゃんはあなたが幸せになることを望んでると思うの。

『うん…わかってるょ、美雪と同じように大切な人と死別した人もいるし…一歩前に俺も踏み出さなきゃね。  ありがとう!姉さんも、 いい妻に、そしてお母さんになってね。』

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夢で逢えたら 30

朝から遥の結婚式~披露宴~そして、近くのレストランに場所を移しての2次会のパーティー…と順調に進み、航はカメラの中だけでなく自分の心の中にも、遥の最高にしあわせな笑顔を刻みつけていった。

2次会も終わり、まだ時間が早かったので、遥のCA時代の友達や和也の友人たちは、まだ場所を変えて飲みに行くようだったが、航は美沙子とふたり、鎌倉の“花言葉”を目指した。


「遥さん、すごく綺麗だったわ。真っ白なウェディングドレスがよく似合ってて…」

「うん」

「お天気が良くてよかった。海がすごく綺麗だったわ」

「ホントにすごく綺麗だったね。和也さんのホテルでも、チャペルを作るんだって?」

「そうなの。この鎌倉プリンスはロケーションがすごくいいから、参考にしたいって言ってたわ」

「何?自分の結婚式でまで、仕事のことかい?姉さんがここがいいって言ったんじゃなかったの?」

「えぇ、遥さんが海が見えるチャペルって言ったらしいけど…兄さんの考えてることを知っていて、それでじゃないかしら?」


それは知らなかった。

本来なら和也のホテルで挙式をしてもよさそうなのに…とは、思っていたのだ。

遥は「自分が海の見えるチャペルで結婚式を挙げるのが夢だったから…」と言っていたけれど、実はそれだけが理由ではなかったのだ。

おかげで海が綺麗に見える午前中の光の中で挙式、お昼に披露宴、そしてまだ遅い時間になる前に2次会も出来る。

新郎新婦はこの後、横浜のホテルに宿泊して明朝には成田からヨーロッパへと新婚旅行に発つ予定だった。


航の車の後部座席には、溢れんばかりの花たちが乗せられていた。

遥に託された花は、他の人たちにもいくらかずつ渡されていたが、残りのほとんどを航と美沙子で航の車に積み込んでいた。

「それにしてもすごい量になっちゃったね」

「春海さん、びっくりしちゃうかしら?」

「連絡はしてあるの?」

「えぇ…。でも、こんなにたくさんになるとは思わなかったから…やっぱりびっくりさせちゃうかもしれないわ」


美沙子の言葉に、航は花に囲まれて目をまあるくしている春海の顔を思い浮かべていた。

きっと春海は、驚きの後、幸せそうな笑顔を浮かべて花たちを見るのだろう。

「何ひとりでニコニコしてるの?」

「えっ?ニコニコしてた?」

「えぇ、っていうよりいたずらっ子みたいな表情をしていたわ」

「そうかな?」


次の信号を過ぎると“花言葉”に続く細い道に入る。

航はまた、春海の笑顔を思い浮かべながら、ハンドルをきった。


店の脇の小さな駐車スペースに航が車を停めると、美沙子が一足先に花をひとつ抱えて店の中に入っていった。

春海と美沙子の楽しそうな笑い声が聞こえて、航はさっき思い浮かべた春海の笑顔を想像しながら、車の

後部座席から両腕に抱えられるだけの花を抱えて“花言葉”の扉をくぐった。

「ほら、春海さん。まだまだあるのよ。ふふっ、航さんたら花に埋もれちゃって…」

美沙子のはしゃいだ声に、航が花々の合間から春海の顔を覗き見ると、航が予想していたように、目をまあるくしてこちらを見つめていた。

航は春海の驚く顔が喜びの表情に変わるだろう瞬間に花を渡そうと、一歩春海に近づいた。

すると…

きっと目を輝かせて喜ぶに違いない…と思っていた春海の表情が、一瞬にして変わった。

それは航が思っていたような嬉しそうな笑顔ではなく、春海の大きな瞳から…ひと粒…ふた粒…と、まるで真珠の粒のような涙が…ポロポロと、あとからあとからと溢れ出してくるのだった。

「春海さん!どうしたの?大丈夫?」

心配そうに春海の背中をさする美沙子に、体を支えられるようにして、危なげな足取りで春海は一歩、航の方へ歩み寄ろうとしていた。

「大丈夫ですか?…何かまずいことでもしでかしちゃったのかな…?」

航が抱えていた花の一部を手近なテーブルに置くと、春海はまるで魔法が溶けたかのように、ハッとして…

そして無理やり泣き笑いの表情になった。

「…ごめんなさい、私…帰ってきたのかと、びっくりして…。ごめんなさい。いま…珈琲を…」

「はる。いいょ。奥に行ってな。珈琲なら、俺が淹れるから…」

店の奥の事務室から、様子をうかがっていた翔平が出てきて、春海の肩を抱き寄せると、そっと春海を店の奥へと連れて行った。

あまりの春海の動揺ぶりに茫然としていた航と美沙子のもとに、翔平が戻ってきたのは、春海を奥の部屋に連れて行ってから5分ほどもした頃だったろう。

「驚かせちゃったね。悪かったな」

「春海さん、どうかしたんですか?」

心配そうに尋ねる美沙子をカウンター席にいざなって、翔平はまだ茫然と立ちつくしている航にも

「キミも座ってよ」

と言った。

「僕たち、何か悪いことしちゃったのかな?」

「…いや。まだ、はるのヤツ、引きずっているんだな。君たちは悪くないょ」

理由が分からず航と顔を見合わせていた美沙子が、何か気がついたかのように呟いた。

「あっ…もしかして、幸司さんのこと…?」

「…?幸司さんって?」

「春海さんの恋人だった人よ。お花の仕事をしていたの…」

美沙子は翔平に尋ねかけるような視線で、その先は口ごもってしまった。

「俺が話そうか…」

翔平は店の扉を閉めると“close”の札を下げてからカウンターに戻ってきた。

しばらくは黙ったまま、珈琲を淹れる。

「…どこから話そうか?はるの気持ちもあるから、俺に言える範囲でしか話せないけど…」

「……」

「幸司さんは、はるの恋人だった。いつも店に花を届けてた。さっきのキミみたいに両腕にいっぱい花を抱えてやってきた。いつもとびきりの明るい声で…『はるに春を届けに来たで!』って。

…ずっとふたりで一緒にいるはずだった。…あの雨の日の事故で突然亡くなる日まで…」

そういえば春海のブログに載っていた突然いなくなってしまった大切な人、というのがその恋人なんだろう。

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夢で逢えたら 31

…突然の春海の涙の訳を翔平が小さな声で話し始めた…

そこには航が知らない、BLOGの記事にもなかった春海の辛い過去の話だった。

もちろん美沙子も知らなかった話しばかりだった。

翔平からは、今は亡き幸司と春海の出逢いから~二人の輝いていた日々のこと。

そして、あの雨の日に…突然の幸司の不慮の事故による『死』によって

春海が闇深く沈んでいき魂が抜けた日々が続き…

祖母のみすゞなどか…ずっとそばにいて支えとなったおかげで少しずつ立ち直り

やっと明るさを取り戻してきた…

そんな春海の葛藤の日々のことを翔平が淡々と航と美沙子に話していると…

奥から~春海が少し照れくさそうに現れた。

春海>ミサちゃん、航さん、ごめんね。

航さんが花を持って来てくれて花の間から覗いた航さんの顔がコウちゃんに似て

いたから~つい…自分自身を見失ってしまって…

美沙子>大丈夫? びっくりしちゃいました。

今…翔平さんから~春海さんと幸司さんの話を少し聞いてました。

幸司さんが…お花の仕事をしていたから…きっといつもこのお店に花を届けてくれて

いた面影がまだ、残っていたのですね。

ふたりの会話を聞いていた航は静かに話しはじめた

『大切な人が突然、この世の中から消え去ってしまうということは経験した人でなくて

はわからないと思います。』

『特に恋人や家族なら尚更です、春海さんもきっと自分自身が…

これから何を支えに生きていけばいいのか? 何も見えなかったんでしようね、

きっと…でも、幸司さんが愛していた花をこのお店の名前にし…

BLOGも花を中心としている…花に囲まれることによって気持ちを静めてきたんじゃない

かって思います。』

『あっ、ごめんなさい…勝手に感じたままのことを話してしまいました。』

この時、春海には自分の気持ちを理解してくれている伊集院 航という一人の男性の気持ちの深さを知った。

なぜなら…彼にも過去に辛い別れがあったことを春海はブログで知っていたから

そして…今度は航が話しはじめた

『実は…僕も大学時代に付き合っていた彼女と山梨に旅行に行った時に目の前で

彼女が車に跳ねられて即死したんです。

つい数秒前まで目の前で笑顔でいた人がこの世からいなくなるっていうことは普通で

は有り得ないことで…

僕も、立ち直るのに一年くらいかかりました、その際、母や今日結婚した姉さんたちが

いつもそばで支えてくれました。

今でも…彼女のことは忘れてはいません、でも…ダメなんです少しずつ彼女の顔や

声の記憶が薄れていくんです自分ではどうすることも出来ないんです。

最近…やっと、彼女のことは大切に心のトランクにしまって新しい旅に出なきゃって思えるようになりました。

今日…結婚式の合間で姉から最後の言葉をもらって改めてそう考えました。

良く言われますが『人』という字は支えあっている…っていいますよね。

春海さんも、これまでたくさんの人たちに支えられて来てると思います。

幸司さんのことは忘れる必要はないですょ。

大切にしていってあげて下さい。

でも、一度しかない人生だから…こうしか生きられなかったという人生ではなくて、

~こうも生きられた~という人生を歩んでいって欲しいって僕は思います。


航の言葉を三人は、ただ黙って聞いていた。すると…美沙子が…

美沙子>ホント…春海さんも航さんも同じような経験をされているから気持ちが分

かるんでしようね。

私も春海さんには同じ女性として航さんが言ったような生き方をして欲しいって思います。

翔平>あれ?…珈琲が冷めちゃったね…たてなおしましょう。

『あっ~すみません…つい長話をしてしまって。』

すると…ずっと航の話を聞いていた春海が口を開いた…

春海>航さん…ありがとう、大切な人を失って辛い辛いってずっと思ってきたの、

でも、今日、航さんの話を聞いて思いました。

いろんなものを背負ったり、辛いことを引きずって生きているのは私だけじゃない…ってこと。

改めて感じました。

そうですよね、一度しかない人生だから~自分自身を大切にしなきゃ亡くなった人に申し訳ないですもんね。

私もだいぶ歳をとってしまったけど、しっかりと前を見て頑張って生きていきます。

本当に…ありがとう。
今日、ここでこんなことがなければ、私はきっとずっと今までの弱虫のままだったのかも

しれない…

美沙子>本当に…良かった。今日、ここに来たこと…

春海さんだけじゃなくて航さんも夢持って頑張っていきましょうね。

『そうですね…美沙子さんもね。』

翔平>さぁ…温かいのが入りましたょ。

話も…落ち着いたみたいだし…今日の結婚式の話でも聞かせて下さい。

そう翔平が話すと4人は…やっと笑顔になり、航の姉、遥の式の話をいろいろとしながら…

4人とも独身ということもあり…

それぞれに、理想の結婚願望などを話し、最後には笑いが飛び交うくらい盛り上がっていった。

花言葉に着いて二時間ほどの時間が過ぎたころ

美沙子>あら? もうこんな時間~

『ホントだ…だいぶ予定より長居しちゃったね。そろそろいきますか?

そういえば、明日は僕…浜名湖ツアーの運転で少し早いんで…いきますか?


春海>そうだったんですか…だったら遠慮しないで言ってくれれば良かったのに。

『いぇ、いいんです、今日は僕にとってもここに来たことはとても意味があったので構いません。

それに翔平さんの美味しい珈琲もいただけたし。』

春海>また、お仕事お休みの時にでもゆっくりいらして下さい。

『はい…まだ、紅茶のシフォンケーキ食べてないですしね。楽しみにしています。』

美沙子>じゃあ~帰ります。ごちそうさまでした。

そう、春海たちに挨拶して、航と美沙子は鎌倉の街を後にした

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夢で逢えたら 32

姉の遥の結婚式の日に“花言葉”に行ってから、航はたびたび“花言葉”を訪れるようになった。

休みの日にひとりでぶらっと立ち寄ることもあれば、美沙子が一緒なこともある。

店では、あの日の涙が嘘のように、春海がいつも温かい笑顔で迎えてくれた。

よく行くようになって、改めて春海の人柄がわかる。

付かず離れず…程よい距離感を保って、客たちの相手をしている。

それは春海だけでなく一緒に働いている翔平も同じようにしているので、この店自体の雰囲気が、航にとって

とても居心地のいい場所となった。

梅雨が明け、暑い夏もそろそろ終わり…また春海の好きな季節がやってくる。

秋の鎌倉も、どこか淋しげだけれど春海は好きだ。

とはいえ、まだ9月は夏の名残がとても色濃く残っていた。

「こんにちは。暑いですね~」

「航さん、いらっしゃい」

航がいつもの指定席のカウンターの席に腰掛けると、奥の部屋から彩夏が顔を出した。

「あら、こんにちは!」

「やぁ、お久しぶりです。お芝居頑張ってますか?」

「うん、でも年内は予定がないから…アルバイトばっかりよ」

「また公演の予定があったら教えてくださいね」

「えぇ、ぜひまた観にきてね!」

航の言葉に彩夏は嬉しそうに応えた。

「ところで、お姉ちゃん。やっぱりどうしても無理だわ」

「どうしても都合つかないの?」

「ごめんね!やっぱり誰か他の人を誘って…」

急に話題が変わって、航は面食らってしまった。

春海が説明してくれたところによると、彩夏が出した映画の試写会のハガキが当たって、姉妹ふたりで観に行くつもりでいたのだけれど、急に彩夏に予定が入ってしまって観に行けなくなってしまったのだという。

試写会はペアで行くことが条件だったので、誰か代わりに行く人がいなければ無駄になってしまうらしい。

「何ていう映画ですか?」

「たしか…韓国映画のリメイクらしいんだけど…『イルマーレ』っていったかしら?」

「あぁ、サンドラ・ブロックとキアヌ・リーブスの…」

春海の言葉に、航が頷くと、春海は目をまあるくしてつぶやいた。

「航さん、よく知ってるのね」

「いゃ、みんな知ってますょ。そうか、試写会に当たったんだ…

美沙子さんや翔平さんに聞いてみたらいいんじゃないですか?」

航が思いついて言うと

「翔ちゃんは、そらちゃんの遠足だから…」

と、春海。

「ミサもお店が忙しいから無理なのよ」

と、彩夏。

ふたりの視線が自分に集まっているのを感じて、航はちょっとどぎまぎしながら

「それっていつなんですか?」

ときいた。

「来週の日曜日のお昼過ぎ」

「来週…また、急ですね」

「航さん、その日って空いてない?」

彩夏が身を乗り出すようにして聞いてくる。

「来週の日曜日は…仕事明けかな?2.5泊で朝帰着だから…」

「横浜なんだけど、これない?」

「いゃ、順調に帰りつけば余裕ですけど…僕でいいんですか?」

航は彩夏にではなく、春海に聞いた。

実際に行くのは春海だし、自分でなくともまだ他に誘える人がいるかもしれない…と思ったからだ。

「お仕事明けじゃ、疲れてるでしょ?アヤったら、無理にお願いしたら悪いわ」

「いゃ、僕のことは気にしなくていいですょ」

航がそう言うと、春海も彩夏もホッとした顔で

「そう?ならぜひ、お願いします」

「お願い!航さん。お姉ちゃんに付き合ってあげて!」

と頭を下げられた。

「やめてくださいょ。そんな…こっちこそ、本当に僕でいいのかな…」

「航さんじゃなきゃ!そういえば、ミサに言われたんだった。

『もしアヤが行けなくなったら、航さんと行ってもらうのがいい』って!」

参ったな…と思いながらも、山中湖や箱根の時のように、“花言葉”にいるのとは違った春海に出逢えるのも、楽しみかもしれない…と思った。

試写会の日、航は順調に仕事を終え、余裕をかなりもって家を出てきた。

試写会が昼過ぎなので、早めに桜木町の駅で待ち合わせて、航が春海を拾って会場に向かう。

先にランチをしてもいいだろう。

そのつもりでいたのに、途中から道が混みだして、とうとう動かなくなってしまった。

まだ試写会の時間までは間があるけれど、このままでは春海を一時間近くは待たせてしまうことになりそうだった。

「参ったなぁ~。かなり余裕をみて出たのに…こりゃあ、逢ったらすぐに平謝りに謝らないと…」

航は道路情報に耳を傾けながら、教えてもらった春海の携帯へメールを送った。

『なんとかして早く着くようにするけど、約束の時間には大幅に遅れてしまいそうです。本当に申し訳ない…』

しばらくして春海から返信のメールが届いた。

『気にしないでいいですょ。仕事明けで疲れているでしょ?気をつけて来てくださいね。待ってます』

約束の時間に遅れることを、責められても仕方ないと思っていたのに、春海は逆に航のことを気遣ってくれている。

(春海さんが怒るところって、あんまり想像出来ないもんな。…それにしても…え~い、早く動け~!!)

航の想いが通じたのか、やがて少しずつだが車が流れ出した。

一方の春海の方はといえば、航がヤキモキしているほど約束の時間に遅れてくることは気にしていなかった。

逆に仕事明けでまっすぐ横浜に向かってくれている航に対して、申し訳ない気持ちがあって、気にしなくていいからゆっくり来てほしい、と思っていた。

それでも航はきっと、ここに来たら平謝りに謝るのだろう。

まだ、数えられるほどしか航と言葉を交わしてはいないけれど、春海にはなんとなくわかる。

数回交わしただけの言葉の端々から…伊集院航という青年の優しさ、大らかさ、すべてのものに対するまっすぐな愛情…そんなものが感じられて、気がつくとどこか航に惹かれている自分がいた。

彩夏や美沙子は、そんな春海の心の動きに気づいていたのかもしれない。

(私自身が気づいてなかったのに…)

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夢であえたら 33

『マジでヤバいょ~全然動かないや。』

渋滞に巻き込まれた航は初めてのデート?と呼べるのかは別として
このままだと一時間以上も春海を待たせてしまうことが凄く気がかりになっていた。


『大丈夫…って言ってても…初めてでこんなに待たせるなんて最低だょなぁ~
印象悪くなるよなぁ~ちょっと携帯で渋滞情報を調べるか?』

『う…ん?え~っと…よっし!このルートに賭けよう~』

そういうと航は横浜へのルートを変更した。

そして、そのルートは想定外に空いていた…とはいっても、この時点ですでに
30分近く過ぎていた~

…と、その時、春海の携帯に航から…Mailが入った。

『春海さん、ごめんなさい~今、やっと空いてる道を見つけたので30分はかからな
いかと思います、ホント待たせてスミマセンm(_ _)m』

春海>航さんって本当に真っ直ぐで真面目な人なんだ。いまどきなかなかいないよなぁ~

そう思いながら~航にレスした。

春海>航さん、大丈夫ですょ。桜木町の駅構内のお店でcoffeeしながら~
本を読んでますから~…と送った。

その後…何度か航から…『今…○○○あたりです~』と、位置を教えてくれるMailが
何回もあったので逆に春海も…徐々に近づいてくる航に対してこれまでにはない感情を抱いていた。

そしてようやく航が到着した。
桜木町のバス停で車に乗った春海にただ…ひたすらに謝る航だった。

春海>航さん…もういいわょ。こんなことは誰にだってあるから~航さんは早めに出たんだから
大丈夫ですょ。  気にしないでね。

でも…映画の時間まであまり余裕がないから…いきましょ!

『はぃ、ごめんなさい…本当は映画の前にお昼って思ってたんですが…予定…狂っちゃった。

春海さん、映画の後でお昼いいですか?…ってそれしかないですが…(^_^;』

春海>はぃ…はぃ…大丈夫ですょ。それより安全運転でお願いね!

『はい、わかりました。スミマセン…』

そう話ながら…ふたりは~みなとみらいの中にある映画館へと辿り着いた。イルマーレ
上映時間の10分前でギリギリセーフだった。

チケットをもらい座席に付いてやっと航も~ほっと~した顔になった。

そんな航の横顔を見ていた春海は、クスッと笑っていた。

やがて映画イルマーレが始まった。それは~ひとつのポストが織りなす絶対にはあり得
ない場所にいた二人が時空を超えて出逢うといった内容だった。

そして…いろんな言葉を交わしていくうちに互いに惹かれあっていく…

春海は、映画のストーリーに航と自分を重ね合わせて見ていた。

一方の航はというと、春海の手が妙に気になって仕方がなかった…

『こういう時って…手なんて握ってもいいのかなぁ~でも、びっくりされても困るし~

それにしても、こうして良く見ると春海さんの指って細くて綺麗だ…思わず握ってみたくなっちゃうょ。』

そして映画は…いい感じで二人が逢えて終わった。

映画館を出た二人は~

春海>航さん、どうでしたか?イルマーレは?

『はぃ、韓国版を先に見ていたので見比べてしまいましたね。僕は韓国版のほうが良かったって

います。でも…今回のは、今回のでまた変わった感じもあり良かったですょ。』

『それより~お腹が空きましたね。そうだ!春海さんはお寿司は好きですか?』

春海>はぃ、大好きですょ。

『じゃぁ…ここの一階に゛三崎港゛っていう美味しいお寿司屋さんがあるんですが、

そこに行きませんか?僕がおごりますょ。』

春海>お寿司はいいけど…ご馳走になるのは悪いから~割り勘にしない?

『いいぇ、今日は…たくさん待たせてしまったし、映画はタダだったし…僕にも何かさせて下さいょ~そうしないと気がすまないですょ~。ねっ!』

春海>はぃ、わかりました…では遠慮なくご馳走になろうかしら~

『よし!決まった。じゃぁ…早速行きましょう~』

ふたりは…少し遅いお昼を済ませたあと店を出た。

春海>航さん、ご馳走様でした、美味しかったわ。ネタも大きかったし。
ねぇ、今日は何か予定はあるの?

『いいぇ…今日は春海さんと逢うから~何も予定はないですょ、どこかこれから行きますか?

今日は、遅刻したお詫びにどこでも付き合いますから言って下さい。』

春海>ありがとう。じゃ…食後の散歩でもしませんか?

『はい、喜んで…o(^-^)o』

…そう話すとふたりはたわいもない話をしながら赤レンガ倉庫~大桟橋~と歩くことにした。

赤レンガ倉庫あたりに行き、ベイブリッジを見ながら話していると…航は誰かに肩を叩かれた…

Excuse me.…と若い外国の青年だった。

航は…仕事柄、多少英語は話せるので応対し…ベイブリッジをバックに写真を撮ってあげた。

Thank you.…といいながら白人男性は手を振り他に移動していった。

春海>航さん、スゴい~外国の人と普通に話していた。

『 いいぇ、片言の英語ですょ、仕事柄必要かと思い、以前、『駅前留学』ってやつをして

いたんですょ。

春海>でも、スゴいわ、見直しちゃったー

『そう言ってもらうと嬉しいですね、ありがとうございます。』

その後~航の希望で大桟橋に行った。

大桟橋のウッドデッキで海原を見ながら、航は~

『僕は、この場所が好きなんです、この場所から~いろんな人たちが出発(たびだつ)んだって

思うと、僕も何かあった時はいつもここに来て…リセットするんです。』

春海>そうですね、そういえば、私は一回だけ来た記憶があるわ。

『幸司さんとでしょ?』

春海>えっ?何で分かるの?

『春海さんが見つめている遥か彼方に…幸司さんを見る目になっていたから~』

春海>あら~そんな目してた?

『はい、そうそう…今から戻って観覧車に乗りませんか?もっと高いところから~海見ませんか?』

春海>そうね。せっかく来たんだもの、乗りましょうか?

そう話したあとふたりは大観覧車へと向かった。

チケットを買って階段を登ると記念写真撮影があった…

とりあえず…みんな撮影しているので航たちは写真に収まった。

そして…二人の観覧車の番になり乗り込んだ…

最初、春海と向かい合わせに座ったが…

『春海さん…スミマセン僕の横に座ってもらっていいですか?』

春海>あら、どうして?

『いぇ…前に座っていると恥ずかしくって…お願いします。』

春海>あら…私は大丈夫ょ~でも、どうしてもって言うなら仕方ないわね。

そう言うと…春海は航の隣に座った。

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夢で逢えたら 34

航と春海、ふたりを乗せた観覧車は少しずつ上昇していった。

すぐ下のコスモワールドの乗り物がとても小さく見える。

ふたりが並んで座ったので、まず見える方向は海とは逆の方向だった。

すぐ近くに日本丸が小さく模型のように見える。

さっきまでわりと気軽い感じで話していたのに、並んで座ったとたん、ふたりとも急に黙り込んでしまった。

どちらからともなく緊張がふたりを包んでいるようだった。

先に沈黙を破ったのは航だった。

自分の左側に、猛烈に春海の存在を意識しながら、航は座っている位置の後ろ側…海の方を振り返った。

隣の春海側から振り返って見るのが自然なのに、意識しすぎたせいか、逆の右側から後ろを振り返ってみたせいで航の姿勢はとても不自然だった。

「ほら、春海さん。さっきまでいた赤レンガ倉庫や大桟橋まで見えますよ」

「本当だわ。小さくっておもちゃみたい…」

春海も同じように姿勢を変えて、振り返って海を眺めている。

が、ふと視線を航の左側の横顔にむけて、小さく呟いた。

「…どこか遠くにいきたいな…」

「えっ!?」

春海のつぶやきは小さかったけれど、航の耳元で囁いたような感じになってしまっていたので、航は思わず振り返って春海の顔を見つめてしまった。

春海の瞳は遠くのどこかを見ているようでもあり、航の胸のうちを見つめているようにも…航には感じられた。

なんて淋しげな瞳をしているんだろう…

もしかしたらこの観覧車にも、春海には幸司との忘れられない思い出があるのかもしれない…。

なぜだか、航にはそんなふうに思えてきて、この前の、航の顔を見て突然泣き出した春海の顔が思い浮かんできた。

春海のことが、とても頼りなげな幼い少女のように思えて、航は思わず春海を抱きしめたい衝動にかられた。


春海の…航の口元あたりに向けていた視線が、ふっと航の視線を捉えたとき、航は思わず左腕をそっと春海の細い肩にまわした。

「…肩、抱いてもいいかな?」

コクン、と春海が頷くのを感じて、航はそっと優しく春海の肩を抱き寄せた。

「…遠くに…行きたいの?」

「……」

航の腕の中で、春海が小さく震えている。

そんなふうに感じながら、航は次にかける言葉を探していた。

「…少し疲れちゃった」

「力を抜いて…僕に寄りかかっていいょ」

「ごめんね…。やさしいのね…」

「そんなふうに気にしないで…」

「…なんだか、航さんといると、肩に入ってた力が抜けて…自然な自分に帰ったような気がしてるの…」

それは航にとっても、同じように感じていた。

初めて春海と言葉を交わした時から感じていたことだった。

航はしばらくそうして、春海の次の言葉を待っていたけれど、それきり春海はまた黙り込んでしまった。

航の左の頬にあたる春海の柔らかい髪の毛が、春海が少し身動きするたびに航の頬をくすぐるように揺れていた。

観覧車のゴンドラの中は静寂に包まれて、互いの鼓動さえも聴こえてきそうだ。


航がふっと顔を動かしたのと、春海が航の顔を見上げるように視線をあげたのがほとんど同時だった。

航の視線を捉えて、春海がそっと瞳を閉じる。

その唇に航がそっとくちづけをした時…ふたりを乗せたゴンドラは、観覧車のいちばん高いところにきていた。



“観覧車のいちばん高いところでkissした恋人同士は、必ず幸せになれるんだって!”


不意に航はかつて深雪が言っていた言葉を思い出した。

深雪とは何度か一緒に観覧車に乗ったけれど、他の人と一緒だったりして、観覧車のてっぺんでkissしたことはなかった。

そう言って、いたずらっぽく笑った深雪の笑顔と、航の腕の中で今恥ずかしそうな表情を見せている春海の横顔が、航には同じように見えた。

「…あっ」

春海の小さく漏らした声に、航が春海の視線の方向をたどると、目の前に見えるランドマークタワーが茜色の光に照らされていた。

「魔法をかけたみたい…」

本当に春海の言うとおりだ、と航は思い、抱き寄せた春海の肩をもう一度強く抱きしめた。



ゴンドラが下に着くまでふたりともただ黙ってそうしていた。


自分よりずっと年下の航にいつの間にか心惹かれていたことが、春海には不思議だった。

航は若い。けれど、春海をすっぽりと優しく包み込むような…安心感を抱かせてくれる。

まさかこうして航とkissしてしまうような事態になるとは思ってもいなかった。

けれどそれは、無意識のうちに春海自身が望んでいたことだったのかもしれない。

それとも、夕焼けの観覧車なんていうロマンチックなシチュエーションに、そんな気になってしまっただけなのかもしれない。

春海はそう思って小さく吐息を吐いた。



観覧車から降りると、春海はさっきまでの緊張感が無かったかのような笑顔で航に話しかけてきた。

「航さん、“雪の華”って曲知ってる?」

「中島美嘉ですよね?いい曲ですよね」

「うん。中島美嘉の“雪の華”もいいけど…ちょっと前…7月にね、徳永英明がカバーしてCDを出したの」

「へぇ~…それはまだ聴いたことがないな。でも、男性の気持ちを歌った曲だから、いいかもしれないですね」

徳永英明は深雪が好きだったので、航もよく通勤の車の中などで聴いていた。

が、深雪が逝ってからはあまり聴くこともなくなっていた。

「春海さん、徳永英明好きなんですか?」

「えぇ。特にこの曲を聴いてからは、やっぱりいいなぁ~って思って。でね、先月…8月末にこの曲も入ったアルバムを出したのよ。前にも同じように出してるんだけど、女性ボーカルの曲ばかりをカバーしたアルバムなの」

そう言うと春海は少しいたずらっぽい表情になって

「でね、今日持ってきてるの。航さんの車でかけてくれると嬉しいんだけど」

「いいですょ。僕も聴いてみたいし…。少し曲を聴きながら、ドライブしましょうか?」

やがて静かな車内に“雪の華”のメロディーが流れてきた…。

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夢で逢えたら 最終回

『了解…じゃぁ~車に乗ったら聴こうね。』

『ところで…春海さんは今日は時間は何時まで大丈夫なの?』

春海>はぃ、もう全然大丈夫ですょ。ねぇ…まだ、このあたりを歩きたいなぁ~

『じゃぁ~僕…行きたい場所があるんだけど…いいですか?』

春海>いいですょ。ねぇ…どこなの?

『月並みな場所ですょ…じゃぁ~徳永英明を聴きながら移動しますか?』

そう航が話すと…車を停めあるワールドポターズまで歩き始めた時…

航の左手に…春海の右手が…すーっと入ってきた。

春海は…

春海>いいよね。ホントはね…観覧車を降りてから…手を握りたかったの~

そう…小さな声で航に話しかけている春海の顔は、まるで無邪気な子供のように、これまでにない笑顔だった…


そんな春海を見て航も強く春海の手のひらを握りしめた。

二人は車に乗り込み~一路…航の行きたい場所へと向かった。

車内では…徳永英明の『雪の華』が…流れ始めていた…



『のびた人陰を 舗道に並べ 夕闇の中を君と歩いてる

手を繋いで いつまでもずっと… そばにいれたなら 泣けちゃうくらい… 』


春海>どう? 徳永さんの雪の華は…

『うん…いい感じだね…春海さんは徳永英明は好きなんだ?』

春海>うん…ずっと前から好きですょ。

『他には…誰が好き?』

春海>古いとこだと…さだまさし、国安修二とか?最近では、福山君なんかもいいなぁ~o(^-^)o

『そうなんだ…さだまさし、は姉さんや母さんが好きで家にいる時は家事しながら~歌を流していたなぁ~

国安なんとかは?知らないなぁ?』

春海>また、CD貸しますょ。迷惑でなかったら…

『はぃ、是非とも聴かせてください。』


そう話しながら…車は山手エリアへと向かっていった…


そして到着した。駐車場に車を止めて行った先は…

みなとの見える丘公園だった…


…と、この場所について横浜の海を見ながら

春海は…急に黙ってしまった…

航には…春海が何を想っているのかは…春海の横顔を見てわかっていた…

春海>この場所に…もう一度来るとは…思わなかった…

『幸司さんですね…』

春海>はぃ…そうです、彼と…彼が亡くなる前の日に彼がここへ連れてきてくれたの。

『春海さんは、その時のことを思い出していたんですね。』

春海>ごめんなさい…せっかく航さんが好きな場所に連れて来てくれたのに~

『いいんです、人は皆、忘れようとしても縁に触れて想いだしてしまうことってあります。』

『ましてや…愛する人のことなら尚更ですょ。無理することはない…僕は…ちょっと下の公園あたりを

歩いてきますね…』

…そういうと、航は春海の言葉を聞かずに…春海から離れて歩き始めた…

五分ほどした時…航は雪の華を鼻歌まじりで口ずさんみながら暮れかけた空を見上げながら公園内を

歩いていた時…


航の左手に…冷たい春海の右手が入り込んできた

『おっ!もう…ダイジョウブなんですか?』

春海>はい…ひとりにしちゃってごめんなさい…私…何してたんだろう…

『いいんですょ…僕は春海さんのキモチわかっているつもりですから…』

春海>…ありがとう…航さんは…優しすぎるくらい優しい人なのね。

ねぇ…この繋いだ手…もう少し…このままでいいですか?


いつもの春海ではないよな行動であった…

そこには…亡き幸司ではなく 航への想いから~そう話したのだろう。

『いいですょ…僕なら構いませんよ。幸司さんの代わりにはなれないけれど…』

そう話すと…二人は何も語らずに横浜の海を眺めていた…

『もう…大丈夫かな?』

春海>あっ!?ごめんなさぃ。つい…ぼぉ~っとしてしまって…

そう話すと春海は、ゆっくりと航の手から~自分の手を離そうとした…その時…


航が…離れようとした春海の手を強く握りしめてきた…


春海が…えっ?っと思った瞬間! 航が春海を優しく抱きしめてきた…


春海>(えっ?どうしたの…航さん…ドキドキしちゃうょ…何が起こったの?)

そう…心の中で起こったことの意味が分からす…春海は…ただ…そのままで立ち尽くすしかなかった。



やがて…春海も航の背中に手を回し…カラダを預けた。

航も…何も話さずに…とれくらいの時間がたったのだろう~二人にとっては、もの凄く…長い時間に

感じられた。


『春海さん…僕はずっと…ぬくもりを探していたのかもしれない。

自分と同じものを持っている人と出逢うことを…』

『僕の中には、ずっと…あの日の深雪が消えないでいた。』

『でも…あなたと出逢ってからは~深雪のことが…思い出に変わりはじめて夢にも出てこなくなった。』

『そして、ずっと同じような夢ばかりを見るようになった…そこにはいつも顔が見えない女性がいた

…夢の中で何度も何度も…

君は誰?って聞くんだけど…彼女は答えてはくれない…

そして、いつしか僕は…『夢で逢えたら』って強く思うようになってきた…

でも、今…わかったんだ…夢で逢っていたのは、春海さん、あなただったんだと…

こうして抱きしめて初めてわかった。』

『春海さん…もう少し、このままでいいですか?』

春海>はぃ…

実は…私も何度か…今…航さんが話していた夢と真逆な夢を見ていたの。

亡くなった…幸司の夢も、その夢を見始めてからは見なくなったの。

夢の中の…その人はいつも…こう話しかけているの…『ずっと…待っていますょ…と』

でも、私も今…こうして航さんの胸の鼓動を聞いて…

きっと、夢の中のあの人は…航さんだったんだって。

そして私も何度となく…『夢で逢えたら』って思って眠りについたことか…

『そうだったんですか? 僕らは、こうなる前に『夢で逢っていた』ってことですね。

春海>そうですね…きっと互いの今は亡き、大切なパートナーが引き合わせてくれたのかもしれないですね。

『そうですね…だとしたら…もう離れないでいたい…』

そう航が話すと…そっと春海にkissをした。…



~fin~

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